玄関

 すずかちゃんは、両親をお見送りするため、みりを抱っこして、玄関の外へ出ました。お見送りをする時、お父さんが、みりの頭をなでました。

「すずか、みりといっしょに、るすばんを頼むぞ。」

「うん。」

車に乗り込もうとした時、お母さんが、花だんを見て、思い出しました。

「いっけない。バタバタして、お花の水くれをするの、すっかり忘れていたわ。」

「このあいだ、雨が降ったばかりだし、だいじょうぶじゃない?」

「植木鉢のお花にだけ、いそいでお水をあげちゃうわ。」

お母さんが、あわてて、小屋のほうへ行って、じょうろをとってきました。

「あとでいいだろう。お母さん、もう行かないと。」

お父さんが、腕時計を見ながら、お母さんを急かしています。

「わたしがやっておくよ。」

すずかちゃんが声をかけると、お母さんが、じょうろに半分だけ水を入れた状態で、すずかちゃんの近くに置きました。

「おねがいね、行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」

両親が出かけた後、すずかちゃんは、じょうろを手に持ちました。気づくと、みりが、玄関ドアから顔を出して、こちらを見ていました。

「みり、遊んでおいで。」

みりは、芝生へ出て、近くに生えていた、長くのびた草をかじりました。それから、木によじのぼり、鳥とお話しをし、あたたかな日光と、風のにおいを、楽しみました。

 みりの姿を見て、びっくりしたのは、野ねずみの親子でした。畑のすみっこの穴ぐらの中に隠れています。「白いけもの」がいなくなるまでの間は、危ないので、家族みんなで、外出禁止にするようです。さっき、すずかちゃんのお父さんが、屋敷の窓からほうりなげたピーナッツが、どこかに落ちているはずなのですが、はたして、気づいているのでしょうか。

「あっ、モンシロチョウと、アゲハチョウもいる。」

すずかちゃんは、空のちょうちょうを見上げてから、植木鉢やプランタのひとつひとつに、水やりをしました。ピンク色のプリムラの花や、紫色のイパネマの花、だいだい色のマリーゴールドの花が咲いています。少し手を添えて、茎や葉っぱ、土のところに、じょうろの水をたっぷりとかけました。水やり中に、ぴょんと飛び出たアマガエルは、近くの葉っぱに飛び移りました。マリーゴールドの植木鉢の下では、むしの夫婦がそろって休んでいましたが、すずかちゃんは、気がつきませんでした。

「みり、お家へ入ろう。」

それを聞くと、みりは、走って来て、すずかちゃんより先に、家の中へ入っていきました。すずかちゃんが、家の中へ入ると、とびらが、パタンと閉まりました。

 今日、新しい子ねこが家へ来ることを、みりは、感じていました。朝見た夢の中で、みりの本当のお母さんに会い、その感覚はより強まったようでした。こねこが来たら、自分がしてもらっていたように、優しくなめてあげようと思いました。そうすれば、きっと、こねこは安心して眠れるでしょう。家族みんなが楽しく暮らせることが、みりにとっても、幸せなことなのでした。

おしまい。

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満月の夜のおはなし みなりん @minarin

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