第31話 ルールを破る

Side:ソル・ソードマスター


「きゃあああああ!」


 くっ、地竜の他に人がいるのか。

 しかも声はかなり若い。


「来ないで!」


 地竜の前に出た。

 素早く状況を把握。

 悲鳴を上げてたのは女の子。

 妹のルーナと同じぐらいの歳に見える。


 放り出された籠があるから、きっと山菜で摘みに森に入ったのだろう。

 足が腫れあがっているのが分かった。

 逃げている最中に捻挫でもしたか。


 地竜はヒュージボアを食べている最中。

 これなら少しは時間的余裕がある。


 あたいは、唇に指を当てて、静かにしろと合図を送った。

 無言で頷く女の子。

 上手くあたい達が逃げられればいいが。


 女の子に肩を貸してやりたいが、そうするとあたいが戦えない。

 さて、どうする。


 地竜はヒュージボアの死骸を一挙に飲み込んだ。

 くそっ、万事休すか。


「ひっ」


 声を立てるなと言っても子供では地竜が目の前にいたらこうなるよな。


「がぁぁぁぁ!!」


 地竜が吠えた。


「ひぃぃぃぃ!」


 地竜が次の餌はお前だとばかりに女の子を見る。

 仕方ない。

 あたいは剣を抜き、女の子を背に、地竜の前に立ち塞がった。


 地竜があたいを認めて大口を開いた。

 こいつ、冒険者がどういう存在か分かっている。

 強敵だと。


 地竜が深呼吸。

 不味いブレスがくる。

 地竜のブレスは岩石の握り拳ほどのつぶての集合体。

 しかも、このつぶて、魔力がこもっている。

 これに対抗するのは容易ではない。


「がぁぁぁ」

「【一撃必殺剣】」


 あたいのスキルは地竜のブレスを引き裂いた。

 くっ、本体にダメージなしか。

 さすがSランクモンスター。


 感心している場合じゃねぇ。

 ルールの事が頭をかすめた。

 だが、地竜はいまブレスを吐いて隙がある。

 攻撃しないでどうする。


 ルールではクールタイムが終わるまで、防御か逃げだ。

 あたいはルール守って大人しくするなんて柄じゃない。


 あたいは剣を地竜に打ち付けた。

 折れる剣。

 くっ、ルールを破ったバチがあたったか。

 さっきのブレスを引き裂いたときにひびが入っていたらしい。

 折れた刀身とほんとんど柄の剣を手にいったん下がる。


 地竜は頭が良い。

 たぶん、ブレスで仕留めた方が安全だとクールタイムが終わるまで待つつもりだ。

 あたいの方が早くクールタイムが終わっても、この剣じゃ、スキルを使っても仕留められるか分からない。

 死亡フラグを甘く見てた。


 とりあえず、攻撃用魔道具を撃ってなんとか目ぐらい潰すか。

 くの字の形をした攻撃用魔道具を撃ちまくる。

 10個の魔道具を撃ったが、目を潰すどころか、傷ひとつついてない。


 死ぬのか。

 それとも今からルールを守って女の子を置いて逃げるのか。


 女の子はまだ若い。

 こんな子を置いて逃げたら、あたいは自分を許せなくなるだろう。

 二度と冒険者を名乗れないかも知れない。


 そうか、切り札があった。

 剣を鞘に納めて使うのだな。

 折れた剣を納めて、魔道具を起動する。

 どうせ切り札は一回なのだろう。

 地竜のブレスがきたら使おう。


 鞘のまま剣を構えた。


「がぁぁぁ」


 地竜が深呼吸した。

 ブレスが来る。

 一撃必殺剣のクールタイムが終わった感触が。


「【一撃必殺剣】」


 鞘から抜き放った剣は、元通りに直ってた。

 それどころかあたいの斬撃はブレスを切り裂き、地竜本体も大きく切り裂いた。


 剣を見ると新品に戻っているようだ。

 自己修復の鞘か。

 準国宝クラスの魔道具だな。

 将軍ぐらいの地位の者がもつのが相応しい一品だ。


 シナグルの奴、お代は貰っているなんて言っていたが、こんなのと釣り合う金額なんて払った覚えはない。

 まあ、この地竜を売れば払えるだろう。


「ありがとう、ございました」

「お礼は良いさ。災難だったな。歩けるか」

「無理みたいです」

「ポーションだ。飲め」

「こんな高いポーションだと、お代が払えません」

「良いって、地竜の素材でお釣りがくる」

「でも、私、何にもしてないし」

「あたいの、覚悟の糧になってくれた。お前がいなかったら、きっと逃げてやられていたな。立ち向かう勇気を貰ったんだよ。それはポーション代ぐらいの価値がある」

「そうですか。いつか必ず返します。お名前を教えて下さい」

「Sランク、一撃のソルだ」


 ポーションを飲んで歩けるようになった女の子を村まで送り届けた。


 あたいは金輪際ルールは破らない。

 一撃必殺剣を外したら、クールタイムの間は攻撃しない。

 そして新たなルールを付け加えた。

 守るべき人がいたら、逃げない。


 ギルドの買取場に行くと馴染みの職員が迎えてくれた。


「ソル様、ヒュージボアは仕留められましたか」

「それなんだが、地竜の腹の中さ。いまから地竜を出すから、討伐部位は腹の中から出してくれ、これは苦労賃だ」


 あたいはそう言って金貨を1枚投げた。

 収納の魔道具から地竜を買取場前の広場に出すと歓声が湧いた。


 地竜の尻尾の良い所の肉をシナグルに持って行ってやろう。

 きっとあたいに惚れ直すぜ。

 それにしても死亡フラグって奴は厄介だな。

 戦いの前に絶対に惚気話はするまい。

 そんな話をしている奴がいたらなんとしても死亡フラグを消してやろう。


 妹弟に良い土産話ができた。

 死亡フラグに気を付けろとな。

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