第32話 代金の出所
Side:ソル・ソードマスター
家に帰って妹弟の無事を確認する。
一番上の妹、ルーナ。
しっかり者。
その下の弟、イオ。
ちょっとおっちょこちょい。
その下の妹、ディテ。
裁縫が得意。
その下の弟、ジュピ。
泣き虫でよくいじめっ子にやられている。
その下の弟、ムー。
喧嘩っ早い。
その下の弟、マー。
いつもニコニコと笑っている。
その下の妹、キュリ。
お洒落。
その下の妹、テア。
歌が好き。
末っ子の弟、テル。
末っ子なので特に可愛い。
うん、全員いる。
「今日は、シナグルからお土産の菓子を貰ってきたぞ。チョコというらしい」
あたいは収納魔道具からチョコを取り出した。
妹弟達に配るとみんなで食べ始めた。
「溶ける」
「甘ーい」
「なんて美味しいの」
「これだけで生きていける」
「どこで売っているんだろう。お小遣い貯めて買いたいな」
「何で出来ているのかな」
「チョコ。ちょこっと美味しいじゃ変だね。チョコっとたまげるかな」
「あーん、もう口の中からなくなった」
「美味しいね。こんなに美味しい物を食べたことがない。これならお小遣いがないのに耐えられる」
「小遣いがない?」
「しまった」
どういうことだ。
ルーナのぬいぐるみを手に取る。
触って中に堅い物がないか調べる。
ない。
接着剤でくっ付けられた陶器の貯金箱を振ると音がしない。
ディテのお気に入りの服を探るが、堅い物は入っていない。
ベッド下の木の小箱にも硬貨一つも入っていない。
庭の木の根元を掘るが何も出て来ない。
壁の穴から手を入れるが、何もない。
部屋の鉢の土を掘るが何もない。
テルのズボンのポケットを見るが何も入っていない
天井裏を見るが何もない。
全員が小遣いの隠し場所を変えたとは考えられない。
となると、ああ。
あたいは妹弟達を抱きしめた。
「お姉、苦しいよ」
「切り札をありがとう」
たしかに、この幼い妹弟達の集められた小遣いなら、準国宝の代金に匹敵する。
あたいは胸を張ってそう言える。
でも、小遣いの額は増やさない。
それが我が家のルールだ。
Side:シナグル・シングルキー
ソルが地竜の肉を持って来た。
死亡フラグは切り抜けたらしい。
「このタレは美味いな」
マイストが焼肉のたれに付けた焼肉を美味そうに食う。
そりゃ美味いだろ。
前世で美味いと評判の焼肉のたれだぞ。
「おう、そうだな」
ソルも肉をいっぺんに3切れもフォークで刺して豪快に食った。
「それは俺が育てた肉」
「育ててないだろ」
マイスト、育てたの。
炭火でじっくりね。
「シナグル、遠慮してるとなくなるぞ」
ああ、ソル、そんなにいっぺんに。
「俺が焼いたのは俺が育てたの。あっ、言っているそばから」
マイストも負けじと食った。
「それにしても死相が消えたのは、施しだったな。あれが決め手か」
「ふーん、そんなことが」
隙あり、やっと食えた。
施しの精神は良いよな。
だから、肉を俺に譲れ。
しかし、まるで逸話みたいだな。
善行して死亡フラグを消す。
施しもたまには良いかも知れん。
いや、俺って格安で魔道具を作っているよな。
あれって施しと変わらないんじゃ。
そうか、俺には死亡フラグは寄って来ないか。
「美味そうな物を食べてるね」
「うん、良い匂い」
マギナとスイータリアもやってきた。
「二人一緒とは珍しいな」
「そこで出会ったの」
「そういうことだね」
「あっ、あたいが焼いた肉」
「先手必勝だわ」
「ああ、お前ら。こうなったらジャンジャン焼いてやる」
「やめろ、煙でなんも見えない」
「工房が火事だと疑われるぞ」
マイストが出て行って、声を上げ始めた。
「皆さん、火事ではないから心配するな!」
もう、工房の中が煙だらけだ。
『Smoke removal』の『ラララ♪ラーラー♪ラーラーラー♪ラーララー♪ラ♪、ララーラ♪ラ♪ラーラー♪ラーラーラー♪ララララー♪ララー♪ララーララ♪』の歌の魔道具で煙を消せる。
使い所の限られる魔道具だが、まあ良いだろう。
スイータリアが面白がって何回も消煙魔道具を使っている。
元から絶たないと駄目だ。
俺は煙が消えた瞬間に肉を頬張った。
みんなも同じ考えらしい。
肉は瞬く間に胃袋に消えた。
ジャンジャン焼こう。
ふぃー、食った食った。
みんな腹いっぱいになった。
持って来た地竜の尻尾の胴回りは1メートルはある。
こんなの食いきれるわけない。
野菜も食わないとな。
ビタミン取るなら果物で良いか。
デザートが欲しかったところだ。
何にしよう。
物々交換魔道具でバナナを取り寄せた。
「シナグルは美味い物ばかり出す。もう食い物屋をやれよ」
「師匠、破門じゃないよね」
「だって。美味すぎるだろ。この黄色い果物とか」
「これなんて言うの」
「バナナだよ」
「人形の次にバナナ好き」
「あたいも気に入ったぜすんなり皮がむけるのがいい。こういうのが良いよな」
「私の文献にもこの果物はないですね。分かってます。心の故郷の食べ物だって言うんでしょ」
「おう、それ」
「あたいは美味けりゃなんでもいいぜ」
「食べ物屋はやらないよ。美味い物はたまに食うから美味い。毎日食ってたら美味い物がなくなる。そんな人生悲し過ぎるだろ」
たまに集まってわいわい食うのが楽しいんだ。
この関係が長く続けばいいなと思う。
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