第11話 守り守られて

Side:ソル

 ダンジョンから偶然に音を絶つ遮音の核石が見つかったと、シナグルから連絡があった。

 実に胡散臭い。

 そんな核石が見つかれば噂になっている。

 おそらくだが、シナグルは核石の秘密を解き明かしたのだろう。

 でないと、説明が付かない。


 工房に行くと、シーソーみたいな魔道具が作業台に載っていた。

 スイータリアが神様のシーソーと呼んでいた魔道具だな。

 正式名称はクラッシャーらしいが。


「ちょうどいま始めるところだっだ」


 そう言うとシナグルは核石をクラッシャーに載せた。


「ラララ♪ラーラーラー♪ラララー♪ラーラ♪ラーララ♪、 ララ♪ラーラ♪ラララ♪ラララー♪ララーララ♪ララー♪ラー♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪」


 シナグルが歌いながら、シーソーを動かす。

 この歌に何か秘密があるのか。


「ほい、できた。これを魔道具にはめ込んで、導線を繋げば、ほら完成だ」

「試しても?」

「もちろん」


 箱型の魔道具を起動すると、周囲の音が消えた。

 聞こえるのはあたいが発する鼓動などの音と、シナグルが動いて立てる衣擦れの音と鼓動の音。

 こんな静かな空間は久しぶりだ。

 聞き耳を習得する以前じゃないかな。


「ありがと」

「どういたしまして」


「この空間なら言える」

「何?」


 真っ赤な顔をするシナグル。

 こいつ何を考えているんだ。

 あたいが恋の告白でもすると思っているのか。

 あたいまで頬が熱くなって、心臓の鼓動が早くなる。


「シナグル、お前、核石の秘密を解いただろう」

「なんのことだ」

「惚けなくていい。遮音の核石なんて今までなかったそうだ。偶然見つかったなんて都合が良過ぎる」

「ええと」

「お前、馬鹿なのか。こんな依頼、受けなきゃいいだろ。お前が抱えた秘密がどれだけ凄いか、知識のないあたいにも分かる。身柄をさらわれるぐらいだとね」

「ええと」

「あたいは、妹弟達を絶対に守ると誓っている。その守る対象にあんたを加えてやるよ。秘密がばれる危険を冒してまで依頼を受けてくれたお礼さ」

「そこまで言われたら、もうしらは切れないな。確かに俺は核石の秘密を解いた。核石を作り出せる」

「やっぱりね」


 シナグルは魔道具を出して来た。

 このくの字になって引き金がある形は攻撃魔道具。

 それを10個も出して来た。


「秘密を共有する仲間に死なれちゃ目覚めが悪い。持っていけ」

「大赤字じゃないか。悪いから金貨100枚払うと言いたいが、10枚で勘弁してくれ。あとは体で払う」

「なっ」


 シナグルの心臓の鼓動が早くなる。

 あたいの言い方が悪かった。


「体で払うと言ったのは、これからも前例のない魔道具を作り出すだろ。その核石はあたいが手に入れたことにするといい。そろそろダンジョンに挑戦しようと思ってた」


 シナグルが足環の魔道具を出して来る。


「俊足の魔道具だ」

「なんというかお人好しすぎるだろう。これじゃどっちが守っているか分からない」

「守り守られてで、良いんじゃないか」

「なんかむず痒いな。まるでそれじゃ恋人だ」


 二人して真っ赤になって見つめ合った。

 失言だった。

 だけどこの男なら嫌じゃないかも。


 沢山の魔道具を抱えて道を歩く。


「ララーララ♪ラーラーラー♪ララララー♪ラ♪」


 鼻歌が出てきた。

 あたいはどうしちまったんだろ。

 恋なんてがらじゃないのに。


「ただいま」


「お姉の魂の傷が治ったぁ」

「ほんとだ」

「あの話は本当だった」


 魂を治す男。

 そう考えると、あたいでは釣り合わない気がした。

 チクチク胸が痛む。

 でもその痛みが嫌じゃない。

 目標がひとつ加わったというだけ。

 Sランクになればどんな男だって釣り合わないとは思えない。


「お前達、今日からどんなに騒いでも怒らないぞ」

「やったぁ」


「でも夜更かしはするなよ」

「うん」


 次の日、さっそく魔道具の実戦だ。


 ゴブリン4体と向かい合う。

 攻撃魔道具を構えて発射する。

 出た火球は一直線にゴブリンに吸い込まれるように当たり、爆発。

 攻撃魔道具を取り換えて発射。

 こんども当たった。

 両腰にひとつずつ着けていたから、これで終りだ。

 俊足の魔道具を起動、背中に背負った剣を抜いて駆け出す。


 ゴブリンはあたいを見失ったようだ。

 隙だらけの胴に剣を叩き込む。

 残ったゴブリン全てを斬り伏せた。


 格段に楽になったな。

 10個も攻撃魔道具があれば、あたいの所属しているパーティのメンバーにも貸せる。

 こんなのが普通なら、すぐにSランクだ。

 ダンジョンでもきっと負けない。


 もらった魔道具の料金を支払いにシナグルの工房を訪ねた。


「魔道具どうだった?」

「遠距離攻撃してから突っ込むと相手のモンスターが及び腰になるからやり易いぜ」

「他にも意見を聞きたいな」

「じゃあ、冒険者のスポンサーになれば良い」

「匿名で出来るのか?」

「まあな。工房同士でいがみ合っている場合があって、そのときにかち合うと気まずいだろう。だから稀に匿名でスポンサーになる奴がいる。それと若い職人が親方に黙って、武者修行みたいな気分でやる。そんときゃ親方にばれると不味いから匿名でしたりする」

「ああ、中途半端な物は工房の名前で出せないものな」

「そうだな。そういう時に応援する冒険者は大抵駆け出しだ」

「ありがとう」


 よせやい、笑顔でお礼とか言われるとますます好きになっちまうじゃないか。

 送り先の名前がマニーマインで女だったのをみて胸が苦しくなった。

 この冒険者とどういう関係と聞くのが怖い。

 聞いたら、何もかもが終わる気がして。


「邪魔したな」


 そう言って工房を後にするのが精一杯だった。

 モンスターと対峙するのは怖くないのにな。

 なんでその一言がこんなにも怖いんだろう。


 魂に傷がついた気がした。

 この傷はシナグルでないと治せない。

 妹弟達にはこんな顔は見せられない。


 気持ちを切り替える。

 あたいとあの男には守り守られの約束がある。

 きっとマニーマインとやらとはそんな約束はしてないだろ。

 勘だけど。

 それだけで1歩リードだ。

 くふふ、笑みがこぼれた。

 傷が治ったような気がした。

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