内見と内覧

中島しのぶ

内見と内覧

 これから「住む」場所について、知り合いに意見を聞いてみることにした。


「そろそろ違った場所に引っ越そうと思うんだ」

『何で?』


「ちょっと今いる所、飽きちゃったんだよね」

『ま、永く住んでればそうかもね。で、具体的にはどこら辺にするの?』


「ん〜っとね、この辺りがいいんじゃないかなと思ってる」僕は地図を送って候補の場所を指し示す。

『どれどれ……あ〜結構人口密集地だね』


「でしょ? 食料調達に困らなそうだし」

『それは最低条件だね』


「で、これから住む場所の見学をすることを、『内見』っていうんでしょ? 『住宅の内見』ってさ」

『うん』


「『内覧』っていう時もあるでしょ?」

『そうらしいね』


「でさ、『内見』と『内覧』って具体的にどう違うの?」

『あーそれは――「内見」という言葉は賃貸の場合に使われることが多く、「内覧」は売買の際に使われることが多い――ってあるね』


「じゃ、僕は購入するわけじゃないから『内見』の方が合ってるんだね」

『そうだね……あと、同じ『内見』でも西の方では『内覧』、東では『内見』っていうらしいよ』


「へぇ〜場所によって違ったいい方をするんだ」

『ちなみにボクがいる辺りだと『内覧』も『内見』、両方とも『Preview』で済ませちゃうみたい』


「へ〜、じゃ日本語ってのは奥が深いね」

『そう。言葉っていうのは、いろいろ興味深い』


 やっぱりこれから新しく住む場所だしな。

 適当に決めて食糧難になったら困るから、実際に行ってしっかりと『内見』することにしよう。


「じゃ、ちょっと行ってくるよ」

『ああ、気をつけて。あんまり人間に見られないようにね……ま、見つかっちゃってもお腹が空いてたら食べちゃってもいいかもね』

 数千キロ離れた場所にいる彼は遠話で注意してくれる。


 そう、僕らは魔族。言葉を話すがその意味をあまり理解できず、心を持たない魔物だ。

 僕は畳んでいた翅を広げ、大きく羽ばたいた。

 新しい棲み家、人間が言うところの「住宅」の「内見」をしに。


Fin.

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内見と内覧 中島しのぶ @Shinobu_Nakajima

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