第11話


 放置された男たちの処理に困った俺。まあ放置でいいか。


「よーし。ちょっと移動しようかひなちゃん、美咲」

「え、ええ!? ちょっとー! 何があったのー!?」

「まあまあ、いいからいいから」


 俺はそう言って二人の方に手を回して移動するように促す。


「……」

「気になるかもしれないけど、見なくてもいいよ。ひなちゃん」


 ひなちゃんがそっと目を開けて後ろを確認しようとしていたので、肩に回していた手を目の上に置いた。


「っ! わ、分かりましたから手を退けてくださいぃ……み、見えませんからぁ……!」

「教育上に悪いからねー」

「わ、私、子供じゃありませんよぅ……!」


──チュウ。


「あ、こら勝手に飲むなよ」


 目を離した隙に俺のダークモカチップを美咲に飲まれていた。


「いいじゃん一口くらい! てか、みやっちだけス◯バ飲んでるのずるい!」

「買い物終わったら奢るから、それでいいでしょ?」

「ホント!? やったー!」

「現金な奴め」


 「ラッキー!」と言いながら喜ぶ美咲。そんな彼女を見ながらダークモカチップを啜る。


 ちなみに、倒れてる男たちはもう見えなくなってるので、回してた腕は解いている。


「あ、あの……美咲ちゃん……」

「ん? なになに?」


 ん? どうしたんだ?


「え、えっと……………ゴニョゴニョ」

「え? 『拓巳くんが使ったストローを使っても気にならないのか』だって?」

「み、美咲ちゃん!?」


 ふーん? つまり……ひなちゃんは一ヶ月ほど前にファミレスでした間接キスのことを気にしているわけだ……。可愛いな!


 ひなちゃんは手を激しく振りながら俺をチラチラと視線を向けてきている。

 俺にあの時のことを気にしているのか、バレていないかを気にしているのか? 気遣いできるの優しいね。


「んー、私は別に気にしないかな? みやっちもそうだよね?」

「ん? 俺も特に気にしないかなー」

「そ、そうなんですね……」


 ひなちゃんは少し悩むようなそぶりを見せた。


「(や、やっぱり……間接キスって普通、なの……かな……?)」

「ひなっちー! 早く行こー?」


 美咲はひなちゃんの後ろから抱きつく。


「わわっ!? 美咲ちゃん!?」

「ほらほらー!」


 思考を中断されたひなちゃんは、美咲に手を引っ張られて行く。俺は無くなったス◯バのカップを捨ててひなちゃんたちの後ろについて行った。



──とある服屋。


「みやっちー? こっちとこっち、どっちが良いかなー?」


 究極の二択。

 女性との服の買い物の際、ほとんどの確率で聞かれるであろうこの質問。この問は聞く人によって答えが変わる、つまりこの問は変数nを相手の趣味趣向条件を当てはめて考えなければならない。

 見方を変えれば二分の一のこの問題。ミスをすれば相手の落胆や著しい機嫌の低下というデバフが発生する。


 そしてこの時、女性が求めているのは意見ではないということは心に留めてほしい。

 女性は基本的に男性に求めるのは意見ではなく共感なのだ。つまりどっちつかずの答えはさらに相手の機嫌を悪くする。

 地獄か?


「んーそうだなー」


 俺は人差し指をどちらかの服に迷っているかのように滑らす。今こそ前で培った人間観察能力、察知能力をフル活動させる時だ。


「やっぱり右かなー。美咲によく似合うと思う」

「やっぱりー? 私もそう思ってたんだー!」


 なら聞くなよ。


「ん? ひなちゃんはそれで良いの?」

「はい。とても良いのがあったので」


 ひなちゃんはそういうと、自身の腕にかけていた服を体に重ねるようにして見せてくれる。


「それを……着るのか……?」

「? は、はい……どこか、おかしいですか?」


 ひなちゃんが見せてくれたのは膝まであるロングのスカートと胸を隠しその上からが紐だけの布一枚で完結するドレスのような服だった。サロペットとでも呼ぶのだろうか。


「ひなちゃんって意外と大胆だったんだね……」

「ひなっちエッチい」

「?? ……っ! 違います! 誤解です! 下もちゃんと着ますからっ!」


 知ってる。


「知ってるよ?」

「え? ……あ、ま、またからかったんですか!?」

「ひなっちって引っかかりやすいよねー」

「う、うぅ……!」


 自身が揶揄われていることを察したひなちゃんは、恥ずかしそうに頬を染めて俯いてしまった。


「も、もう……知りませんっ!」

「ごめんってひなちゃん。その服、ひなちゃんにめっちゃ似合ってるし、恥ずかしがらないで」

「……そう、ですか……?」

「うん。ひなちゃんの魅力を引き出す綺麗な服だよ」

「……勇気くんにも喜んでもらえますかね……?」

「断言しても良いね」


 いつの間にか俺の隣にいた美咲が「鬼畜のしょぎょーだね」とかほざいてきたので「ス◯バなんでも頼んで良いぞ」と言って黙らせた。容易いな。

 俺に促されるようにしてひなちゃんは持っていた服をレジに通す。彼女が自身の財布を開こうとしたところで俺は彼女とレジの間に割り込んだ。


「あ、カードでお願いしまーす」

「た、拓巳くん!?」

「いーからいーから。さっきからかったお詫びにプレゼント」

「で、でも……」

「そんなに気になるならその服を着た姿、一番に俺に見せてよ」


 俺はひなちゃんに囁くようにそう言った。しかし、まだ抵抗がある様子だったので俺は「ね?」と言って念を押す。そうすると渋々と言った風にひなちゃんは首を縦に振った。


「ついでに一緒に遊ぼーね」


 本命の条件は隠す。交渉をうまく活かすためのコツの一つだ。相手にはそれを察知させないまま条件を飲み込ますとこまでで応用。


「えー!? ひなっちだけずるいー! ふこーへーだ!」

「スタバ好きに奢るって言ったじゃん」

「むむっ。こうなったらやけ食い!」

「み、美咲ちゃん……」

「いいから、もう行こー。次は何見るの?」


 俺はひなちゃんと美咲の服が入った袋をそれぞれ持って、そう促した。


「パジャマ! ひなっちとオソロにすんの!」

「へー、いいじゃん。お泊まり会でもすんの?」

「言っとくけど男子禁制ね」

「えー」


 俺も一緒にお泊まりしたかったんだけどなー。


「はー。男の子ってホントえっちいことが好きだよねー」

「嫌いじゃない男の子は男の子じゃないと思いまーす」

「そんなことひなっちの前で言わないでくださーい」

「美咲から聞いてきよな?」

「あーあー。聞こえなーい」


 そう言うと美咲は「ひなっちー。早く見に行こー」とひなちゃんの手を引っ張って行ってしまった。


(仕方ない……終わるまで待つとしますか……)


 俺は今日買った三冊の本の中の一冊を適当に取って読み始める。


「『薪を焚べる黒いモノ』ですか?」

「ひなちゃん。買い物はどうしたの?」

「もう終わりましたよ。美咲ちゃんは先に行っちゃいました」


 時計を見ると先ほどからすでに三十分ほど経っていた。かなり本に集中していたらしい。


「知ってるのこの本?」

「はい。私も読んだことあるので」

「へー。あ、そうだひなちゃん。文化部で書いてた小説って賞とか出したりするの?」


 ひなちゃんの隣を歩きながらふと、そんなことを聞いた。


「え、えっと……そう言うことはあまり考えてませんね……」

「ふーん……じゃあ、今度読ませてよ」

「え……う、うーん…………分かりました。良いですよ」


 少し悩んだようだが受け入れてくれた。


「ほんと? じゃあ楽しみにしてるね」

「た、楽しみになるかは……分かりませんけど……」

「……」


 自信がないのか、ただ単に謙虚なのか……。


「みやっちー! ひなっちー! はやくー!」

「美咲ちゃん……」

「うるさいのが来たな……」


 俺たちは美咲の元へと急足で向かった。


「そろそろいい時間だね。どこかで何か食べようか」


 俺は二人が持っていた荷物を受け取りながらそう言う。


「私パスタ食べたーい」

「ひなちゃんは? 何か食べたいものある?」

「私もパスタで大丈夫ですよ」

「おっけー。近くにパスタが美味しいお店があるらしいから行ってみようか」


 俺はスマホでその店の口コミなどを見せてみる。


「え、めっちゃヤバそうなお店じゃん。私そんなお金払えないよ?」

「わ、私もです……」


 俺のスマホを見た美咲とひなちゃんは、共に表情を凍らせてそう言った。

 俺はそれを見てニヤリと笑う。


「ここって夜は高級店なんだけど、昼は基本的にリーズナブルな値段で提供されてるんだよねー。店構えがいかにもって感じだから人も少ないし」

「穴場じゃん! なんでそんなこと知ってるの!?」

「前に教えてもらったんだよねー」


 前とはもちろんタイムリープ前のことだ。ちなみに防音、防弾の完全個室であり、裏の人間御用達のお店でもある。


「じゃあ、行こうか」


 









 


 

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俺が彼女を寝取るまで〜未来で酷い目にあった初恋の子がいたので今度は俺が幸せにする〜 クローバー @takatoshimada

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