第3話 魔道具に魅せられる

Side:シナグル

 どうしよう。

 ええと何をして過ごしたら良いんだ。

 耳が良く聞こえるスキルで活躍する未来が思い浮かばない。


 とりあえず、冒険者ギルドに行こう。

 行けば何か依頼が見つかるさ。

 生活依頼だってある。


 ギルドの強面の冒険者には慣れた。

 これだけでも成長している。


 依頼の掲示板を見て。薬草採取の依頼を手に取る。

 受付に出すと。


「これは受けられません。この依頼は駆け出しのための物です。Cランクであるあなたが受けられないのは分かってますよね。それとバイオレッティさんから、あなたが寄生行為をしているとの訴えが」

「してない」

「では戦闘試験で証明して頂きましょう」

「えっと」


 不味いことになった。

 寄生行為は貴族などがよくやる。

 モンスターを傷めつけといて最後の一撃を加えたりする。

 石をモンスターに投げて怒らせるだけの役割とかも寄生行為とされる。

 どちらも僅かながら経験値が入る。


 寄生行為をしている者は戦闘能力がないのが大半だ。

 回復職ですら、捨て身の攻撃や、過剰回復で攻撃したりする。


「どうしたのですか?」

「戦えない」

「寄生行為を認めるということですね。ギルドカードは回収します。相応しい戦闘力になるまで預からさせてもらいます」

「そうかよ。ほら、カードだ」


 くそっ。

 どうしろって言うんだ。


 あてもなく歩く。

 ある店の商品に目が留まった。

 魔石が2つはめ込んであるから、魔道具だな。


 魔道具をじっくり見たことなどない。

 村では魔道具は貴重品だ。

 村長ぐらいしか持ってなくて、実物を見たことがない。

 パーティに入ってからも、最初は火打石と水筒。

 魔法が増えてからは火点けと水はパーティメンバーが魔法で補ってた。

 他のパーティが使っているのを遠目ではみたことがあるけど。


「お客さん気に入ったかい」

「ええ、綺麗だね。特に線が入った魔石が」


 魔道具の魔石は2つあって片方の魔石には線が何本が入っている。


「線が入った方は、核石だよ。線のないのが溜石。核石には呪文が組み込まれているってのが定説だけど、証明した者はいない」

「何で?」

「核石を作り出せる人はいないからさ。失われた技術で、核石が手に入るのは主にダンジョンだよ」

「俺はダンジョンには入ったことがないな」

「あそこは核石1つで最低が金貨だけど、死亡率も高い」

「パーティメンバーの誰もダンジョンの話題は避けているようだった」

「それが普通だよ」


「で、核石の中にある線が呪文ってわけ?」

「こいつは傷さ。10回ほど使うと線が1本入る。これが増えれば増えるほど故障のリスクが高まる」

「へぇ、じゃ線がない方が高いってわけだ」

「ああ、だから店頭のは盗まれても良いように、線がたくさん入っている。ためしに、使わせてやるよ。やってみな」


 俺には魔道具が、聞いて聞いてと言っているように思えた。


「【傾聴】」


 スキルを発動させて魔道具を使う。


『ララ♪ラーラーラ♪ラーラ♪ララ♪ラー♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪』


 綺麗な歌が流れた。

 そして魔道具から火が出た。


「綺麗な歌だ」

「お客さん、魔道具の声が聞こえるのか。冗談か、比喩だよね」


 なんて答えようか。

 正直に言ってみよう。


「歌が聞こえたんだ」

「つらいことがあったんだな」

「つらいことはあったけど、心が壊れたわけじゃない」


「うん、信じるよ」


 両肩に手を置いてそう言われた。


「ちょっと」

「ふむ、そんなスキルがね。じゃあこっちは」


 分かってるよと言わんばかりの店主の態度。

 出された魔道具を使ってみる。

 火は出ない。


『ララ♪ラーラーラ♪ジーラ♪ララ♪ラー♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪』


「なんか雑音が一か所入ってる」

「ほう、故障が分かると。たしかに使ってみればそれは分かる。しかしだ。故障箇所が分かれば、一歩前進だ。面白い。俺に弟子入りしてみないか」

「ちょうど行く宛てがなかったんだ」

「そうか。2階に一部屋空いているから好きに使え」

「ありがとう。師匠」

「おお、弟子。名前は? 俺はマイスト」

「シナグル」


「よし、住む場所の掃除と、店の掃除だ」

「はい、師匠」


 師匠は良い人だ。

 俺の魔道具の歌が聞こえるっていう話を信じてくれたのか、心が壊れた人だと思ったかは分からない。

 どっちでも良い人確定だ。


 俺はとりあえず、魔道具の歌を聞き取って、書き出した。

 商品でそれをやると損なので、壊れた魔道具の声を聞き取った。


 壊れていても元の歌は何となく分かる。

 歌の種類によって魔道具の機能が違うことも分かった。


 歌は機能を表す呪文なんだな。


 壊れた魔道具の歌で癒されていく。

 そんな日々を過ごした。


 魔道具屋の仕事は簡単だ。

 主な仕事は核石と溜石と導線の交換。

 溜石も長く使うと壊れる。

 溜石の機能は魔力を溜めると分かっている。

 大きい魔石を使うと威力が上がる。

 小さい魔石を使うと威力が下がる。

 威力調節の機能も果たしている。

 ただ、裏技があって、魔力を半分込めると、半分の威力になる。

 大は小を兼ねるというわけだ。


 導線は魔力の通り道。

 太ければ太い程持続時間が短くなる。

 細くなればなるほど持続時間は長くなる。

 これも切れることがある。

 切れたら交換だ。


 魔道具は一回使うと魔力が空になる。

 攻撃用魔道具が重宝されないのはそれも理由だ。

 それといつ壊れるか分からないので、空振る危険があると怖い。

 金を腐るほど持っていれば別だ。

 複数の魔道具を運用できる。


 それと核石だけど、小さい魔石の核石ほど早く故障する。

 それはなんとなく分かる。

 傷が重要部分に付けられるかは確率だけど、海の中に浮いているピンポン玉に適当に投げた石が当たるのと、風呂の中に浮いているピンポン玉に投げた石が当たるのでは確率が違って来る。


 魔道具屋の基礎は10日で覚えた。

 だが、師匠のそばを離れるつもりはない。

 店を開く資金もないし、恩を返せてない。

 ああ、核石の秘密がもっと分かれば、恩返しできるのに

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