新型テロリスト・ミラー五郎
狐付き
新型テロリストの内見
「本当にこちらの物件で宜しいのでしょうか」
「まだ内見だけだ。買うとは言っていない」
「いやぁ、でも……」
東京の都下、奥多摩町。自然豊かなこの地にて、これといった特徴のないサラリーマン風の男が住居の内見にやって来ていた。
「なにか問題でも?」
「説明にも書いてあった通り、こちらは土地の販売であり、旧家は潰すのを前提としておりまして、内見をする必要があるかと言いますか……」
「だが住んでも構わんのだろ?」
「え? ええ、一応。ですがかなり古い家ですし……」
「先日の地震でも潰れなかったのだろう? 充分じゃないか」
日本の住宅は古くても震度5くらいまでは普通に耐えられる。とはいえこの家、次の大地震に耐えられるかどうか不明な佇まいをしている。
一応、窓とドアがある。日本家屋という感じではない。しかし中に入るとそれは一変した。
「おお、かまどがあるじゃないか」
「元々日本家屋だったものを無理やり外見だけ西洋風にしただけみたいですね」
ドアを開けると土間があり、かまどが2つ並んでいる。相当古いものなのだろう。横には台所として機能する木の台と水桶などもある。
土間から上がり、中を見る。ほとんどの荷物は残っていないが、年代物の箪笥がひとつ残されていた。
「桐箪笥か。いい使い込まれ方だ。素晴らしい」
男は丁寧にひとつずつ引き出しを動かしそう呟く。
そして男は部屋をぶらつくと、ひとつの柱へ強めに手を打ちつける。
「これが大黒柱だな。とても立派だ。これだけ丈夫ならあと数十年は大丈夫だろう」
男は様々なものを触れては素晴らしい素晴らしいと、感嘆の声をあげていく。
「しかし、ご覧の通り、ここはインフラが行き届いておらず、電気やガスを使うとなったらかなり時間がかかるかと思われます。建て直すとなればその間に済ませることができますが、今それを行えるかと言われますと……」
「そこがいいんじゃないか。是非ともインフラなんか無視してこのままであって欲しい」
男は現状で満足しているようだった。
話は変わるが、最近世を賑わす新型テロリスト・ミラー五郎という男がいる。
彼はよくあるテロリストと違い、自然を大切にすると言われている。
爆発物や毒、細菌兵器はもとより、銃器や刃物などの武器類も使わない。
ここはそんな男が隠れ住むにはぴったりの建物ではないだろうか。
「いかがでしたか?」
「大変素晴らしい物件だった。見るだけでも価値はあった」
「ではお買い上げでよろしいでしょうか?」
「嫌だよ不便だし」
新型テロリスト・ミラー五郎 狐付き @kitsunetsuki
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