「さっさと吐け!」


バチバチバチバチバチバチ


「アァァァァァァァァ!」


電気の流れる音と悲鳴がひびく


椅子に縛り付けられた女が男2人から拷問を受けていた


「ノートはどこだ!言え!」

「…ハァ…ハァ…ノート…言うか…ブサイク」


バキッ


男の拳が女の顔面を捉える

「俺達がお前を殺さないとでも思ったか?三日月は今頃死んでるよ」

「……だったら余計にアタシから聞き出さないとね」

「なら言いたくなるまで続けてやる」


バチバチバチバチバチバチバチバチ


「アァァァァァァァァ!」


「苦痛だろう、誰も助けてくれんぞ?戸川 志津?」



「……思い出した…」


「?!どこだ!どこにある?!」


「アンタらに言いたかった事…アンタら口が臭い…モテないだろ…ブサイク」


バキッ


「…ッ!」


「ふざけやがって!…なにニヤついてる!」


戸川は傷だらけの顔でニヤニヤしながら続けた


「頭が悪い…と…大変…そうだなぁ…顔も悪けりゃ性格も悪い…オマケに拷問も尋問も下手…童貞が喋ん…」


ドカァッ!


「いちいち癇に障る女だ!クソが!」


戸川の右側頭部に激しい鈍痛が走り


ー三日月さん…なんとか…生き延びて…ー


それだけ思い戸川はブラックアウトした





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


三日月は自分が借り上げたアパートが燃えているのを見つめていた


ー馬鹿だな…まだ誰も保護してなかったのに…ここがこうなるって事は…これで俺の記録も抹消か…全部バレてたって事かー


「アハハ…これじゃ生島からしたら俺はピエロだわな、戸川とEdenにいる連中だけでもなんかしないとな」


そういい三日月はその場から消えた


Eden

千葉の奥地に建てた保護施設、医療施設、RACK本部も兼ねた建物で地図には無い

国土安全保障庁管轄建造物で表向きは訓練施設となっていた

基本捜査官達は本部にあまりいない、保護対象者や逮捕した者を連れてくる以外ではお互いを秘匿するために顔を合わせる事をしない。情報分析官や研究者や医療スタッフ、監視棟の警備スタッフ達は基本外に出られない、唯一三日月や生島のような特別捜査官達は配属された新人の研修もするので出入りが許されている、局長と呼ばれる施設最高責任者も出入りが許されているその1人だ

全てRACKを「秘匿」にするための処置だった

三日月はEden管理棟正面口に瞬間移動すると建物そのものがとても静かで違和感を感じた

神経が過敏になっているのだと自分に言い聞かせながら正面口から建物に入り目当ての局長室に向かうとそこには三日月が想像していた以上の地獄が待っていたのだった……



局長室は管理棟1番上の角部屋

そこに三日月が局長とサシ向かって話していた

違うのは局長と呼ばれた人間は椅子に座らず床に這いつくばりながら命乞いをしていた


「信じてくれ三日月君!私は何も知らない!研究棟には入れるが医療、居住フロアのみで研究フロアはアクセスできないんだ!本当に知らないんだよ!」


足を撃たれ下半身を濡らし泣きながら命乞いをしているのはEden最高責任者「上原局長」だ

震えるのも無理はない、三日月は警備スタッフ達を殺し何人かの死体と一緒湧いて出たのだから


「局長?貴方が知らない事ないでしょう?」

「知らんもんは知らんのだよ!」


パァン!


「ギャー!足ィ!指ィ!」


三日月は上田局長の左足の指を撃ち手の薬指に狙いをつけた

「嘘はやめてくださいよ?生島は何をしたんです?Edenの研究棟で何をしているんですか?次言わなければ…」

「知らんのだよ!本当に!切り捨てられた私はもはやお飾りの局長だ!」

「切り捨てられた?」

「たしかに君の言う通り長官から君をどうにかしろと言われた…だが殺す気はなかった!本当だ!生島が勝手にやった事だ!知りたきゃ長官に聞いてれ!私は長官の秘密も知っている!それを暴露してもいい!」

「切り捨てられる要員にそこまで大それた事を長官か知らせる必要は無いと思いますけどね…あと…戸川はどこにいる?」

「尋問室だ!保安課の人間が逃げた戸川を捕まえたと報告がきていた!これでいいだろう?!」

三日月は腕時計を確認すると

「まぁいいでしょう、そろそろ生島も帰ってくる時間だ…局長?少し遠くに行きませんか?」

「た、た、助けてくれるのか?」

「どうでしょうねぇ…」

三日月は上原局長の髪を掴み無理やり引っ張り起こし消え、次の瞬間どこか山林へ

「さて…局長、本当は貴方を殺す気でいたんですが…気の毒になってきましてね」

「…ここ…は…?」

「どこでしょう…まぁなんとか人里まで行ってみてください、あ…これ餞別です」

三日月は拳銃と弾倉2個を上原局長に手渡すと

「自衛で使うなり自殺で使うなり…お任せします、それでは…失礼…」

「まっ待ってくれ!ここはどこ…置いてかんでくれ!」

「見逃すだけ感謝して欲しいですね、あまり大きな音を出すのはオススメしません、肉食動物もいますから…まぁ生きて帰れたら僕を殺しに来てもいいですよ、それでは、ごきげんよう」

それだけを言い残し三日月は上原局長の前から消えると周りを見回した上原局長が発狂し叫び声を上げたが暗い山林ではその声か届く事は無かった



三日月はまた局長室に戻り自らが殺した隊員から銃を抜き弾の装填を確認すると転がっている死体に目をやると生気のない見開いた目と目が合った


ー初めは僕を見るなり呼び捨てで舐めてかかってきたのにちょっと本気出しただけで命乞い…こんな奴らを守る為に俺はー


自分がしてきた事が本当に無駄だったと自覚すると同時に隊員だったモノが自分と同じ生き物だと思うと強烈な嫌悪感が湧き出し目が合った死体の顔を力一杯蹴り骨が折れる音がした


ヘリコプターの音が聞こえたので軽く顔を横に振り頬を叩いて局長室から出ると廊下には三日月を止めようとした死体が転がっていた

廊下は血脂が酷く匂いもキツイ

もはや三日月にとってはそれはもう「人間に似ている粗悪品」であって汚物に近い物と認識なのだ、廊下からヘリコプターが着陸するのを確認するとヘリコプター近くに瞬間移動をする

乗降口から苛立った生島が降りてきた


「本部と連絡が取れない?!バカも休み休み言え!三日月捜索も連絡がつかんとは…」

生島を先頭に特殊急襲部隊もヘリから降りて研究棟に向かう


ー今回捕まえたability達は…まだヘリかー


三日月はそっとヘリに乗り込み中を見ると猿轡と目隠しをされた男女が乗っていた

一旦そのまま何もせずに操縦士を排除するためにコックピットへ


「なんだ?忘れもん…」


操縦士がそう言いかけた時三日月は首を絞め落としそのまま首を折った

そしてability対象者の拘束を解いていると先程三日月に食ってかかった銀髪の女が目を覚ます


「…?!」

「大きな声を出さないでくれ、君らを助けにきた」

「今更なに!!」

「俺はもうこいつらの仲間じゃない、信じてくれ…それに俺が君らの敵なら君らの拘束を解く理由がないだろう?」

「……」

「このヘリには一通り銃器があるそれを使え…それに君らは能力を持っているんだろう?遠慮する事はない、危害を加える奴は殺してしまえ」

「わかった…それで…どう助けてくれるの?」

「今度こそ君らを逃がす、ただその前に助けたい人間がまだ中にいる…必ず戻るから待っていてくれ」

「…わかりました…」

「無茶はするなよ、必ず戻る」

そう言い三日月ヘリに積んである銃器に弾丸を装填し人数分用意してヘリを降りた



ー研究棟に入られると面倒だ…それまでに生島をなんとかしないとー


正面玄関から研究棟につづく長廊下を丁度生島を先頭に7人の隊員達が連なっていたので瞬時に最後方2人の間に瞬間移動し2人を掴んでまた消えた、掴まれた隊員は声を出す暇もない

それを繰り返し2回目の時隊員が声を上げると生島が異変に気が付き銃を抜き警戒

「なんだ!何が起きた!」

瞬時に6人が消えた異変に残った隊員は狼狽えながら銃を抜くがその瞬間


パパパァン!


発砲音が3回連続で響き隊員は血を吹き出して崩れ落ちた

生島が銃撃音のした方に拳銃を向けるとそこにはMP5を構えた三日月が立っていた


「よぅ、生島、久しぶりだな」

「…三日月か?!なぜ…あれだけ撃たれ…?!」

「ん?あぁ元気ピンピンだ、残念だったな生島」

「何をした!なぜ隊員がいない!どうやってここに…」

「さぁ?どうだかな…お前の…生島さんのやり方が嫌になったんじゃねぇのか?そんな事もわかんねぇからお前は負けるんだ」

「フン、死に損ないが!俺が負ける?バカも休み休み言え!俺の勝ち確だろうが!」

「ハハッ…そうかぁ?そうだなぁ…そうなるといいなぁ!生島ぁぁぁぁ!」

三日月が叫びMP5を構え生島に乱射した


パパパパパパパパパパァン!


乾いた射撃音が連続して響く


「無駄だ!今の俺にそんなもん!」


三日月が放った弾丸は右手を前に掲げた生島の前で全て止められる


弾切れしたMP5のコッキング操作し新しい弾倉を装填、スラップ後にまた三日月は全ての弾丸を生島に放つ


「バカが!ハハッ!何発撃とうが分かんねぇのか?このマヌケ!」


生島は高笑いをして弾丸を止め続ける


ーおそらくもう少し!もう少しだ!ー


3マガジン目も空になり三日月はMP5を捨ててG19に持ち替え生島に放つ


パァンパァンパァンパァンパァンパァン!


「無駄な足掻きを!そろそろオレも…」


ドチュッ…


最後の1発が生島の左肩に被弾


「…何が…何が起き……ゴホッ…ゲホッ!」


被弾した左肩の他に目、耳、鼻、口から出血し咳き込みながら生島はその場で膝から崩れた

「思った通りだ」

三日月はG19の照準を生島に構えながら近づき続けた

「お前のそのability…人から奪ったもんだろ?能力ってのは脳の覚醒だ、開花した者だけ使える代物…覚醒していない人間が使える代物じゃない。無理矢理使ってもそう便利に使えない、お前の敗因はまさにその慢心だ」

「ゴホッ…ゴホッ慢…心…?」

「そうだ、港で初めてそれを見た時、お前は俺の撃った弾丸を止めた「だけ」だ、もっと便利に使えるならお前のような承認欲求の塊で目立ちたがり屋なら隊員達に俺を撃たせる事無く止めた弾丸を俺に返して俺を殺すだろう?それに止めた弾丸の距離から推定するとお前はまだ自身の半径1.5-2mぐらいしか操れない…見事な紛いもんだな」

「…紛い…もん…ふざけんな!ふざけんなよ!負け犬がぁ!」

生島が腰に装備したUSPを三日月に構え放つ瞬間三日月が消えた


「…?!」


「後ろだ、マヌケ」


自身の背後から聞こえた声に驚き振り返る前に右肩に激痛が走った


「ギャ!」


「痛いか?お前はこんなもんじゃ済ませない」

三日月が刺したナイフを捻りながら続ける

「質問に答えたら楽にしてやる、戸川はどこだ?」

「…ゲホッ!…言うか…」


クチュグチュ…


「ギャー!」


三日月は右肩に刺さったナイフを捻りながら生島に質問を投げる


「望む答え以外は口にしなくていい、もう一度言うぞ?戸川はどこだ?」

「研究棟の尋問室!お前は入れない!あそこは指紋と網膜でないと開かない」

「研究棟か…ん?そんなもん問題ないだろ?」

三日月は生島が装備していた大型のナイフを抜き抑えていた左手を引き剥がすとそのまま力任せにナイフで四指を切った


「んん!!やめ…!!指ぃぃ!」


「これで指の心配はないな、さてあとは網膜か…」

「やめろ!やめてくれ!RACKの真実も話す!長官の目的だ!俺はその駒に過ぎない!」

「お前から聞くことはもう何も無い…長官もお前の後を追わせるさ、あとは…研究棟で確かめるだけだ」


「ひぃぃぃぃぃぃぃ!」


生島が最後に見た光景は生気の無い目で自分を見下す三日月が大型ナイフを下ろす瞬間だった…


ー医療、居住スペースの先か…待ってろ戸川、今助けるー


医療部にはまだ数名のスタッフが残っていて三日月を排除しようとしたが三日月の左手に持ってる「モノ」をみて腰を抜かした

「なんだ…まだいたのか…さっさと逃げればいいのに…」

「来るな!こっち…く!」


パァン!パァンパァン!


三日月は腰を抜かしている警備兼医療スタッフの頭をG19で撃ち抜き死体が握っているMP7を奪い弾倉も奪う

気配を察知し自身の右後ろを振り向かずにMP7で発砲

叫び声が聞こえると振り向き近づいて生死を確認


ーもうどうでもいいー


そんな焦燥感だけの三日月はそのまま研究棟へ


医療部を抜け研究棟の入口に辿り着くと入口横の認証装置に切り取った生島の左人差し指をかざす

「シモンカクニン」

機械音声が流れ網膜スキャン装置に生島の首ごとかざし網膜をスキャンさせた

「モウマクカクニン、イクシマ ユキノリ ニュウシツドウゾ」

音声が流れると扉がスライドし研究棟への入口が開かれた

中に入ると左右の壁から空気が放出

この先はクリーンルームなのだろう

そこにはガラス張りの大部屋で白衣を着た人間が薬物を意識の無い被験者に注射している者や何かを分析している者、その奥からは叫び声らしき物がが聞こえた

研究棟スタッフが三日月に気づき

「なんだ!お前!オイ!誰…」

三日月はその場にいた人間にMP7を構え発砲


パパァン!パパァン!パパァン!パパァン!

パパァン!パパァン!パパァン!パパァン!



乾いた発砲音が響くと白衣の人間は次々に三日月に射殺された

1人だけ即死しない所に発砲したので息のある白衣の男に三日月は近づいて質問する


「生島に能力をどうやって与えた?」

「あ…あ…ability…被験者…達は脳内分泌物…」

「もっとハッキリ喋ってくれないか?聞き取りずらいよ」

三日月が白衣の男の眉間に銃口を突きつけた

「脳内分泌物を抽出しそれを対象特別捜査官の右脳の神経に注入するんです!」

「特別捜査官…?」

「その為に長官が特別捜査官を選別していたと…」

「…なるほど…特別捜査官なら適任てことか…成功したのは生島だけか?」

「は…はい…他の捜査官は…」

白衣の襟を乱暴に掴みながら問いただす

「他にもいるのか?!」

「いえ…成功したのは生島 幸徳捜査官のみです、他は…廃棄処…」

「廃棄処理だ?ふざけた事を…」

「本当です!他人の…しかも得体の知れない生き物から脳内物質を抽出し注入するんです!初めは何ともないのですが心拍数や脈拍が上がると精神が崩壊し手がつけられなくなり最後は発狂した後に右脳が破裂し死亡します!」

「データを取ってるんだろ?見せろ!今すぐ!」

「は…は…はい!」

白衣の男は足を引きづりながらPCがある机に行き三日月に動画を見せた


・人工兵 適合処置後


ー〇/〇 X時 被験者 大原 彰将 特別捜査官ー


ーあぁぁぁぁ!ー


ー脈拍、心拍急上昇!被験者持ちません!


ーまだだ!ほら見てみろ!水を操ってるぞ!成…ー


ーウガルガァオオァォオォオー


ー脳波異常!先生!ー


ーキャー!ー


ーギャーーー!ー



ビーーーー


「なんだこれは?」

「え…?」

「こんなこと…人間がする事じゃない…なんだったんだ…俺がしてきた事…俺が守ってきたモノ…?!脳内分泌物を抽出と言ったな!それを取られた対象者はどうなる?!答えろ!」

「あ、ability対象者の、の、脳内分泌物のγ-フェクトリプスは…強い恐怖や悲し…みを…感じ…た時…大量に分泌されるのが判明したので…対象者を薬で眠らせ実験台に移動させ拘束、意識が戻るのを待ちその後…開頭処…」

「生きたまこんな事させるのか?!」

「でないとγ-フェクトリプスは…抽出不可…です…今奥でやっています…おそらく今回も処置後は廃…」


パァン!


白衣の男が頭を撃ち抜かれ床に脳の一部が零れ落ちた


「…もう喋るな…今やってると言ったな…」


三日月は研究棟エリアの奥に進むと厳重な扉があった

インターフォンらしき物があったので中から開けさせる為に一芝居をうつ


「外で緊急事態です!生島捜査官が直ぐに皆さんを退去させろと!」


ー生島さんが?緊急事態とはなんだ!こちらはオペ中ー


「襲撃です!早くお連れしろと!ヘリも待機させてます!」


ーわかった!今開けるー


その一言が終わると扉が開き血がついた白衣を着た3人が出迎える


「襲撃?!どの規…」



パパパパァン!



「なんだ!」


三日月はその3人を瞬く間に射殺し中へ入るとそこは地獄のような光景だった


チューブの先の水槽に脳髄が浮かんでいる物がいくつも並び、他には眼球、骨格標本、臓器が液体の入ったチューブに標本として置かれ手術台と思える台には手足と腰を拘束された裸の女が排泄物を垂れ流し顔は血で汚れ頭の所に白衣を着た人間が複数いて開頭処置をしていた


「なんだ!貴様…お前…三日月か?」


「…なんだこれ…なんだ……なんなんだ……なぁぁにぃぃぃしてんだぁぁ!てめぇらぁ!」


そう叫んだ後に中にいた人間にMP7を向け次々と射殺

脳を丸出しの人間の横に白衣の死体がどんどんできあがる

1人だけ意図的に三日月が弾を外し息のある男に三日月が歩み寄る

「答えろ…これは長官の命令なんだな?!人工兵とはなんだ!」

「人工兵士を作れと長官から命令されました…ability対象者が言うことを聞くとは保証がありません、なので人工的にability対象者を複製しろと…」

「目的はability対象者を保護の名目で連れてきて実験、その後選別された被験者に投与、そして長官に従う私兵作りか?!」

「…長官から聞かされたのは完成被検体を何人も作り現政権を脅して自身が政権中枢に入る、そして各国に日本の閣僚として被験者を派遣、要人を見せしめに殺し脅しをかける…日本は核武装できない、武器も作るのも諸外国が許さない…なら外見から武器かどうか見分けがつかないモノを作り武力として使い台頭に渡り合う…」

「だから戦後に出来たのか…もういい…もういい…他の対象者はどうした?」

「…はぁ…もう実験に使いストックが…」

「ストック?」

「生島さんが連れて帰ると…」

「ここの尋問室とはどこにある?」

「3階の奥です、でもど…」


パァン!


ビチャ!


「聞かれたことだけ答えろ…物みたく言うな…猿が…」

三日月は実験室から出て研究フロアに行きガラス張りの部屋を超えエレベーターへ

3階に着くとエレベーターホールには警備兵がいたが三日月は能力を使い一瞬で警備兵を殺害

尋問室まで続く廊下で武装した職員に出くわすが今の三日月には関係なかった


ーこいつらは人の形をしている何かー


殺す事に何も躊躇がない

先程までは人を殺す度、つのる嫌悪感に吐き気がしていたが生島を殺した後から何も感じなくなっていた

今の三日月にとってEdenの人間は全員「人間みたいなモノ」と認識なのだ


「情報収集室」


と書かれたドアを開けると

「なんだ?!ん?三日月?!なんでお前が!!生島さんに?!」

「殺せ殺せ!この死に損ないがぁ!」

2人が銃を三日月に構える瞬間


「俺を認識したら直ぐに撃てよ…それに…」


一瞬で2人の目の前から姿を消してまずは1人の背後を取りナイフで後頭部を一刺し、そしてそのままその死体が構えていたMP5を奪い取りそのままもう1人に発砲、弾倉分全ての弾薬をもう1人に撃ち込み銃を投げ捨て


「猿が俺の名前を気安く呼ぶなよ…」


2人を処理し尋問室と思われる扉を開け三日月は中へ入っていった




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「…う…ん…三日…月…さん」

「気がついたか?戸川?」

「三日…月さん…三日月…さん?!無事だったんですか?!」

戸川が目を覚まし立ち上がろうとしたが思うように体が言うことをきかずよろけて倒れた

「お前怪我してるから無茶するなよ」

「助けて…くれたんですか…すみません私…足でまといばかりで」

「そんな事ない、お前のおかげでみんな助かったよ」

「玉置さんや中野さん、今田さんも?」

「…すまない…俺の力が足りないばかりに…」

「……いや、無神経過ぎました…abilityホルダーの人達は無事だったんですね」

「あぁここにいるよ」

戸川が目を凝らして見ると三日月の後ろに4人の男女が集まっていた

「三日月さん…その人達…あれ…ここは…?」

戸川は自分が土の上に寝かされていた事と薄着の自分を不審に思い三日月に尋ねた

「三日月さん、ここどこなんです?私…何して……それに私最後……?あれ…あの建物って」

戸川が意識がはっきりしてきたのかよく見るとEdenが見えた

「戸川…よく見てろ…みんなもよく見ていてくれ」

そう言い終わり三日月がスマホを操作すると


ドォォォォォォォォォォン!


Edenから激しい爆発が怒り建物が崩壊、あっという間にEdenは炎を包まれた


「三日月さん!何やって!」

「機密保持の為にEdenには爆薬が仕掛けられていてね。戸川…これを見ろ」

そういい三日月は戸川にファイルを手渡した

「戸川…それを読んでみろ、RACKは腐りきってた…だから俺が処分した」

「処分?!中にいた人達は?!」

「全員俺が殺した」

「……?!は?!冗談やめ…」

「冗談なんかじゃない…あそこに人間はいなかったよ…俺は一体何を守ってたんだろうな…」

「何言ってんすか?!」

「済まなかった…お前を巻き込んで…」

「はぁ?意味わからないですよ!」

「もう疲れたよ…俺は…社会を守るのも人を信じるのも…でも戸川…お前にだけは俺の全てを見せる」

そういい三日月は戸川の目の前から消えると今度は顎を砕かれ口から血を流して手錠で拘束された老人の髪の毛を鷲掴みにした三日月が現れた

「?!」

「俺のabilityだ」

「三日月さんが…?」

「そうだ…俺はこの老猿からしたら化け物らしい…俺や彼らからしたらコイツら猿の方がバケモンだ…俺たちを実験台にして何人も殺してきたんだ…そのファイルに真実がある」

「真実って…」

「RACKの目的…それはability達を保護の名目で拘束し実験、能力を人為的に他人に移植し兵隊を作る為に作られた組織だ、1945年に設立され時間が経ち他組織と併合…建前も本質も変わらず俺たちは利用されていたんだ…」

「なら…私らで公表してやりましょうよ!三日月さん!諦めてどうするんですか?!いつも言ってるじゃないですか!諦めるなって!」

戸川はよろけながら三日月に詰め寄り声を張り続けた

「その三日月さんが諦めるなんて…私分からないですよ!三日月さん!嘘だと…」

「戸川…諦めるななんて簡単に言っていい言葉じゃなかったんだ…俺は誰かの為に何かをしない…他人に期待しない、俺は俺の為に生きるよ、いい人間だけの社会を作る」

「いい人間だけ?寝言言わないで下さい!蟻の3割理論は知ってるでしょう?!そんな事できてもいい人間だけの社会を作ったとしてもいつか必ず崩壊する!」

「崩壊させないよ…俺は害をなす生き物…猿を容赦しない…みんな殺す…戸川?一緒に来ないか?俺に協力してくれよ?」

「…協力なんてする訳ないでしょう?!勝手に諦めて…勝手に人間に絶望して!その価値観を何も知らない人間に押し付けんなよ!あんたはその何も知らない人間も殺すって言ってんだよ!!わかってんのか!三日月宗近!」

「わかってるよ、でも何も知らない「無知」も罪だ…俺たちabilityホルダーを知りもしないで利用や排除しようとする連中を生かす必要あるのか?」

「あんたはabilityホルダーだけの世界を作る気なの?そんなの夢物語よ!現実見ろよ!アンタらしくない!」

「違う、いい人間だけの社会を作るんだ。俺らしくない…?本当の俺も知らなかったのに随分と偉そうに言うんだな…」

「現実的に考えろって私は言ってる!意味無い殺しまでして!」

「意味はあったさ…猿…いや猿もどきは世界に要らない」

「猿もどきなんてくだらない言い回ししてabilityホルダーじゃない人間を殺していい社会を作るなんて無理に決まってるでしょうよ!ふざけないで!できもしない事してなんの意味あるのよ!」

「できもしないか…随分と傲慢なんだな…これ以上は平行線だ、生き方は決めた…俺が違うとお前が思うならお前が俺を殺せ」

「は…?!できる訳…!!」

「覚悟を決めろ!戸川志津!理想が違う人間に同じゴールは目指せない!俺は俺のゴールに行くだけだ!共存なんてありえないんだよ!じゃあな……………」

そう言い戸川の手を振り払い三日月は老人の頭を鷲掴みして引きずりながら助けた男女の所へ向かう

「さて、あの人はこちら側にこない…言った通り僕はこれから僕達…特異能力者が安心して暮らせる社会を作ろうと思う、猿は要らないからね…もちろん僕は強制しないが僕に着いてきてくれる人…いるかい?」

男女の中から銀髪の女が手を挙げた

「私…行きます…」

「ありがとう…君はたしか…大兼 ヒカルさんだったね」

「俺も行くよ」

小柄の男性も手を挙げた

「君は…高津 昇さんか、ありがとう。他にはいる?」

残った2人は無言で首を横に降った

「そっか…わかった…無理強いはしない…RACKの連中は全員殺したしあの女の人はRACKにいた馬鹿とは違うから安心していいよ、派手に能力を使わなければ追われることも無く安寧に暮らせるから、みんな僕に触るんだ、2人は適当な町まで送るよ、後の2人には能力がどの程度か訓練しないとね、この老猿を使おうか、移動するから2人は僕の身体に触って」

そう言うと大兼と高津は三日月の肩に触れた


「じゃあね、戸川」


「待っ…!」


そう言い三日月達は消えた


何もできなかった戸川は地面を何度も殴った


石に拳をぶつけても


拳から血を流してもやめなかった


地面を殴りながら涙を流したのだった……



ーーーーーーーーーーーーーーーー


「その後、私はまた意識を失ってね…気がついたら病院のベッドだった。退院しても行く所もないからここでRACKの事を調べてたら三日月と思われる自殺遺体が見つかったって報告があったんだ」

戸川は目頭を抑えながらため息混じりに話しをした

「新しい事…何かわかったんです?」

加藤はなんとも言えない表情で戸川に尋ねたか、戸川は黙って首を横に振った

「RACKは爆発したんですよね?報道とか…」

加藤は食い気味で戸川に尋ねる

「RACKはその秘匿性から国管理施設の事故として処理されたんだ」

「…なんでも秘匿ですね…でそのファイルってまだあるんですか?」

「この部屋のどこかにあるよ興味があるなら探してみて」

「しかし…壮絶ですね…三日月さんは」

加藤は口を割るが笹貫は目をつぶり腕組みをして聞いていた

「私は覚悟が足りなかった…でも決めたよ、何としてでも三日月を止める、だから協力して下さい」

戸川は椅子から立ち上がり加藤、笹貫に深々と頭を下げた

「やめてくださいよ!当然じゃないすか!俺はね、あのムカつく片目野郎をぶん殴りたいんすよ!」

「水臭いなぁ、私だって未詳なんです協力しますよ」

「ありがとう…2人とも…」

「さ!そうと決まったらまずは腹ごしらえして作戦会議!なんか美味いもん食いましょう!」

「だね…煮込みで酒飲みたいな」

「いいですねぇ〜私そこまで飲めないので…」

「なーに言ってんすか!飲むんすよ!笹貫さん!そういや、戸川さん?1個聞いていいっすか?」

ジャケットを羽織る戸川が手を止めた

「何?」

「話にあったノートって結局どこにあったんです?」

「あ!それ僕も思いましたね」

「…それがね…私にもわからないんだ。どこかに隠してあるとは思うんだけどね…」

「んじゃそれも三日月ぶっ飛ばして聞き出しましょ!」

「だね、加藤!期待してるよ!」


バチン!


戸川が加藤の背中を叩く


「だから力加減してくださいよ!」

「ごめんごめん!アハハハハ!」

笹貫も堪らず笑い3人は部屋を後にした


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


三日月とヒカルがナイフを使った組手をしていた


キンッ!キンッ!キンッ!


何度かナイフ同士が当たり三日月がよろけた瞬間ヒカルのナイフが三日月の首の前で止まる

「いやーヒカルは強いなぁ」

「嘘ばっかり…三日月さん手抜きしてた…」

ヒカルは不満そうに頬を膨らませながら三日月を見つめた

「本気だったよ」

「嘘…三日月さんが本気になったら私なんて」

「僕は片目しかないからさ、ヒカルには勝てないよ」

三日月は起き上がり炭酸水を飲みに行くと背後からヒカルが問いかけた

「三日月さん」

「ん?何?」

「…どうしてそんなにあの女を…」

ヒカルが口にしかけた時、三日月は鋭い目付きでヒカルを睨み

「ヒカルが気にすることじゃない」

「だっ…て!…あの……三…………」


ヒカルの口調がゆっくりになり世界の時間が止まるとハット男が現れ三日月に触れた


「なんだ、君か」

「なんだはないだろう?」

「何の用だい?」

「その子は君が助けたのに君が手をかけるのかい?」

「…そんな事するもんか」

「この子は君がとても気にかけてる子じゃないか?その子でもあの事…」

「それ以上口にするな!お前でも許さん!」

「おぉ怖や怖や…」

三日月は深呼吸して炭酸水を飲むとハット男に話しかけた

ハット男が時間を止めても彼が触れた人間は止まった時間でも動けるのだ

「これは俺の取引だが縛りを作ったのはお前だろぅ!」

「いつも冷静なのにこの事になると途端に君は冷静さを欠くね…さすがは…」

三日月がハット男の胸ぐらを乱雑に掴み睨みつけた

「その為に俺はお前の玩具になる事を選んだ、お前の縛りを受け入れ俺は生き方を決めたんだ…お前がペラペラ喋るならお前の「今」の肉体を道連れにするぞ!マーキングは済んでるか?」

反対の手でジャケットの裏に装備していた手榴弾のピンに指をかけた

「…別にどうという事はないんだがなぁ」

「試してみるか…?」

「…悪かった…三日月君…君は貴重な友人だ、度が過ぎたね」

「…僕もムキになってすまない」

「いや、私の冗談が過ぎたんだ。で…これからどうするつもりなの?」

「例のabilityを探す」

「何故そんなに人間に固執する?私がやってもいいんだよ?三日月君。君がそんなに…」

「君に何かを頼むのはもうしたくない…それに…」

「それに?」

「人間の不始末は人間同士でつけるべきだ」

「…君のその信念…私は支持するよ、必要になったらいつでも言うといい…じゃあね、三日月君」

そう言いハット男は霧を出してその中に消えると同時に霧が晴れる、すると同時に止まっていた時間が動き出す

「………あれ?私…今なにしようと…」

「訓練中によそ見なんてするなよ、ヒカル、さて…なんか甘い物が食べたいな。どこか行こうか?ヒカル」

「やった!私赤ワインのジェラートが食べたい」

「わかった、んじゃとりあえず浜参道でも行こうか」

そう言い三日月がヒカルの身体に触り消える前に



ーあの事は誰も知らなくていい…もう俺しか知らないんだからー


と改めて決心しヒカルを連れて三日月は消えたのだった


ーーーーーーーーー了ーーーーーーーーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Singularity -未解決事件詳細保管解決課- /-弐 乾杯野郎 @km0629

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る