第16話 Sランク

Side:シナグル・シングルキー


 冒険者ランクがSランクになってしまった。

 エルダードラゴンを出したからだ。

 まあモールスって誰って言われているけど。

 マギナと一緒に行動してたけど誰も俺がモールスだと思ってない。

 知っているのはギルドマスターだけだ。

 マギナの依頼で魔道具ギルドのランクもBに上がった。

 良いのか魔道具ギルド。

 ギルドランクが上がっても難しい依頼を受けられるだけだけどね。


「僕、ヤルダーといいます。マギナさんみたいな立派な魔法使いになります」


 屋台をおごってやった子供の一人が真剣な目つきで、マギナにそう言った。


「そう」


 マギナは子供の決意を耳にして素っ気ない。

 だが、いそいそと教本を取り出した。


「ええと」

「基礎が書いてある。スキルがなくても魔法が使える基礎よ」

「文字を読めないけど」

「じゃあ、毎日、私達のところに来るのよ。お仲間を連れてね」


 マギナは良い奴だ。

 きっと、きた浮浪児に食事を出すんだろうな。

 よし、俺も乗っかってやろう。


「お兄さんが仕事を与えてやろう。魔道具に魔力を充填する仕事だ。疲れもしない楽な仕事だぞ」

「やる」

「何も、シナグルがやらなくても」

「いいか。仕事にはそれに相応しい対価ってものがあるんだ。どんな仕事にもな。だから俺の基準で払う」

「私も慈悲じゃないわよ。真理のひとつでも教えてくれたら、食事代ぐらい元が十分に取れる。これは投資よ」

「いいんじゃないか投資」

「あなたならそう言うと思ってたわ」


 ヤルダーがマギナの前で両手を広げて立ち塞がった。


「師匠から離れろ。このけだもの」

「あー、弟子から嫌われたな」

「ふふふ、まるで3角関係ね」

「あー、俺、今のところマギナに恋愛感情はないから」


 マギナに蹴りを入れられた。


「この唐変木」


 面白がって子供達が俺を蹴りまくる。


「俺は恐怖のSランク、モールスだぞ。がぉー」


 子供達は笑っている。

 マギナもだ。

 マギナがペンダントを弄るのが見えた。


「そのペンダントを貸してみろ直してやる」

「えっ、核石を取り換えるんじゃなくて直すの」

「まあな。秘密を解いたって言っただろう。もう俺は準男爵だ。秘密が漏れるのは怖くない。ギルドマスターの紹介で貴族の派閥にも入った」

「別の音色が鳴ったら赦さない」

「任せとけ。魔道具師ギルドBランクだぞ」

「最強の魔道具職人だったわね」


 マギナが首の後ろに手を回してペンダントの留め金を外す。

 俺はペンダントをうやうやしく受け取った。


 『ラージー♪ジジラー♪ラララ♪ジラ♪ラーララージ♪、ラーララジ♪ラーラーラー♪ジーラジラー♪』と歌がが聞こえた。

 ああ、無理に何度も起動しようとしたから、壊れている箇所が多い。

 それだけ大切にしてたんだな。


 でも、修復できる。

 クラッシャーを亜空間収納から取り出して、核石を載せる。

 そしてテンポよくボタンを押した。


「ほらできた」


 マギナが手に取ると、オルゴールの魔道具はポロンポロンと音楽を奏で始めた。

 マギナの目の涙が溜まっていくのが分かった。

 きっと、この品にまつわる思い出を想っているのだろう。


「ぐすん、これをまた聞けるとは思わなかったわ」


Side:マギナ


 ああ、失敗した時にお母様に撫でられて、私がお母様が掛けているペンダントに手を伸ばして、魔道具を起動する。

 優しい音色に包まれて、お母様に『大丈夫よ、大事なのは失敗しないことじゃない、失敗から学ぶ姿勢を忘れないことよ』と言われた。

 お母様が病気に倒れた時に、オルゴールのペンダントを握らせて、『これからは貴方がこれを身に着けなさい』と言われて、お母様はもう助からないんだと思った。

 そして、オルゴールが壊れた時に、お母様の思い出も亡くなったと思った。

 そのオルゴールが復活するなんて。

 もう泣いたらいいのか笑ったら良いのか分からない。

 気づいたらシナグルの胸で泣いていたわ。


「シナグル、あなたはどんな思いで魔道具を作るの?」


 泣き止んだ私は聞いてみた。


「使い手の笑顔を想像して作る」


 負けたと思った。

 私は魔法を発動する時に人の笑顔なんか考えたことはない。

 ダンジョンでモンスターを殺すのはともかく、依頼で村の近くにいるモンスターを倒す時に村人の笑顔なんか考えなかったわ。

 魔法で人々を笑顔にできるかしら。


 でもシナグルに負けないためにも、心にその言葉を置いておきましょう。

 愛しい愛しい私のライバル。


「お師匠様から離れろ」


 ヤルダーが私とシナグルを引き離そうする。


「あなたが大きくなったら、胸を貸してもらうわ。良い男の条件は泣いている女に胸を貸してあげられるかどうかよ」

「僕、頑張る。大きくなって包み込める男になる」


「泣きたくなったらいつでも言ってくれ。駆け付けるから」

「今だけだぞ。あと10年もしたら」

「そうだな」


 シナグルがそう言ってヤルダーの頭を撫でた。

 ヤルダーは一瞬笑ってそして険しい目つきになった。


「絶対だ」

「女だって泣かせてくれる胸は選ぶわよ。厳しいから。シナグルだって次もこうだと思わないことね。それにもう泣かない」

「だな。女の子には笑顔がよく似合う」

「もう、それって口説き文句よ」

「離れろ」


 ヤルダーがいると何だかコメディみたいね。

 お母様、私は笑って生きています。

 そっとペンダントに手を這わせた。

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