第6話 初依頼成功

Side:シナグル

 困ったぞ。

 嘘を言った俺が悪い。

 メアリはもう死んだんだ、安らかに眠らせてやろうと言えば終わりだ。

 だが、それで良いのか。


 俺は死力を尽くしてない気がする。

 何年掛かってもやるべきじゃないのか。

 たとえ、スイータリアが忘れることになっても。


 とっかかりは歌だ。

 雑音を消せば良い。

 どうやって。


 核石の中に傷ができる。

 じゃあ、傷を埋めれば。

 中にあるのをどうやって。

 熱したりすれば、溶けて埋まるかな。


 何事も挑戦だ。

 焚火の中に点火魔道具の壊れた核石を入れる。

 パチっと音がして核石が割れた。

 くっ、駄目か。


 割れた核石をすり鉢に入れて。

 棒で粉々にして、細かくすりつぶす。

 そして、ふるってさらに細かくする。

 ほとんど粉になったところを油と混ぜて、塗料にする。


 糸をそれで染める。

 導線の出来上がりだ。

 壊れた核石と溜石はこうやって再利用する。


 熱するのも駄目か。

 さっき作った魔石の塗料で煮込むことにした。

 上手く染み込めば良いけど。


 1時間煮てみたが、核石の線は無くならない。

 こんな簡単なことで解決できるのなら、みんなしている。


 あー、そうだ。

 変形スキルなら。


「壊れた核石を変形スキルで元に戻すだって。無理無理」

「無理なのか」


 マイストの伝手で会いに行った変形スキル持ちの職人も駄目だった。

 ええと穴埋めスキルなんてのはないよな。

 傷修復でも良い。

 回復魔法系は試してない。


「核石が病気なんだ。回復を掛けてくれ」

「そんなことをいうあんたが病気だよ。壊れた核石が戻らないのは知っているだろう」

「くそっ、これも駄目か」


 治療師も無理だった。

 スイータリアが工房に尋ねてきた。


「メアリは元気になりまちたか」

「まだなんだ」


「メアリが乗れそうなシーソーがありまちゅ」


 むっ、シーソー。

 店の工房で、マイストが魔道具を掃除している。

 あれは、前世でみた形だ。


 ボタンがひとつでシーソーみたいな形。

 縦振り電鍵と呼ばれている道具じゃないのか。

 縦振り電鍵は何に使うかと言えば、モールス信号を打つのに使う。

 じゃああれは通信の魔道具。

 それにしてはスピーカーとかが見当たらない。


「あれにメアリが乗ったら歌い出しそうでちゅね」


「師匠、それ何に使うの?」

「ああ、これか。核石の中には世に出したらいけない奴がある。そいつをこれで壊すのさ。クラッシャーだ。ただし、核石が壊れるとは限らないんだよな。別の機能の核石になることが稀にある。だから壊れた核石は1回はこの魔道具に掛ける」

「やってみてよ。【傾聴】っと」


 マイストが核石をクラッシャーに近づけて使う。


『ラーララーラ♪……♪』

『トン』


 物凄い歌の長さだ。

 いま終りにトンと言ったぞ。


「長く押してみてください」

「おう」


『ツー』


 今度はツーだ。

 やっぱりモールス信号だ。


 もしかして、魔道具の歌ってモールス信号なのか。


 点火は『ララ♪ラーラーラ♪ラーラ♪ララ♪ラー♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪』。

 これをモールスにすると『トントン、ツーツートン、ツートン、トントン、ツー、トントン、ツーツーツー、ツートン』

 アルファベットにすると『ignition』、意味は点火だ。

 魔道具はモールス信号が呪文だったのか。

 こんなの分かるか。

 俺だって友達にモールスの試験の手伝いをさせられなかったら分かんないところだった。

 アマチュア無線にはモールス信号の試験があるんだよ。

 覚えたくないが覚えてしまった。

 それが役に立つとはな。


 魔道具人形の核石は『sing』、歌うだった。

 これの雑音にクラッシャーで上書きすればいいのか。


「メアリの魂をシーソーに載せるのでちゅね」

「まあな」


 核石と溜石と導線を仮止めして、起動する。

 『ジジ♪』ときたから『トントン』と。

 さて直ったかな。


 魔道具人形のメアリを組み立てて、起動。


『ラララ♪ララ♪ラーラ♪ラーラーラ♪』

「虹を駆けあがって大空高く♪愛しのあの人は今どこに♪鳥さん教えてよ♪雲さん教えてよ♪……」


 やった、直ったぞ。


 神様が地球を知っているか、魔道具の発明者は異世界転生者だろうな。

 会えないだろうから、真相は分からないけど。

 この技術やばいぞ。

 核石を直すのはまだ問題がない。

 クラッシャーで直った前例もある。


 一から核石を作り出したらどうなる。

 ばれたらさらわれ監禁されて、物を作る生きた道具とされそうだ。

 マイスト以外には秘密にしておこう。


 直った人形を目にしたスイータリアの目はまん丸になった。

 服をめくって核石を確認してにっこり笑った。


「メアリの魂でしゅ。間違いありまちぇん」


 スイータリアが起動するとモールスの歌と、恋歌が流れた。


「依頼完了のサインを」

「はい」


 スイータリアの手によって花丸が描かれた。


「お母さん。メアリ治ったぁ」

「良かったわね。お礼を言うのよ」

「ありあとー」


 そして、一緒に工房に来ていたスイータリアのお母さんが、サインをして、追加報酬として銀貨1枚と書いてくれた。

 最初の依頼は気分よく終わった。

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