第10話
──翌日。
四日間のテスト期間が終了した次の日の土曜日。本来ならテスト疲れを癒したかった所だが、ひなちゃんが買い物に行くのを合法的について行けると考えれば安いものだ。
俺は学校の最寄駅である平白駅から6駅ほど離れた大型ショッピングモールへと入る。
ショッピングモールに入ったところの正面にある大きい時計の針は九を指している。
待ち合わせには一時間ほど早く来てしまった。
(一回、待ち合わせ場所を見にいって本屋にでも行こうかな?)
まだ誰も来ていないだろうが、一応確認しておく。
ショッピングモールの入り口から一分ほど歩くと昨日の話に出てきたハリニー君が見えてくる。
ちなみにハリニー君というのは近所で人気なマスコットのことだ。モチーフはハリネズミとニードル。名前の通り殺意割高のハリネズミだ。
(……やっぱ居ないか)
早く来すぎたなと思ったが、まあ早いことは悪いことではないと飲み込んだ。
俺は四階にある本屋へとエスカレーターを使って向かう。
(……何を読むか。いつもはひなちゃんとか先輩のおすすめを買ってたけど、今日は何も言われてないからなー)
そんなことを考えながら本屋へと入る。
「あれ? 宮内君?」
「ん? 浅井先輩……奇遇ですね。今から帰るんですか?」
そこに居たのは俺とひなちゃんが所属している文芸部の先輩である浅井愛奈。
文芸部は小説などを書いたりする部活だが、俺自身は初心者に毛も生えていない状態なので、部活動中は勉強と言うことで本を読んで過ごさせてもらっている。
浅井先輩はとても優しくてさまざまな本を貸してもらったりもしている。
「うん。今日が目当ての本の発売日だったから」
「へー。それは買えましたか?」
「バッチリだよ!」
紙の袋に包まれているであろう本を俺に見せびらかす先輩。
「あ、この後お時間ありますか? もし良かったら本選びを手伝ってもらいたいんですけど……」
「あ、うん。別に大丈夫だよ」
「ありがとうございます。それじゃあ行きましょうか」
俺と浅井先輩は本屋を並んで歩き出した。
──三十分後。
「浅井先輩。ありがとうございました」
俺は3冊の本が入った本を脇に抱えながらそう言った。
「ううん。私こそごめんね? 一方的に話しちゃって面白くなかったでしょ?」
「そんなことないですよ。教えてもらったもの、全部面白そうで選ぶの迷っちゃいました」
実際、先輩がしてくれた説明は面白さを上手く言語化できていて流石だなと感じた。
「先輩。お礼にス◯バ奢りますよ?」
「え? いや、何も特別なことはしてないし……」
「日頃のお礼の気持ちですよ。俺、実はバイトしてるのでお金には余裕ありますし」
元々、先輩に本を貸してもらうのは良いが、そのお礼をしないのは少し悪いと思っていたのだ。ちょうど良い機会だ。
「でも……」
「いいから、いいから。行きましょう」
俺は先輩の背中を軽く押して歩かせる。そうしていると、先輩は少し申し訳なさそうな表情をして「じゃあ……」と、いってくれた。
その後、先輩にスタ◯を奢った俺は彼女と別れた。先輩はス◯バが初めてだったらしく注文に戸惑っていたが、味を確かめてお気に召してくれたようだ。
ちなみに俺はダークモカチップフラペチーノだ。抹茶とどっちにしようか迷った。
──約束の時間の十五分前。
ちょうどいい時間だ。そう思って俺は集合場所のハリニー君前まで移動を始めた。甘くて美味い。
最近、紙ストローになったが、俺はプラスチックの方が好きなので毎回そっちの方を頼む。
個人的見解だが、紙ストローで飲むと味が二割ほど落ちる。
(ん? あれは……)
少し歩いたことによって目的地のハリニー君が見えたところで、俺はとあることに気づいた。急ぐか。
俺は走って彼女たちの方へと走っていく。
するとそこにはサングラスをつけたり、ピアスを開けたりと、色々チャラついている男が四人組で誰かを取り囲んでいる。
囲んでいるせいでうまく確認はできないが、その中には女の子が二人。……猿どもが。
「はい。ちょっとごめんねー」
俺はその男たちを押し除けてその囲いの中に無理やり割り込んだ。
そこには清楚さを際立たせる白いワンピースに身を包んだひなちゃんと、お腹を少し出したスタイルがよく出る服に身を包んだ美咲がいた。
美咲はめんどくさそうに男たちを見ていたが、ひなちゃんの瞳には少し怯えの色が混じっていた。
「何だぁ? お前」
「みやっち! やっと来たの!?」
「おはよー美咲。やっとって……十五分前でしょ?」
「た、拓巳くん……おはようございます」
「おはようひなちゃん。大丈夫? 怖くなかった?」
「え、えっと……」
ひなちゃんは少し瞳を迷わせる。こんな状況でもナンパ野郎たちに気を使わなくても良いのに。
まあ、俺が来て少し安心してくれたようなので良いとしよう。
「おい! 無視してんじゃねえよ! その子たちは俺たちが先に手をつけたんだよ」
「はっ。男四人で女二人を囲って“手をつけた”? あんま笑わせんなよ」
「ああ? あんま舐めた口聞いてると、お前どうなるか分かってんのか?」
「……(めんどくせー)」
俺一人に対して人数有利を取れているせいか強く出てくる男の一人。ひなちゃんと美咲はどこからどう見ても上玉の女。こいつらも逃したくないということだろう。とてもめんどくさい。
俺は周りを見わたした。。周りの者たちは俺たちに関わりたくないからか、こちらをチラッと見るだけで声まではかけてこない。
「んー。美咲、ひなちゃん。多分ここからは見せたくないものが映るだろうから、三十秒くらい目、瞑っといてくれない?」
「え、あ、うん」
「わ、わかりました……?」
そう言って素直にいうことを聞いてくれる二人。
……さて、
「おい、何言ってんだ──」
「……」
顎を裏拳で擦って脳震盪を故意に起こす。ここまでコンマ三。
「……は?」
誰が呟いただろうか、膝から崩れ落ちた男の仲間の一人であることは確実だ。
追撃を止めない。棒立ちとなった男の足に蹴りを入れて転かす、その流れを使って一人の男の顎に後ろ回し蹴り。再び脳震盪を起こした。ここまで一秒とコンマ四。
後ろ回し蹴りした足を地面につけて軸足とする。反対の足での回し蹴りを顎へと繰り出した。ここまで一秒とコンマ九。
「クソッ! 一体何が──」
纏まっていたからやり易かった。
「おい」
「お前!? グッェ!?」
俺は先ほど転がした男を、片手で胸ぐらを掴んで持ち上げた。まるで子供と大人のようだなと俯瞰的に感じた。
「な、なんだっ! コレェ!?」
「名前は?」
「は?」
俺は襟元から手を離して首を直接掴む。
「名前は?」
「あ、グェ、が、ハルド!」
「……じゃあハル。ラ◯ン交換しようぜ?」
あ、顔が白くなってきた。そろそろ離してやるか。
「グッ! ガハッ! ゴホゴホ……」
「ほら、ライ◯。早くやれ」
「グッ、お前……」
「十、九、八、「やりまず!」」
ちょうど良いし、コイツらを俺のモノにしよう。俺の“命令”という言葉に反応してハルはラ◯ンのフレンド登録した。
「ん。もう帰って良いぞ」
「ヒッ! は、ハイッ!」
ひどく掠れた声でそう言ったハルはそこから走って離れて行った。
……コイツらどうすんの?
俺の視線の先には脳震盪によって倒れている男が三人床に倒れていたのだった。
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