カクヨムの9割がしらないレトリック
藤原くう
オノマトペ(擬声語)について
オノマトペ三銃士を連れてきたぞっ!
「あーあヒマだなあ」
そう漏らしたのは三銃士が一人、祇園。
「ちぇっ、俺たちもメタファー先輩みたいに人気だったらなあ」
「プウプウしょうがないじゃないですよ」もう一人が慰めるように言った。「小説はあいつらの天下なんですから」
「そうは言うがね、ミミクリー。悔しくはないのか? 俺たちだってレトリックなのに、小説家にそしられるってのはどうにもおかしな話じゃねえか」
ミミクリーは身じろぎする。そのたびに、すり切れたズボンがちゃぶ台にぶつかり、欠けたコップがコトコト鳴った。
「コミカルなのが問題なんでしょうね」
「あっ、おめえ、言ってはならんことを!」
「だってそうではないですか。今この瞬間、私たちが抜刀、切ったはったの立ち回り、鬼気迫る鍔迫り合いを『キンキンキンキン』なんかですませちゃったら、あまりに滑稽ではありませんか」
「なにおぅ!! お前は仲間のくせして俺をバカにすんのか!」
「バカにはしていません、戦場を見極めるべきだと言っているのです。確かに、私たちはバカにされています。稚拙だと思われています。しかし、もっと活躍できる場所があるではありませんか」
ビシッとミミクリーが指さす先には本棚――『ジョジョの奇妙な冒険』と『ニンジャスレイヤー』。
「――漫画」
祇園の言葉に、ミミクリーはコクコク頷く。
「そうです。漫画はオノマトペの宝庫、どこをペラペラめくっても、出てくる出てくるオノマトペ。ユートピアですよ、あそこは」
「そうだ、俺もついこの間、出番をもらったっけ」
「祇園さんは視覚聴覚を連想しやすいですからねえ。『パラパラ』『シトシト』『ザアザア』みたいに、雨の程度を一言で表せるなんてすごいと思います」
「へへっありがとよ。お前だって、便利だぜ。――『ゴロゴロ』『キラキラ』おや雷かい」
「これはひどくなりそうですねえ」
しんみりとした雰囲気で、二人は窓を、その先に広がる、鉛色とそれを越えた先に広がる青空とに想いを馳せた。
祇園が湯呑に手を伸ばそうとした矢先、廊下がガタガタ揺れる。誰かが駆けてくる。安アパートだから、どたどた鳴るたび古ぼけた板がきしむ、振動が部屋にまで伝わって、湯呑が倒れる……。
バンッ。
扉が勢いよく開く。そこにいるのは汗やら雨やら鼻水やらでぐっしょり濡れた男。
「いやーブーブーがナイナイしちまって、びしょぬれですよ。って、どうしてお二人が。あ、もしや、『オノマトペ三銃士』なのにわたちをハブにしたんですか」
部屋に入ろうとしていた男が立ち止まり、『おめめ』をパチパチ。
それもそのはず、目の前にいる祇園とミミクリーの表情がみるみる曇っていく。曇って曇って、お天道様を隠すあの入道雲のように険しいものとなって、ついには雷が落ちた。
ゴロゴロ……ビシャン!
「お前のせいでオノマトペがバカにされるんだ!」
いつものケンカは、三人の頭に大家の電撃が炸裂するまで続いた。
(次回→オノマトペのちゃんとした解説)
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