第2話 パーティ追放

Side:シナグル

 初めての冒険者ギルドは、冒険者達がとても怖く感じられた。

 みんなどこかに傷を持っている。

 回復スキルを使っても傷をなくすことは容易ではない。

 ポーションもだ。

 エリクサーでも使えばまた話は違うけども。


「そこのお二人さん、俺達のパーティに入らないか?」


 俺と同年代の男に声を掛けられた。

 人懐っこい笑み。


「どうする?」


 マニーマインから相談された。


「どこかに入らないといけないんだし。同年代は気楽かも」

「そうね」


「おっ、話が決まったか? 俺はバイオレッティ」

「よろしく。シナグルだ」

「よろしくね。マニーマインよ」


「役割を聞かなくてもいいのか?」

「良いって。合わなきゃ別れるだけだから。さっそく狩りに行こうぜ。ゴブリン狩りからどうだ」

「うん、それなら何度もこなした」

「そうね。できると思う」

「そうこなくっちゃ」


 他のメンバーは盾職のサーカズム。

 魔法使いのスノットローズ。

 回復職のクールエル。

 これで6人パーティだ。


 モンスターのいる森はどこも同じで、静けさが不気味だ。

 もう慣れたけど。


「【傾聴】。あっちにゴブリン3匹」

「便利なスキルだな。助かるぜ」

「これしか取り柄がないから」

「できたらでいいけど、ナイフを持って遊撃とかできないかな」

「モンスターと接近戦は怖いから」

「怖がってちゃレベルは上がらないぜ」


 分かっている。

 村では何回かゴブリンに一対一を挑んだ。

 いまのところ全敗。


 モンスターの筋力は侮れない。

 俺に戦いのセンスがないってこともあると思うけど。

 とにかく勝てない。


 スライムともやったが、こちらも体液を浴びせられ、火傷で苦しんだ。

 最下級のモンスターに勝てなくてどうしろと。

 レベル限界値が何も意味をなさないのが良く分かる。


 とにかく、何かが必要だ。

 いまのところ俺には傾聴スキルしかない。


 最初は上手く行ってた。

 俺は討伐で頑張れない分を雑用で補った。


 だけど、スノットローズに地図スキルが生えて事態は一変した。

 地図スキルは音じゃなくて的確にモンスターを捉える。

 俺の場合、動物と聞き違えたりもする。


「よう、シナグル。俺達の足を引っ張っている奴は誰だ?」


 バイオレッティが俺にそう尋ねた。


「足を引っ張っているメンバーなんかいない」

「そうか。みんなもそう思うか?」


 みんな俺を見てる。


「ここは知恵袋の魔法使いとしての私が引導を渡してやるべきよね。シナグルと私達のレベル差は開く一方」

「でも斥候が二人いれば間違いも減るだろう」

「それなら、攻撃も出来る斥候を入れた方が良い。ここまで言っても分からない?」

「みんなも同じか」


 俺とマニーマイン以外のパーティメンバーが頷いた。

 くそっ。


「何? その目は? 私達に出した装備代を寄越せって言うの。さんざん守ってあげたから、チャラよね」

「そんなこと言ってない。分かったよ、パーティから抜ける」


 俺は失意のどん底で、宿屋を後にした。

 振り返るマニーマインが追ってきてくれると信じて、しばらくその場に立ち尽くすけど、誰も追って来ない。

 きっとマニーマインは説得に時間が掛かっているだけだ。

 今日は諦めよう。

Side:マニーマイン


「おい、一匹逃げた」


 今日の獲物はオーク。

 逃げた一匹はシナグルの方に向かっている。

 ちっ、世話が掛かる。


「任せて。【俊足】からの【斬撃】止めは【火炎剣】」


 素早く回り込み、一太刀浴びせる。

 返す刀で燃え盛った剣をオークの体に刺し込んだ。


「さすが、マニーマイン。スキルスロット5つって反則だろう。普通2つか3つなのにさ」

「でもスキルスロットは全部埋まってない」

「伸びる余地があるってことだろ。あいつと違ってな」


 バイオレッティが顎をしゃくる。

 その先にはシナグルが。

 シナグルは悪い人ではないのよね。


 それどころか、自分の装備は後回しにして仲間の装備代に回している。

 でもお人好し加減にも少しうんざり。

 目に期待の色が見えるから。

 もう潮時なのかもね。


「何?」


 シナグルその無邪気な目をやめて。

 育ちの悪い子犬を思い出すから。

 最初から小さい育ちの悪い子犬は兄弟との争いに負けて、大抵は死ぬ。

 仕方ないのよ。


「何でもないわ。索敵ありがとう」

「俺こそ守ってくれてありがとう。俺って最近、役に立ってないような」

「地図スキルと併用は悪くないわ」


 地図スキルの方が圧倒的に便利。

 だって宝物だって見つけてしまうのだから。

 音を立てない物にはシナグルのスキルは役に立たない。

 動き出してないゴーレムとかトレントの類だとどうにもならない。


 何か別の使い方があればよかったのに。

 せめて生産とかできたら、パーティ専属の職人にしたのだけど。


 そして、シナグル追放の場が設けられた。


 私は追放すべしとの声に頷かなかったけど、それは死体に鞭打つのもどうかと思ったから。

 あまり追い詰めすぎると死兵になるから。

 モンスターもそうよ。

 最後の反撃が一番強い時がある。

 逃げ道を作ってやって、弱腰になった所を仕留めるのが良いから。


 シナグルにそんな気概があるとは思わないけど、念には念よ。

 普通なら禍根を残さないために徹底的に叩くのだけど、そこは見逃してあげる。

 感謝することね。

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