護衛騎士の選択

宇多川 流

護衛騎士の選択

 白い壁は薄紅色の線で花が描かれ、気品と可愛らしさを備えている。乾いた空気に揺れるカーテンも少女の好みをしっかり捉えていた。

「明るいですね。景色もいいし」

 金髪の少女が陽の差し込む窓の外を眺める。

「公爵も是非ここを姫にお勧めします、とのことです」

 案内人の青年はにこやかに伝える。

 しかし、そばに控えるエドナは納得しきれずにいた。理由は勘としか言えないが。

「林が近過ぎる気がします。襲撃され易いかもしれません」

 護衛騎士としてそこが気になったのも事実だ。

「では、林を少し伐採しましょう。公爵も快諾なされるでしょう」

 案内人はクローゼットを開いて見せる。家具は少女の好みに合わせてあり、そしてどれも新品だ。

 公爵は国王の弟の一人だ。王都から離れた領地のため顔を合わせる機会は少ないが、これまでは会うたびに幼い姫を可愛がっていた。女騎士も何度も目にしている。

「壁も天井も家具なども新品ですね。今回のために建造したのですか?」

「もともとは別荘でしたが、姫の外部の住居をお探しとお聞きして改築されました」

「なるほど」

 エドナは壁に指先で触れる。わずかに白い粉が付着し、匂いを嗅いでみる。部屋には香が焚かれ、ほのかな甘い匂いで満たされている。しかし、指先にわずかに異質な匂いが移っていた気がした。

「ねえ、エドナはどう思う?」

 姫がこの屋敷を気に入っているのは明らかだが、それでも絶大な信頼を置く護衛騎士に意見を問う。

「そうですね……悪くはないですが、他の候補も見てみましょう。わたしの親戚にもいい屋敷を持て余している者がおります」

 確信はないまま、エドナは自分の勘に従うことにした。


「見立てが合っていたな」

 半年後、公爵の逮捕を上官に伝えられ騎士は勘が正しかったと知る。

「あの屋敷の壁や天井には、気温と湿度が一定以上になると空気中の水分に溶け出す毒が仕込まれていた」

「なるほど」

 部屋の光景を思い出し、女騎士はほっと息を吐いた。



   〈了〉

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