第7話 魂の傷

Side:スイータリア

 お母さんに連れられて行った場所は不思議な道具でいっぱい。

 きっとここはおとぎの国ね。

 お人形さんが乗るようなシーソーがありましゅ。


 でもへんなの。

 座席がひとつしかないんでしゅ。

 シーソーを独りでやってもちゅまらないのに。


 メアリの魂がそこに載せられまちた。

 なにが起こるかワクワクしまちゅ。


 お兄さんが2回、シーソーの座席を押ちまちた。

 何も起こりまちぇん。


 がっくり。

 ありっ、メアリが治されていきまちゅ。

 お兄さんがメアリに歌を歌わせました。

 やったぁ。

 治ったぁ。


 あのシーソーはメアリの魂を治す道具なんでちね。

 お兄さんは神様の使いでしゅか。

 きっとそうでしゅ。


 座席が1つしかないのは。

 神ちゃまが触れないからなんでちね。


 神ちゃまが2回シーソーで遊んで、お礼にメアリを癒してくれたの?

 きっと、そう。

 メアリをシーソーの端に置いたのは、遊んでいるところを見ちぇて、楽しさを思い出させるためでちゅね。

 魂に傷ができると楽しさがなくなってしまうのでちか。

 そういえば、つまらなそうな大人を見ることがありましゅ。

 あれはきっと魂が傷ついているんでしゅね。


「スイータリア、黙っているけど、どこか痛いの」

「お母さん、つまらなそうな大人は魂が傷ついているんでちゅか」

「ふふふ、そうかもね」

「たくさん遊んで、楽しいことを思い出せたら、きっとなおりまちゅ。メアリのようにでしゅ」

「そうね。でもそっとしておいてあげなさい。魂に傷ができると痛いのよ。話し掛けられても痛いの。スイータリアがニコニコしてたら、傷も癒えると思うわ」

「わかりまちた。いつも笑顔でしゅね」


「おい、シナグル。お前、とてつもないことをやったな」


 お兄さんよりさらに大きいお兄さんが笑顔でしゅ。

 お兄さんの肩をバンバン叩いてまちゅ。


「師匠、痛いって」


 お兄さんは叩かれているのに笑顔でしゅ。

 さっき遊びにきた神ちゃまが、笑顔を持って来てくれたんでちか。


 お兄さんは神様の使いでなくて、きっと神ちゃまと友達でしゅね。

 神ちゃまの友達は少ないとおもいまちゅ。

 わたちトキメキまちた。


「大きくなったらお兄さんと結婚しましゅ」

「あらあら、おませさんね。お父さんが知ったら泣くわね」

「お父さんの魂に傷ができたでしちゅか?」

「たった今ね」


「帰ったら、わたち笑顔をみせまちゅ」

「それがいいわね。きっとお父さんの涙も止まるわよ」


 お母さんも笑顔。

 いつかわたちも神ちゃまと友達になるんだぁ。


Side:ピュアンナ

「これ依頼票」


 シナグルが満面の笑みで依頼票を出して来た。


「あら可愛いサインね。追加報酬ですって」

「驚くほどのことかな」


 あの、シナグルという男やるわね。

 人の痛みが分かるとは思っていたけど、追加報酬をもらうなんて。


「おめでとうございます。Dランクに昇級です」

「へっ?」

「クラスが付かない依頼は最高難度の依頼。これをFランクで成した者は2つランクが上がります。Fランク以上は1ランクアップになります」

「そうなの。儲けたな」


「ちなみにどうやりました」

「そこは企業秘密」

「核石を取り換えたわけではないですよね」

「そうなんだ。偶然、同じ核石と出会えた。朝市も馬鹿にならないね。銅貨3枚で導線の切れた人形魔道具があるんだから」

「そうですか。嘘ついてます?」

「ついてないよ。依頼人に聞いたっていい。その場にいたからな」

「あとで、スイータリアちゃんに聞けばわかります」

「ああ構わないぜ」


 この男、どういう経歴かしらね。

 魔道具の歌が聞こえるって普通の人が聞いたら、精神を疑うでしょうね。

 本当なら素敵なことよね。


 デートに誘ってみましょうか。


「この後、ご食事でもいかがですか?」

「うーん、ご飯は師匠と食べることになっているんだ。師匠は俺が気をつけないと食事を抜くから」

「断るとしても、意外な理由でしたね」

「お茶なら一緒に飲めると思うよ」

「では明日の休憩時間に」

「何で俺って思うけど、ピュアンナが良ければ」


 追加報酬を貰うついでに、スイータリアちゃんに聞き取り調査に行った。


「人形はどうやって直しました? お願いだから、お姉さんに教えてくれない?」

「お姉さんも魂に傷が付いたんでちか?」

「魂に傷?」

「魂に傷ができると詰まらなくなるんでち」

「そうかもね。人形もそうだったと。あの男は魂を直したと」

「お兄さんは神ちゃまと友達でち。メアリの魂を治す時に神ちゃまと遊んでまちた」


 なんのこと。

 儀式?

 魔法?

 スキル?

 秘術?


「ありがとう。お姉さんの魂の傷も癒えたわ」

「よかったでちゅ」


 謎が深まった。

 ぜんぜん分からない。

 でもお母さんもそれを聞いて頷いている。

 認めたくないけど事実のようね。

 本当に魔道具の歌が讃美歌みたいに聞こえるのかも。



 次の日の休憩時間。


 シナグルと世間話をしたわ。

 寒村生まれで、冒険者を志し挫折、魔道具職人にね。

 ありがちと言えばありがちな経歴。

 まあ、いいでしょ。

 勘が正しければ、そのうちSランクになるはず。

 試験した教官も腕は一流だと言っていた。

 私の顔と名前を憶えてもらっただけで、良しとしましょう。

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