ひみつきち
朝ごはんを食べ終えた、すずかちゃん一家は、二階のろうかに集まりました。ひみつきちに行くには、専用の入り口があるのです。まず、棒を使って、二階のろうかの天井板を押し上げ、あいた穴のふちにある金具に、はしごをかけてのぼるのです。
お父さんは、はしごの具合を確かめた後、すずかちゃんをふりかえりました。
「お父さんが行って見てくるよ。すずかも、行きたいか?」
「もちろん。」
「よし、それなら、さきにのぼりなさい。お父さんが、下で支えているから。」
「うん。」
すずかちゃんは、はしごの一番下の段に、足をかけました。そして、一歩ずつ、上へ上がって行ったのでした。
「すずかは、身軽でいいな。お父さんは、少しばかり太ってしまったせいか、はしごがきしむ。」
すると、お母さんが、くすくす笑いました。
「そうよ、お父さん。はしごをこわさないでちょうだいね。」
そうこうしている間に、すずかちゃんは、屋根裏部屋に上がることに成功しました。
「いる、いる。みりが、ねてる。」
すずかちゃんは、つくりつけの棚に重ねてある毛布の上で、みりが丸くなっているのを見つけました。
「やっぱりいた。よかったあ。」
すずかちゃんは、みりのもとへ行き、しゃがみこみました。よく見ると、みりの肉球は、黒ずんで汚れていますし、からだじゅう、ほこりだらけでした。
「みりったら、泥んこになっちゃって。」
すずかちゃんは、みりの額のあたりを、指でそーっとなでました。それから、手のひらで、みりのお腹のあたりも、なでてみました。みりは、本当にぐっすり眠っているようで、なかなか起きません。
「ハ、ハ、ハックショーーーン!」
「わあ!」
後ろで、お父さんが、特大級のクシャミをしました。すずかちゃんは、びっくりして、床に腰をついてしまいました。すると、みりも、うっすら目を開けて、あくびをしたのです。
「おはよう、みり。」
みりは、すずかちゃんに抱っこされて、ごろごろいっています。
「じゃあ、もどろう。もうみんな、朝ごはん食べちゃったんだよ。」
その頃、お父さんは、屋根裏部屋のすみっこをまわり、床板を確認していました。
「みりは、本当に、かしこいねこだ。こんなところから上がれるなんて、ちっとも気づかなかった。」
お父さんは、部屋をひととおり見てまわり、落ちていた飛行機の模型をひろいあげて、棚の上に置きました。
「おや?」
お父さんは、窓の外をながめながら、窓がすこしひらいているのに気づきました。いったん全開にして、閉めようとした時に、窓枠の内側に、ピーナッツが一つ置いてあることに気づきました。
「前に、ここで、晩酌した時に、落としたかな?」
そう言って、お父さんは、ピーナッツを、屋根裏部屋の窓から見える、庭のほうへ放り投げました。
(この窓が、開けっぱなしになっていると、みりが外に出てしまうかもしれない。あぶないな。今度から、気をつけるようにしよう。)
お父さんは、レバーを内側にひいて、しっかりと窓を閉めました。
二階のろうかから、お母さんが、すずかちゃんたちを呼んでいる声がしました。すずかちゃんは、穴から下を見おろしました。
「みりは、いたの?」
「うん、ねてたよ。」
「ああ、よかったわ。早くおりてきてね。そろそろ出かける準備をしないと、間に合わなくなっちゃうわ。」
「みり、ひとりではここからおりられないよね。お母さん、はしごを上がって、みりを受けとめてくれる?」
「はいよ、みり、おいで。」
ところが、みりは、身を固くしてつめをたててしまい、なかなかお母さんの腕の中へ行こうとしません。
「怖いのかな、お母さん、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶよ。ちょっと、待っててね。」
お母さんは、いったん、一階へおりて、みりの朝ごはんを持って、戻ってきました。
「みり、ごはんよう。」
その声を聞いたみりは、怖さも忘れて、お母さんの腕の中へとびこみました。
「お母さんの作戦勝ちだね。」
「おなかがすいていたのよね、みり。」
みりは、そのまま、お母さんを誘導するかのように、一階へ行き、朝ごはんをもらったのでした。
「みりの白い毛が、灰色になっちゃったわ。まるで、シンデレラね。」
「シンデレラ? なんで?」
すずかちゃんは、みりがおいしそうにごはんを食べるすがたを見ながら、不思議そうに聞きました。
「シンデレラって、『灰かぶりひめ』っていう意味があるのよ。」
「知らなかった。そんな意味があるんだ。」
「ごはんを食べおわったら、みりをきれいにしてあげたいけど、もう時間がないから、あとでいいかしら。」
「それなら、わたしが、おるすばんしている間に、みりをきれいにしてあげる。それから、こねこが来る部屋のチェックもして、もしも、足りないものがあれば、連絡するよ。」
「まあ、すずかちゃん、ひとりでおるすばんしてくれるの?」
「ひとりじゃないよ、みりと、ふたり。」
すずかちゃんは、今は、みりといっしょにいたほうがいいような気がしたのです。
「お父さん、すずかちゃんが、家にいてくれるって。」
「悪いな、すずか。そうしたら、しっかり戸締まりして、待っていてくれよ。こねこを、つれて来るぞ。」
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