第12話 俺の夢

Side:シナグル

 あー、どうするな。

 難しい依頼を受けてしまった。

 遮音の魔道具が難しいってわけじゃない。

 修理ではなく新しい核石を作り出す依頼だ。

 これがばれたらきっとさらわれて監禁される。

 でもなぁ、ソルの弟のあの顔を見たらな。

 断るのも違う気がする。


 『sound insulation』、つまり遮音の単語をモールス信号に変換。

 これで良いはずだ。

 ちょうどソルが訪ねてきたので、核石を新たに作る。

 新しい魔石を使うと確実にばれるので、壊れた点火の核石の上に上書きする。


「ラララ♪ラーラーラー♪ラララー♪ラーラ♪ラーララ♪、 ララ♪ラーラ♪ラララ♪ラララー♪ララーララ♪ララー♪ラー♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪」


 ほらよ、できた。

 そして、やっぱりばれた。

 でも、ソルは良い奴だ。

 きっと裏切らないと思う。


 ソルの依頼はまたしてもランク外だった。

 魔道具ギルドのランクがひとつ上がってCになる。

 魔道具ギルドではランクが急激に上がる奴は珍しくないそうだ。

 運さえ良ければ、目的の核石に巡り合う。


 もっとも普通の魔道具職人は、核石市とか、オークションなどで手に入れるようだけど。

 それと専属の冒険者がいて彼らがダンジョンで核石を手に入れる。


 そして、俺はモールスの名前でマニーマインあてに魔道具を送った。

 マニーマインからは感謝の手紙が届いた。


 シナグルが送ったと手紙に書きたい欲求を抑える。

 今は冷却期間だ。

 バイオレッティ達の気も変わるかも知れない。


 俺は未練たらしいのかも。

 でも俺は彼らに死んで欲しくない。

 俺は彼らをまだ仲間だと思っている。


 マニーマインのお礼に核石を送りましょうかとの手紙に、必要ないと書いた。

 使用して気になったところを報せてくれればいいと。


「何だかつらそうだな」

「師匠、つらくはないけど、なんと言ったらいいか。振られた女に匿名でパトロンになるってどう思います」

「そりゃ未練だな。だが、嫌いじゃないぜ。それが人を好きになるってことだろ。報われるかどうかなんて関係ない。相手の女からしたら、気持ちの押し付けで気持ち悪いっていうかもしれないが、なんとなく好感が持てる。良い奴ってことだ」

「俺って良い奴かな。自分の気持ちを押し付けているだけかも」

「相手の女の助けにはなっているわけだろ。悪いことしているわけじゃない。匿名でってことは名乗り出るつもりがないってことだ」

「まあそうだけど」


 名乗りたくて、うずうずする。

 名乗り出たら、良い奴から押し付けの打算野郎に、早変わりするのかな。


 マイストに肩をポンポンと叩かれた。


「飲みに行こう」

「ええ」


 マニーマインとの繋がりはこれがベストなのかな。

 名乗り出なければ、神様がちゃんと見てくれていて、パーティメンバーが俺に戻って来いと言ってくれるのかな。


 俺はちょっと腹を括らないといけないかも。

 核石を作り出す仕事を続けていたら、きっと早晩、秘密がばれる。


「飲みにきたのに暗い顔だな」

「いろいろと考えてしまって」

「ランク外をぽんぽん受けているが、お前どういうつもりだ」


 かぁ、俺にも分かんないよ。

 スローライフをしたいのか、成り上がりたいのか。

 俺は気づいてしまった。


 俺は夢がないんだ。

 マニーマインの夢に乗っかっていた。

 ああそうか。

 そういうことか。

 なんだ。

 まるで、寄生冒険者だな。


「師匠、俺は自分の道を決めないといけないみたいだ」

「そうだな。お前が何を目標にしているかで、今後が変わる」


 ふと浮かんだのは、スイータリアとソルの笑顔。

 魔道具で人を笑顔にしたい。

 となると核石を作り出せるのを秘密にはしておけない。

 さらば、平穏な日々よ。


「魔道具で全ての人を笑顔にしたい。大それたことかなぁ」

「いや、いいんじゃないか。俺も仕事をする時は常々思っている。お前は本当に良い奴だなぁ。まあ、飲め飲め」

「頂きます。たぶん師匠に迷惑を掛ける」

「構わないさ。そんなこと端から承知している。でないとお前を拾ったりはしない」


 考えがすっきりした。

 もう秘密がばれるのを恐れたりはしない。

 だが、積極的に秘密があると吹聴はしないし、核石を作れるんじゃないかの問いには否定も肯定もしない。


 そうだ。

 守りを固めよう。

 核石が自由に作り出せるのなら、警備の魔道具も作れるし。

 もしもの時の攻撃用魔道具も作れる。

 Sランクになれば、準男爵の貴族になれる。

 貴族になれば監禁される危険性は減る。

 貴族同士の争いになれば戦争だからな。

 魔道具の1万個も使えば一人でも勝つ自信がある。

 けして無理なことじゃない。


 地位、名誉、戦闘力、財力。

 全てを上げる。


 夢は魔道具でみんなを笑顔にすること。

 貴族になるのは手段であって目的じゃない。


 ランク外依頼をバンバン受けよう。

 あと3つ受ければSランクだ。


「よし、頑張るぞ」

「吹っ切れた顔だ。良い顔してる」

「最短Sランク記録を作ってやりますよ」

「お前なら出来るさ」


 今夜は良い夢が見れそうだ。

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