第23話 間に合った

Side:ケアレス・リード

 マイスト工房は門番に聞いたらすぐに分かった。

 門番に先導されて工房に到着。


「たのもう」


 扉をどんどんと叩くと、職人らしき男が扉を開けた。


「あんた死にそうな顔しているじゃないか」

「シングルキー卿を頼む」

「シナグル、お客さんだ」


 若い男が出てきた。

 シングルキー卿だろう。

 思い出した。

 シングルキー卿と言えばドラゴンスレイヤーではないか。

 エルダードラゴンを単独討伐したという。

 そんな感じには見えないな。


「話は中で。やつれてるな。何か飲み食いした方が良いんじゃないか」


 気遣いが嬉しい。

 友にしたいぐらい良い奴だ。


「ああ、何か頼む」


 店主が食事を用意してくれた。

 食べながら話す。


「むが、ふぐっ、魅了の核石が欲しいのだ。ごくっ、あるか?」

「無いが、壊れた核石なら直せる」

「もぐっ、おお、念の為持ってきて良かった」


 壊れた核石を出すと、シングルキー卿が溜石と導線を繋ぐ。


「ラージラーラ♪ララララ♪ララー♪ララーラ♪ラーラー♪か。すぐに直るよ」


 シーソーみたいな道具を出して核石が修理された。


「魅了の魔道具はたしか物語に出てくる奴だよね」

「ああ、もぐっ」

「国宝だったはず」

「ごくっ、ぷはぁ、そうだ。私はこれを壊したので死刑になる。ふぐっ、いまは親友が身代わりだ。ごくっ、なんとしても夜会に間に合わせないと」

「あー、そういう話だったのか。直しても死刑になるのか」

「くちゃ、そうだ」

「俺が魔道具を直しても死刑になるなんてやりきれないな」

「もぐっ、仕方ない。ごっくん、私が壊したのは事実だ。ふぐっ、罪は償わねば」


「あんた、正直者だな。もうひとつ魅了の核石を持たせてやる。これで王様が赦してくれなければ手紙を出せ。俺がなんとかしてやる」

「ごくっごくっ、すまぬ」


 魅了の核石がそう都合よくもうひとつあるわけない。

 複製を作れるのだな。

 だが言うまい。


 魅了の核石ふたつと、王への手紙、それと切り札だという魔道具を貰って工房を出た。

 日は天空高く昇っている。

 頼むぞ俺の足。


 駆ける、駆ける、駆ける、駆ける。


 単体で出てきたモンスターは全て走って振り切った。

 幸い、集団で出てきたモンスターはいない。


 途中、モンスターに襲われた男を見つけた。

 この傷では放っておけば助からない。

 見棄てたら、リプレースはなんというだろうか。

 きっと、そんなことは許容できないというはずだ。


 ええい。


「男、村まで運ぶ。背負ってやるから、口をしっかり閉じていろ。舌を噛むからな」


 男が力なく頷く。

 村まで背負う。

 くっ、こんなことしている場合じゃないのは分かっている。

 だが、ここで見棄てたら一生後悔が残るだろう。


 村に連れて行くと、さいわいにして村の宝の高級ポーションがあって、男は助かった。

 無駄な時間を使った。

 男は王宛てだと言って手紙を書いてくれた。


 今日は王への手紙を良く託される日だ。

 伝令の宿命だろうか。

 手紙ぐらい大した重さではないので、懐深く入れた。

 もっとも王への手紙をどこかに捨てていくわけにもいかない。


 さらに行くと、馬車が停まっているのが見えた。

 家紋が付いてるから貴族の馬車だろう。


 くそう、時間を取られている暇はない。

 ないが通り過ぎることもできない。


「何かお困りかな」

「馬車が壊れてしまったのです。近くの街に報せては貰えないでしょうか」


 貴婦人からそう言われて門番宛ての手紙を頼まれた。

 このぐらいの用事なら構うまい。


「承った。私は王城付きの伝令でケアレス・リードという」

「都合がいいですわね。ならば、この手紙をトレジャ王へ渡しては貰えないでしょうか」


 また王への手紙を預かった。

 まあ、こういう雑用をして良かったとも言える。

 なぜなら、休みを取らないとスキルがあると言っても私が潰れてしまうからだ。

 焦る気持ちがこういう用事で緩和される。


 でなければ、走れなくなるまで走っていたはずだ。

 近隣の街の門番に手紙を渡すと、門番はの顔は青くなった。

 何が書いてあったか気になるが、聞いている時間が惜しい。

 疾駆を再び開始した。


 日がかなり沈んでる。

 もはや猶予がない。

 王都の城壁が見えた。

 門がみえる。

 門は閉まりかかってた。

 くそっ、ここまでか。


 そうだ、切り札があるんだ。

 間に合えと願って魔道具を起動する。

 風景が線になる。

 私は一瞬で王都の街に入っていた。


 助かった。

 王城まであと少し。


 王城の門番は私の顔をみると手続きもなしに入れてくれた。

 謁見の間に急ぐ。


 リプレースは毒杯を手に持っていた。


「帰ったぞ!!! はぁはぁ」


 リプレースは驚き、毒杯を手から落とした。

 王も帰ってくるとは思わなかったのか驚いている。


「奇跡だ。吟遊詩人を呼べ」

「英雄譚だ」

「語り継がれるぞ」


 王の前に進み出て、跪く。


「リード、ただいま帰還いたしました」


 歓声が上がる。

 リプレースが拍手している。

 周りも拍手喝采した。


「リード、戻って来なくっても良かったのに」

「リプレース、君には感謝しているが、友の命を失うなら私の命を差し出そう」

「私もだ」


 貴婦人が薔薇がみえるとキャーキャー言っている。

 私はもうすぐ死ぬのだな。

 国宝を壊した罪が帳消しになるはずはない。

 しかし、悔いなどない。

 今日の道での出来事も全てやりきった感がある。

 人生のフィナーレに相応しいドラマだった。


 さあ、王から裁定を頂こう。

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