幼馴染と再会したけどお互い人見知りすぎて始まらない

@monu3

第1話 新学期


 新学期になり、学校中の生徒達が新たな出会いに一喜一憂する中、ウチのクラス――二年b組は一際大きな喧騒に満ちていた。


「おい、あの子誰だ……?」

「え、なになにー?」

「うお、めっちゃかわいいじゃ〜ん」


 理由は一目瞭然。一年生の頃には見かけなかった美少女が突如降臨したからだ。

 

 高校生にしては少し小柄な、おさげ髪の女の子。美人系というよりは可愛い系で、全体的に幼さの残る印象。

 だが端正な顔立ちと、遠目でも分かるくらい艶やかで健康的な髪や肌が程よい色気を醸し出していて、女性としての魅力も充分に感じられる。

 街ですれ違ったら思わず振り返ってしまうくらいの美少女だ。


 そんな子が何の前触れもなく現れたとなれば騒ぎになってしまうのも無理はない。

 誰かが思い切ってイメチェンでもしたのか。そう考える人もいたが……

 

 おそらくあれは――



「なぁ正孝まさたか、あんな可愛い子オレらの学年にいたっけ?」


 渦中の彼女を遠巻きから眺めていると、一年の頃も同じクラスだった友達が彼女に興味を示しながら俺に話しかけてきた。


「……さぁ? 転校生なんじゃね?」


「やっぱそうだよな! オレの脳内美少女フォルダにあんな可愛い子はいなかったから間違いねぇ」


 彼は川辺淳一かわべじゅんいち。オールバックの爽やか系男子。

 見ての通り可愛い女の子に目がない青春真っ盛りな奴。正直俺とは相性が悪いタイプだが、一年の時に一番最初に出来た友達なので不思議と縁が続いている。偶然にもまた同じクラスになったので関わる機会が増えそうだ。


「うおお、あんな可愛い転校生と同じクラスになれるなんてオレたち運がいいな!」


「そうだな……」

 

 テンション爆上がりの川辺とは裏腹に、俺は興味なさげに返す。

 転校生、ましてや女の子なんて人見知りの俺にはあまりにも縁のない存在。せいぜい学校行事とかで一二回顔を合わせる程度で終わるだけだ。

 だからワンチャンあるかもとか期待するだけ無駄だろう。


 ……と、いつもの俺ならそう考えるところだったが。

 今回は少しばかり事情が違った。

 

 実を言うと俺は彼女のことを知っている。

 

 数週間前に母親が言っていた。昔俺と仲の良かった幼馴染、晴咲双葉はるさきふたばがうちの学校に転入してくると。

 なので、あの転校生が双葉と考えていいだろう。


 よく見ると面影が残っているような気もする。特に、話す相手がいなくてオドオドしている姿が俺の記憶と綺麗に重なる。

 久しぶりすぎて初めは別人かと思ってしまったが、間違いなくあれは俺の知る幼馴染だ。


 でもまさかあんな見違えるほど美少女になっていたとは……

 

 子供の頃の幼馴染との再会。そんなロマン溢れる展開に俺は内心このクラスの誰よりも心が躍っていた。



「なんか話す人いなくて困ってそうだし声かけに行かね?」


「いや、やめとけって……」


「なんでだよ? 今は友達作る時間だろ?」


「いきなり男二人で話しかけるのも変だろ」


「かぁ〜……正孝は相変わらずだな。そんなじゃ一生彼女できないぞ?」


「う、うるさい」


 川辺が下心全開で話しかけに行こうとしていたので一旦阻止したが、余計なダメージを負う羽目になってしまった。


 ……いや、俺だって話しかけたい気持ちは山々だ。

 実際俺は軽い気持ちで声をかけるつもりだった。それで昔のこととか成長した自分たちのことを語り合ったりする予定だった……

 はずなんだが……


「ほんと正孝の人見知りっぷりは心配になるレベルだぜ。オレが同じクラスで良かったな」


「ああ、それはほんと良かったよ……」


 そう、さっきも言ったが俺はかなりの人見知りだ。子供の頃から引っ込み思案で、人と話すことや目立つ事がとにかく苦手である。

 一応変わろうと努力して、仲良い友達とかなら普通に喋れるようになったし、初対面の相手でも噛まずに喋れるくらいにはなったのだが、いまだに目上の人間や異性相手だととことんダメになってしまう。


 幼馴染だし話すくらいいけるだろとついさっきまで余裕こいていたが、思った以上の変貌を遂げていたせいで無事人見知りモードに入ってしまったのだ。


「――ああほら、タイミング逃しちまったよ」


 そうこうしているうちに双葉はクラスの女子達に囲まれていた。

 話しかけるタイミングを失って何故かホッとしてしまっている自分。

 こういうところがダメなんだろうな……

 

 まぁでも、幼馴染とは言ったがもう7、8年連絡すら取っていない間柄だ。

 何度か地元に帰ってきたことはあるらしいけど、毎回予定が合わなくて気付けばどんな顔だったか忘れてしまうくらい俺たちの間には距離が空いてしまっている。


 俺は勝手に特別な感情を抱いているが、向こうはもう俺のことなんてほとんど覚えていない可能性がある。

 だからいきなり話しかけても困らせてしまうかもしれないし、幼馴染だということを周りに知られて持て囃されたりしても面倒だ。

 とにかく今は双葉が周りに馴染めなくならないよう変に騒ぎ立てない方がいいだろう。


 焦る必要はない。まだ一年は始まったばかり。運良く同じクラスになれたし、そのうち関わる機会は巡ってくるはずだ。積もる話はそん時にゆっくりすればいい。


 そう思って自分の席に腰を下ろした俺だったが、後にこの最初の一歩を踏み出さなかったことを後悔することになるのだった。

 


 


 


 


 

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