第14話 ダンジョン

Side:マギナ

「どこへ行くつもり?」


 シナグルが私の隣を歩きながら尋ねる。


「魔法を気兼ねなく撃てるのは、ダンジョンに決まっているわ」

「あー、ダンジョンには入れない。資格を凍結されちまってな」

「何をしたの。いや、わかるわ。規約違反したのでしょう」

「まあね。寄生行為をした」

「あなたが?」


 信じられない。


「俺としてはパーティの一員として役に立ってると思ってた」

「違ってたの。なら罰は受けないと」

「いいや、今でも役に立っていたと思っている。凍結は不当だと」

「そうこなくちゃ。で凍結はどうしましょう?」

「Cランクの戦闘力を見せれば良い」

「ふん。そんなの余裕でクリアしてね。超天才である私が認めた天才なのだから」

「頑張ってみるよ」


 不思議な人ね。

 天才のオーラというものがない。

 ないのだけど、常人と違う物を感じる。

 モンスターの雰囲気とも違う。

 たとえるなら、天界の住人。

 天界はおとぎ話の世界ね。

 我ながら馬鹿なことを考えたわ。


 冒険者ギルドは混雑してた。

 私が入ると、人だかりが割れた。


「おい、見ろよ。殲滅のマギナだぜ」

「Sランクの実力があるのにAランクに留まっているあのか」

「厄災のマギナだ」


「物騒な二つ名を持っているな」

「私が放つ魔法に対して世界は脆すぎる」


 シナグルが受付に進み出る。


「ええと、ギルド資格の凍結を解きにきた」

「お名前を」

「シナグル」

「Cランクの飛び級試験を受けてもらいます」

「じゃあそれを」


 場所をギルドの訓練場に移した。


「寄生野郎ってのはお前か。まあ、どうでも良い。冒険者はこれが頼りだ」


 教官が腕を曲げて力こぶを作る。


「で何をやる」

「前衛、後衛どっちだ。ちなみに遊撃は前衛の試験な」

「後衛だ」

「じゃあ、的に向かって魔法を撃ってみろ」


 シナグルは攻撃用魔道具を構えると、引き金を引いて、火球を発射した。

 火球は的に当たった。


 教官はニヤニヤ笑いながら見てる。

 シナグルは横目でちらりとそれを見ると、火球を一発撃つごとに魔道具を換えて、連射した。

 的は焼け落ちた。


「おい、なんか言え」

「寄生野郎が成金野郎に進化したか。なんというか、くそ面白くもない。だが、合格だ」


「シナグルは金持ちなのだな。攻撃用魔道具ひとつで金貨10枚は下らないぞ。それを10個か」

「道具は使ってこそだ。壊れるからと言って大事にしまっておくなんてのは吐き気がする」

「そうね。魔法もよ。技を盗まれるんじゃないかと出し惜しみする奴は反吐がでるわ」


 ダンジョンの入口は街から出てすぐにある。

 ダンジョンがあるからこの街ができたとも言える。


「ここがダンジョンの入口か」

「感心してないで入るわよ」

「おう」


 ダンジョン入り口の門番にギルドカードを見せる。

 手続きはこれだけ。

 冒険は自己責任。

 門番は一般人が入らないようにしているだけだから。

 でないと浮浪児などの食いつめ者が入り込むからね。


 ダンジョンに入るとそこは地下なのに森が広がっていた。

 これがダンジョンよ。


 早速ゴブリンの集団。


「シナグル、肩慣らしよ。Cランクでしょう。余裕よね」

「おう」


 シナグルが攻撃用魔道具を交換しながら撃つ。

 ゴブリンを10体はやっただろうか。


「むっどうした?」

「魔力がなくて充填できない」

「貸して」


 魔道具を全てを充填してやった。

 私の魔力量は飛び抜けて多いから、こんなの屁でもないわ。


 シナグルを見ると笑っていて楽しそう。

 たまにステータスを確認している。

 こういう態度が天界人みたいなのよ。


 戦闘力はさすがCランクはある。

 でも、態度が駆け出しのそれなのよね。

 それに駆け出しならビビるところを全然ヒビらない。

 なんかちぐはぐ。

 やっぱり天才ゆえの奇行なのかな。

 私も人のことは言えないけど。


 100体はゴブリンを始末した。

 ゴブリンの死体が溶かされるように消えていき、たくさんの魔石と、数個の核石を残した。

 魔道具の消耗を考えると、出た核石がどんな種類かで左右されるけど、辛うじて黒字か。


「ほぇー、消化されるのか」

「ダンジョンは初めてのようね。肉体から魔石以外の素材を採る時は素早く切り取らないといけない。私ぐらいになると亜空間収納に入れて終わりだけど」

「俺も亜空間収納の魔道具を持っているよ」

「なんて。準国宝級よ。商人なら誰も欲しがる品物だわ」

「欲しいなら、やろうか?」

「いいえ、私は魔法があるからいい」


 この男何者なの。

 準国宝級の魔道具をただで譲るつもりなの。

 なんて器の大きい男なのよ。

 天才ね。

 いや、天才というより鬼才かも。

 さすが私がライバルだと見込んだ男。


 進んで行くと鼻息の荒いラージボアがいる。


「任せた」


 このぐらいも余裕でしょう。


「任された」


 シナグルが攻撃用魔道具の引き金を引く。

 火球が出てラージボアの鼻先で爆発した。


「ぴぎっ」


 ラージボアの頭は吹き飛んだ。

 一撃か、まあラージボアはEランクだけれど。


 シナグルは亜空間収納にラージボアの死骸を入れている。

 それにしても爆発火球の魔道具は秘密兵器として砦にひとつあるぐらいな貴重な物だ。

 普段使いするような物ではない。


 こんなに潤沢に魔道具が使えれば、私の魔法と良い勝負ができるのでは。

 負けるかも。

 いいや、これぐらいは私も朝飯前ね。

 だけど、シナグルも切り札を切ったという感じではない。

 底を見てみたくなった。


「ところで、シナグルのレベルは幾つ?」

「12だけど」

「そんなに低いのか」


 やはりちぐはぐだ。

 戦闘が嫌いで今までモンスターを倒さなかった?

 それにしては嬉々として戦闘をこなす。

 実に嬉しそう。

 どういう生い立ちなの。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る