住宅の内見 ホラーの時間 【KAC20242】

KKモントレイユ

第1話 住宅の内見 まごころ不動産

 週末、私は妻と子どもと一緒に住宅の内見に行った。


「この『まごころ不動産』の看板の角を曲がって二軒目」


 リノベーションを施した戸建てのきれいな家。新築そのものだった。


 不動産業者の男性は慣れた感じで調子よく案内してくれる。

「いや~いい物件ですよ。うちの扱う商品は『まごころ』ですから……ハハハハ」

「……」

「ここは掘り出し物ですよ。この辺は商店街も近いし小学校も近い。坂道も少ないから自転車や徒歩での行き来にも支障がありません」


「いいところだね」

「ええ」

 微笑みながら話す私たちを、男性は横目で見ながら、

「今日、この後も、ここを見に来るご家族が数人いるんです」


 そういえば、私たちがここを訪れた時も別の家族が帰るところだった。少し派手目の若いカップルだった。


 家の中に入ると、玄関で妻が立ち止まった。

「どうしたの?」

「ん、いえ、今、だれか他の方もいらっしゃるんですか?」

「え? あなたたちだけですよ」

「そうですか」


 小さな由香が家の中に走って行く。

「待ちなさい」


 急いで止めようとする妻に不動産業者の男が、

「いいですよ。お子さんは元気でいい。もう、ここが気に入ったみたいだ」


 二階に上がる階段がある。妻が少し嫌な表情で見上げる。


 結局、妻がどうしてもいやというので、その家はやめて、その家の近所の戸建ての家を買った。


 引っ越して数日後、あの家の近くを家族で散歩することがあった。


「おかしいわね」

「ん」

「確か前に内見に来た家、この辺だったわよね」

「そうそう『まごころ不動産』の看板の角を曲がって二軒目。あれ?」


 そこにはあの時とまったく違う何十年も経ったような古い空き家があった。通りかかった人が「ここは何十年も人が住んでません。昔、殺人事件がありましてね」と教えてくれた。


 その夜ニュースを見ていた妻が私を呼んだ。

「ちょっと、あなた」

 あの内見の日すれ違った派手な夫婦は有名な実業家だったようだ。


 あの古い空き家で自殺していたという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

住宅の内見 ホラーの時間 【KAC20242】 KKモントレイユ @kkworld1983

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ