失踪
*
「ルアンナ、ネエちゃん来てない?」
と言ってリックが顔を出したのは、顔の腫れを手当てした日から三日後のことだった。
「今日は来てないけど、どうしたの?」
リックは肩を落としてつぶやいた。
「帰ってこないんだ」
「帰ってこない?」
「……うん」
二日前から帰ってきていないらしい。オリヴィエはリックがいるから夜の仕事は入れていない。よっぽどのことでもないかぎり家を空けるはずがないのだけど。
さては――。
「あんた、何かしたんでしょ」
リックはしばらく逡巡していたようだが、やがて、ネエちゃんとケンカしたと白状した。
「ったく何やってんのよ。なんでケンカなんかしたのよ」
「……学校辞めるって言ったらケンカになった」
「バカねえ」
この前来たときルアンナに話していたことをオリヴィエに言って大ゲンカになったらしい。せっかく学校に通っているのにその学校でケンカばかりした挙げ句、辞めて働きたいなんて言ったら怒られるに決まってる。
リックはネエちゃんなんか大嫌いだと文句を投げつけ部屋を飛び出したらしい。
もっとも、勢い勇んで飛び出してはみたものの、どこか行く当てがあるわけでもなく、街の中をうろうろと歩きまわり、結局疲れて帰ったというのだからずいぶんと短い家出だったわけだが、帰った時にはオリヴィエはいなかったのだそうだ。
「それが一昨日?」
「……うん。一日部屋で待ってたんだけどネエちゃん帰ってこなかったから、今日はあっちこっち探してて――もしかしたらルアンナのとこ来てるんじゃないかと思ったんだけど……」
オリヴィエが来たのは先週の土曜日だから五日前になる。
「で、あんたはオリヴィエがいなくなって寂しくなったからあっちこっち探してたってわけね」
「ちがうよ! 全然違う!」
ムキになって否定するのでちょっとからかってみる。
「へえ、何がちがうのよ」
「腹がへっても何も食えないないから捜してるんだよ」
「ふうん、まあ、そういうことにしとこうか」
「何だよそういうことって! いいよ、もうルアンナには頼まないから」
「あっ、リック!」
出て行こうとするリックをあわてて呼び止める。ちょっと調子に乗り過ぎたようだ。
「ごめんごめん。ちょっと言い過ぎた。お詫びに……そうね、何か食べてく?」
リックは食事と聞いて一瞬嬉しそうな表情を浮かべたが、すぐに引っ込めると
「ルアンナが食べてってほしいって言うんなら、食べてってやってもいいよ」
と生意気なことを言った。
ようやくいつもの調子に戻ったようだ。
それにしても――。
食事の支度をしながらルアンナは考える。
どこ行ったんだろ、オリヴィエ――。
いま思うと先週会ったとき少し元気がなさそうだった気もする。あれはもしかして何か相談したかったんじゃないだろうか。
あたしも男と別れたばかりだったから、愚痴やら何やら話しまくってろくにオリヴィエの話を聞いてあげられなかった。
今度会ったらちゃんと聞いてあげよう――とルアンナは思った。
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