第4話 魔道具ギルド

Side:マイスト


 シナグルは可哀想な奴だ。

 魔道具から歌が聞こえるらしい。

 よっぽどつらい目に遭ったんだろう。


「シナグルはどこの生まれだ?」

「ここから1週間歩いた場所の寒村の生まれ」

「小作農か」

「うん」

「口減らしに出されたんだな」

「自分から出てきたんだ」

「分かってるよ」


 俺はシナグルの両肩に手を置いて言った。


「そんなんじゃ。まあいいけど」

「でどうしたんだ」

「幼馴染と冒険者を始めた。最初は上手くいってたんだ。レベル差もそれほどじゃなかったし」

「戦闘スキルがあるのか?」

「ないんだ。良く耳が聞こえるっていうスキルだけ」

「それで、モンスターに負けそうになって怖い思いをしたんだな。うんうん」


 俺はシナグルの両肩に手を置いて、ぽんぽんと叩いた。


「怖い思いはしたけど、くじけなかった。パーティを首になったんだ」

「酷いな。心がボロボロなのに追い打ちかけて」

「そうなんだよ。ギルドカードを取り上げられた」

「魔道具ギルドのギルドカードを作れば良い」

「推薦がいるんじゃないの」

「腐っても師匠だ。推薦状ぐらい書かせてくれ」

「師匠、ありがと」


 シナグルが泣いている。

 やっぱりつらい目に遭ったんだな。


「魔道具の歌が溜まったな。どうするんだこれ?」

「えっと、今の俺の夢は核石を作り出すこと。そのためには研究しないと」

「うん、頑張れよ」

「はい」


 シナグルが溜石の交換作業を始める。

 慎重にナイフを溜石の隙間に差し込むと、ポロっと取れた。

 うん魔道具のがわには傷がほとんどない。

 丁寧な仕事だな。


 新しい溜石をはめ込む。

 新しい溜石は少し小さかったので、ぐらぐらしている。

 シナグルが漆喰を塗って調整する。


 乾くまで溜石を糸で固定した。

 乾くまでの時間。

 さっき溜石を固定した魔道具を手に取る。

 溜石がぐらついてないことを確認すると、溜石と核石を、魔石の粉で染めた糸で繋ぐ。

 試験的に魔道具を使ってみてオッケーなら完了だ。


 シナグルには歌が聞こえるんだろう。

 うっとりとそれを聞いている。


 可哀想な奴だ。

 聞こえもしない歌が聞こえるだなんてな。

 幸いにも溜石交換作業に支障はない。

 仕事ぶりも丁寧だ。


 こういう奴に、歌なんか聞こえないと強固に否定の言葉を言うのは良くない。

 そう、聞いたことがある。

 そうだろうな。

 確かに、歌が聞こえて良かったなと言ってやれば良い。

 可哀想だが、時間が癒してくれるさ。

 きっとそのうち歌も聞こえなくなる。


 口減らしか。

 命があっただけで、大したものだ。

 大半の小作農の子供は、冒険者になって死んでいく。


Side:シナグル


 師匠は優しい。

 俺のミスにも笑って丁寧に教えてくれる。


 ここが、魔道具ギルドか。

 魔道具ギルドは冒険者ギルドとほとんど同じだ。

 ただ中にいるのが職人だというだけ。


「登録したい」


 俺は推薦状を出した。


「では簡単な試験をします。工房7番に入って下さい」


 7番と書かれた、扉から中に入る。

 そこは工房で、テーブルと椅子。

 テーブルの上にはルーペと工作ナイフと漆喰とヘラと糸。

 全て揃っている。

 しばらくして、試験官が入って来た。


 赤ら顔で革のエプロンを付けている。

 いかにも職人という感じだ。


「お前が登録希望者か。試験は2つ。1つは溜石の交換と、もう1つは魔道具の形から機能を当てる」

「分かった」


 手早く溜石を交換する。

 機能当てクイズに出された魔道具の形は、鳴らすベルの形。


「警報の魔道具だ」

「正解だ。溜石の交換も問題ない。合格だ。この紙を受付に出せ」


 出された紙を受付に出すとFランクと書かれたギルドカードを貰った。

 最下位からか。

 仕方ないな。


 どうやったら、ランクが上がるかと言えば、ギルドの依頼の修理をこなした分だけ上がる。

 何か記念に依頼を受けようかな。

 魔道具の修理依頼がある。

 ランク指定がない。

 内容は核石を直して下さいだ。


 分かっているよ。

 魔道具の核石が壊れたのは直せない。

 しかも、依頼の金額が銅貨6枚だ。

 溜石の交換で、材料が依頼人持ちだとしても、もっと高い金額になる。


 でもやってみたい。

 何となくそう思った。


 受付に依頼票を出すと。


「冷やかしでなくて、本当にこれを受けるんですか」

「ああ。俺の勘が受けろと言っている」

「歌が聞こえるんですね」

「今は聞こえないが、そうだ。俺の話は師匠から?」

「ええ、マイストさんから聞いてます。全ての魔道具から歌が聞こえるなんて素晴らしいですね」


 魔道具から歌が聞こえるなんて言って、素晴らしいと言われたのは初めてだ。

 きっと心が綺麗な人なんだろう。


「この依頼を是非やってみたい」

「あなたなら、依頼を出した女の子の傷を癒してあげられるかも知れませんね。私はピュアンナ」

「シナグルだ」

「存じてます。ギルドカードにも書いてありますし、マイストさんから聞いてますから。はい受付完了です」


 話している間に、ピュアンナは素早く処理を終えたようだ。

 依頼人の住所を渡されたので、地図を見て場所を確認する。

 ギルドから出ると空は1つの雲もない晴天だった。

 いい出会いが待っていそう。

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