第2章 初依頼

第5話 病気のメアリ

Side:シナグル


「メアリたんが病気なの。治してくだちゃい」


 依頼人である、スイータリア3歳からそう言われて差し出されたのは魔道具人形。

 みたところ、かなり古いな。

 服をめくると核石、溜石、導線が見えた。

 導線が切れている感じはない。

 溜石は寿命が来ると割れる。


 この魔道具人形のは割れてないから、核石だろう。

 魔石の中に線が一杯あるのが見えている。


「メアリはどんな子なのかな」

「綺麗なお歌をうたうのでしゅ」


 ギクっとした。

 この子にも魔道具の歌が聞こえるんじゃないかと。

 俺は壊れた魔道具人形を起動した。


『ラララ♪ジジ♪ラーラ♪ラーラーラ♪』


 確かに雑音が入っているから壊れている。


「今はどうかな」

「歌ってくれにゃい」


 この魔道具人形の機能は歌だな。

 びっくりしたよ。


 さて、どう直すかな。


「じゃあ、しばらくサヨナラしよっか。すぐに元気になるよ」

「ぜったい元気にするでしゅよ。メアリたんバイバイ」


 さて、治らないって言ったら絶望するだろうな。

 泣くに違いない。

 子供の涙は苦手だ。

 特にこっちが悪い場合は。


 マイスト工房の作業台の上で魔道具人形を解体する。


「核石の線がたくさんあるな。核石の交換か」


 マイストがそう言って俺の仕事を見守る。


「師匠、核石は直せませんよね」

「手っ取り早いのは同じ機能を持った核石と交換だな。だがまったく同じかどうかは分からない」

「騙されてくれますかね」

「依頼人は子供だろ。どうかな。どうする?」

「核石を交換して一度持って行きます」


 歌の核石を探すのは大変だった。

 冒険者ギルドから買ったのでは大赤字だ。


 市で古ぼけた人形を探す。

 その中に魔道具人形を見つけた。

 導線が切れている。

 きっと核石が壊れたと思って、売りに出したのだな。

 銅貨3枚か。

 予算内だ。


 核石は手に入れた。

 核石の交換作業は問題なかった。


 起動してみる。


『ラララ♪ララ♪ラーラ♪ラーラーラ♪』

「えっさほっさ♪おいらは山をてくてく歩くよ♪やっほっほっ♪クマさんこんにちは♪……」


 うん、直ったが、歌声が男の子だ。

 どう言おう。

 持って行くことにした。

 掘り出し物の魔道具人形などもうないから。


「治ったよ」

「メアリたん、綺麗な歌声を聞かせてくだしゃい」


 スイータリアが魔道具人形を起動する。


『ラララ♪ララ♪ラーラ♪ラーラーラ♪』

「えっさほっさ♪おいらは山をてくてく歩くよ♪やっほっほっ♪クマさんこんにちは♪……」


 スイータリアの目がまん丸になった。

 この反応は感激したのか、泣く数秒前か。

 どっちだ。


 スイータリアが魔道具人形の服をめくる。


「たまちいが違いましゅ。たまちいを取り換えまちたね。ひっく、ひっく」


 やばい泣きそうだ。


「あー、神の試練なんだ。ここで偽者だと見破れないと、メアリは帰って来ないんだ」

「そうだったんでしゅね。スイータリアは騙されましぇん」

「おう、立派だったぞ」


 困った。

 この事態をどう収拾しよう。

 メアリの魂を神様が気に入って持っていってしまったとか言おうか。

 泣くな。

 絶対泣くに違いない。


Side:スイータリア


 わたちと、メアリたんは姉妹でしゅ。

 どこに行くときも一緒でち。


 さあ、メアリたん歌ってくだしゃい。

 あれっ、お歌は?


「お母さーん! メアリたんが! うわーん!」

「まあまあ、貸してごらんなさい」


「ひっぐ、ひっぐ、どうでしゅか」

「溜石かしら、修理にだしましょうね」


「メアリたんの病気は治るのでしゅか?」

「たぶんね」


 メアリたんは病気のまま帰ってきまちた。


「いい、メアリは、魂が病気なのよ」


 お母さんがメアリたんの服をめくると魂が見えまちた。

 それから、わたちはメアリたんが良くなるように、毎日魂を優しく撫でてあげまちた。


「あなた、どうしましょ。スイータリアがあの人形を気に入ってて」

「新しいのを買ってやれば良いだろう」

「あれは古かったから安かったのよ。核石に線がたくさんあったし」

「魔道具人形じゃなきゃ駄目か」


「スイータリア良い子にしてましゅから、メアリたんを捨てないで」

「ええ、捨てないわよ」

「そうだ。魔道具ギルドに依頼を出せよ。この子の小遣いで。依頼が掲示板に貼られれば気も紛れるだろう。そのうち、人形なんか忘れるさ」

「スイータリア、メアリを直してくれる人を探すの。一緒に行く?」

「はいでしゅ」


 お母さんに抱っこされて、ギルドという所に着きまちた。

 中は男の人で一杯でしゅ。


「可愛いお嬢さんですね。お嬢ちゃんお名前は」


 長細いテーブルに着いている綺麗なお姉さんからそう聞かれまちた。


「スイータリア、3ちゃい」

「それでスイータリアちゃんはどんな依頼かな?」


「メアリたんが病気なの」

「メアリは、魔道具人形で、核石がもう壊れているらしいのよ」

「そうなると核石の交換以外には手がないですね。まったく同じ物はないでしょう」


「たまちいの交換はだめでしゅ。たまちいが違うのはメアリたんだと認めまちぇん」

「こんな感じなのよね。冷やかしの依頼だけど良いかしら」

「はい構いません」


 板の前で抱き上げられまちた。


「スイータリア、ペタってここに紙を貼るのよ」

「ぺた」

「良く出来たわね」


 メアリたん、早く治るといいでちね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る