第15話 神話級魔道具

Side:マギナ

 フォレストウルフの集団。

 素早いモンスターね。

 さてシナグルはどうするか見物。


 攻撃用魔道具を抜くと、狙いを定めずに撃った。

 火球は綺麗な弧を描いて、フォレストウルフに直撃した。

 わざわざ、弧を描く魔道具か。

 シナグルは次々に魔道具を撃った。


 描く弧は一定ではない。

 それどころかフォレストウルフの動きに合わせて蛇行すらした。

 これは追尾攻撃の魔道具。

 こんなの準国宝クラスだわ。

 それを10個ほど、一体いくつ国宝クラスを持っているの。


 シナグルはフォレストウルフの死骸を無造作に亜空間収納に入れる。

 凄い。

 魔道具師を馬鹿にしてたわけじゃない。

 けど、こんなに戦えるとも思っていなかった。


 次はオークの集団。


「レベルも良い具合に上がったし、接近戦してみたい」

「好きにして。危なそうなら助けるから。死ななければ回復魔法もあるし、思いっ切りやって」


 シナグルが取っ手の形の魔道具を突き出す。

 魔法の盾が生まれオークに向かって叩きつけられた。

 オークが吹き飛ぶ。


 シナグルは剣の柄だけある魔道具を振った。

 光の剣が出てオークの一団がまとめて両断される。

 これも国宝級の魔道具じゃないか。


 オークは集団だとBランク。

 それを軽々と。

 もちろん私にもできるけど。


 次に出てきたのはオーガ。

 シナグルは輪の魔道具を手に取った。

 そしてオーガの足元から石の触手が伸びて来て拘束した。

 ストーンバインドの魔法と同等ね。


 そして、さっきの光の剣でオーガの首を刎ねた。

 強すぎる。

 オーガはAランクモンスターよ。

 いえ私にもできるけど、そろそろ底が見えないと恐ろしく思ってしまう。


「あの」

「何?」


「そろそろ、魔法の速度の計測やらをしないか」

「そうね。向かってくる方が計測し易いのかな。シナグルに向かって撃つから計測してみてくれる」

「俺のは電波だから、逃げていくのでも測れるぞ」

「えっ。電波ってなに」

「電子の波だよ」

「くっ、知識でまたしても負けた」


 私は不甲斐なさの余り、地面に手を突いた、


「何も地面に手をついてうなだれなくても」

「知らないことがこんなにもあるなんて。君といると超1流の名前が霞む」

「心配するな。俺は特別だ」

「でしょうね。ただの男じゃないのは分かっている」

「おそらく、魔道具を好きに使えれば、俺は最強だ。だって無限の攻撃力だろう」

「本当に最強なの。冗談や嘘でない雰囲気だけど」


 さっきまでレベル12だったこの男が最強。

 だが、嘘だと思えない。

 くっ、ライバルどころか私は噛ませ犬になってしまうの。


 気持ちを切り替えて、高速魔法の練習よ。

 練習は上手く行った。

 2割ぐらいスピードが速くなった。

 やっぱり私は超天才。

 でも。

 くっ、負けないわ。


 ボス部屋に難なく到達した。

 ボスはレッサードラゴン。

 これを倒せなくて死ぬ人が多数。


 第1階層のボスでこれだから、ダンジョンは本当に侮れない。


「ふふん、いっちょやりますか。拘束魔道具からの、電撃魔道具、止めは貫通攻撃魔道具」


 サクッとレッサードラゴンが死んだ。


「いったいいくつ国宝級をもっているの。驚き疲れたわ」

「言っただろ最強だって。よしボスマラソンして、ガンガンレベルを上げるぞ」


 私はもはや魔力タンクだった。

 なにこの敗北感。

 そして、50体はレッサードラゴンを狩った時にそれは現れた。


「ギュオオオ」


 ちょっと待ってエルダードラゴンじゃない。

 もう駄目、これは死んだ。

 最強を名乗る男を鍛えたいなんて思ったバチが当たったのかも。


「ちょっと下がってろ」


 私は言われたまま下がった。


「さてね。これは見せたくなかったんだけどね。仕方ない。次元斬魔道具」


 光の剣みたいに柄だけの魔道具が取り出され、見えない刃が伸びた。

 それは光ではなく陽炎のように揺らめいている。

 まさか、空間を歪めて刃にしているの。


 シナグルは無造作に剣を振るった。

 エルダードラゴンごと、ボス部屋の壁が切り裂かれる。


 はいはい、神話級魔道具ね。

 もうこれは突っ込む気さえ起きない。


「あなた何者?」

「ただの魔道具職人だよ」

「核石の秘密を解いたの」

「マギナなら言っても良いか。解いたよ。別の言語を2進数のコードにしてた」

「どこに呪文が書いてあるの」


 私はペンダントの核石を穴が開くほど眺めた。

 呪文なんてないじゃない。


「歌が聞こえるんだよ」

「あなたじゃ無ければ一笑に付しているところね。さあ、ドラゴンスレイヤーとして凱旋しましょう」

「冒険者ギルドって名前変更できる?」

「できるわよ。している人は何かやらかした人だけど」

「ありがと。今日から俺はモールスだ」


 シナグルと冒険者ギルドの買取場に行くと、人だかりが二つに割れた。

 シナグルが亜空間収納魔道具でレッサードラゴンを出す。

 おおっと声が上がる。

 レッサードラゴン1体で買取場が埋まってしまった。


「まだ、50体はあるけど」

「おいおい、いくら殲滅だって、やり過ぎだ。解体は1日で1体が限界だ。毎日持って来てくれ」

「じゃあそうするよ」


 エルダーがあるなんて言い出せない雰囲気ね。

 出したらきっと冒険者ギルドのギルドマスターが飛んでくるわね。


「お金は山分けだ」

「私、魔力を充填してただけだよ」

「それが重要なんだよ。たとえ雑用係だとしても立派なパーティメンバーだ。俺はそう思う」


 不思議な人ね。

 今日の収穫は、金貨50枚を超えた。

 凄い。

 これがあと50日間続いて、そしてエルダードラゴンね。

 めまいがしそう。

 私の二つ名を彼にあげたいぐらい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る