第6章 友よ

第22話 国宝

Side:ケアレス・リード

 私はケアレス・リード。

 姓があることから分かるようにトレジャ王国の貴族だ。

 スキルをふたつ持っている。

 ひとつは疲労回復。

 もうひとつは疾駆。

 長い時間を走れる組み合わせだ。


 王国での普段の仕事は王城付属の伝令。


「リード卿、国宝の魅了の首飾りを持って来てくれるか」


 衣装係からそう言われて、札を渡される。


「承知いたしました」


 宝物庫まで速足で歩く。

 さすがに城の中では走れない。


 宝物庫の門番に、魅了の首飾りの札を渡す。

 門番は宝物庫に入ると魅了の首飾りを持ってきた。


 これが国宝か。

 好奇心がむくむくと沸き起こる。

 ちょっと見てみよう。


 箱を開けて中を覗く。

 国宝だけあって素晴らしい宝石だ。

 核石と溜石が付いていることから、魔道具だと判る。


 何の気なしに触ってしまった。

 あっ、魔道具を起動してしまった。

 だが、何も起こらない。

 もしかして。

 核石が壊れた。


 大変なことになった。

 国宝を壊すなどあってはならない。

 このまま惚けようか。

 いいや、そんなことはできない。

 伝令の心得として、伝える情報は嘘偽りなくというのがある。


 嘘を伝えてはならない。

 正直に言おう。


「国宝の魅了の首飾りを持ってきましたが、持って来る途中で壊してしまいました」

「何だと」


 衣装係が驚いて、女官の何人かがそれを伝えに走る。

 そして、私は王様の前に連れてこられた。


「国宝を壊した責任をどう取る?」

「我が一門の領地を返還してでも」

「足りん。足りんわ。一族郎党、死刑だ」

「それはなにとぞ、ご容赦を。責は私だけに留めて下さいませんか」


「ならん。そなたが代わりの魅了の核石を持って来るなら別だが」

「それで一族の命が助かるなら。一命に代えましても持って参ります」

「探しに行くとな。だが、そなたが逃げ出さないと誰が保証する」

「それは私が」

「リプレース卿がか」


「はい、私がリード卿の身代わりとなります」

「友よ。恩に着る」

「では、魅了の首飾りが必要になる。日没後のパーティまでに持って来い」


「友よ、済まぬ。必ず探し出して持って来る」


 リプレースとがっちり握手した。


「分かってる。君はやると言ったからにはやる男だ」


「では失礼します。一刻も探しに行かないとなりませんので」


 壊れた魅了の核石を手に王都の街を行く。


 闇雲に探したところでどうにもならないのは分かってる。

 ここは占いに頼るとしよう。


「おや、死相が現れてるね」

「分かるのか」

「まあね。何を占うんだい」

「魅了の核石がある場所を」

「【託宣】。ふむ、辺境都市ロンティアにあるマイスト工房のシングルキー卿を頼りな」

「恩に着る」


 追加の謝礼金貨10枚を投げるように置いて、占いの館を出た。

 ロンティアまではスキルを使ってもギリギリだ。

 馬も使わねばならない。


 さあ行くぞ。

 乗り潰す愛馬には可哀想だが仕方ない。

 馬に乗り一途ロンティアを目指す。

 1時間ほどで馬が潰れた。

 済まぬ。


 さあ走るぞ。


「【疾駆】」


 急がねば。

 友の命が掛かっている。


 こんな時に限ってオークが街道に出る。

 それも群れだ。

 すり抜けて逃げることは不可能だ。

 身を軽くするために武器は身に着けてない。


 くそう、短剣のひとつでも持ってくればよかった。


「お前達は俺を邪魔しようっていうのか。いいだろう。確かに私は空手だ。しかし、この手足がある。命と引き換えに、目玉のひとつは覚悟して貰おう。で、どいつがやるんだ?」


 私の気迫に気圧されたのかオークが道を開けた。


「【疾駆】」


 私はオークの群れを突っ切った。

 ふぅ、汗でびっしょりだ。


「【疲労回復】」


 足の皮が限界だ。

 痛みなど我慢できると言いたいが、限界はある。


 ポーションを持って来ればよかった。

 商人の馬車がやってくるのが分かった。

 地獄に助けだな。


「商人、ポーションはあるか」

「ございます」

「金もないんだった。この家紋の指輪を預けよう。王都のリード邸まで持って来てくれれば、金貨10枚のお礼をしよう」

「ふむ、この指輪も立派な物。ポーションの代金にはなるでしょう」


 ポーションを足裏に振り掛ける。

 痛みが遠のいた。


 さあ、急ぐぞ。

 途中、喉が渇くと何度も村に立ち寄った。

 村人は私に水を差しいれてくれ、休んでる間にマッサージもしてくれた。

 気遣いが心に染みる。


 しばらく行くと、無情にも街道に盗賊が出た。


 オークみたいに気圧されてはくれないだろうか。


「諸君、私は国王の命で任務を遂行中だ。私がここで死ぬと国王は必ず仇を討つだろう」

「お頭、どうしやす」

「通してやれ。なりは貴族だが、金目の物はなさそうだ」

「済まぬ。大勢の命が掛かっているのだ」

「あんたからは死兵の匂いがする。早く行け」


 分かってくれたようだ。

 私は盗賊の顔を脳裏に焼き付けた。

 もし、この盗賊が捕まるようなことがあれば、減刑を嘆願してやろう。


 ロンティアの城壁が見えてきた。

 道程の半分というところか。


 マイスト工房で魅了の核石が見つかるだろうか。

 天に祈りながら走った。

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