小便小僧たちの沈黙

未亡人製造機

小便小僧たちの沈黙

 ボトラーとは、トイレに行くことを嫌い、ペットボトル等の容器で用を足す者のことを指す言葉である。当然、彼らの部屋には尿の入ったボトルが溜まっていくことになるので、定期的に処分する必要があり、その処分方法には多くのボトラーが頭を悩ませている。

 そんな問題を解決すべく、ある時ネットで有志による会議が開かれた。当初はボトルの処分方法について侃々諤々の論が広げられていたが、次第に内容はボトラーたちの失敗談、快適な用の足し方の議論に変わり、ついにはボトル自慢になっていた

「自分は500ミリペットボトルが1ダースある」

「私は2リットルペットボトルが6本」

「押し入れの奥に7年ものの尿がある」

「ポリタンクを愛用している」

「画像上げてみろよ」

「ほらよ、これが証拠」

「ほんとに小便か?ただのお茶だろ」

「なめんなよ。おい、今度会おうぜ。そのときにお互いのボトルを見せ合おう」

「おもしれぇ。俺のボトルみてちびるんじゃねえぞ。ちびるならボトルにしろよ」

「私も混ぜて頂いてよろしいでしょうか」

「拙者も」

「小生も」

「朕も」

「わらわも」

「I’m too」


 こうしてボトラーたちのオフ会が開かれることとなった。当日、山の中の会場に集まった有志は老若男女50人。車に尿を積んでやって来る者も、大きなカバンを背負い、電車に乗って来る者もいた。

 しかしボトラーのほとんどは普段部屋に籠ってパソコンに齧りついている連中である。実際に顔を合わせて話をするのは大の苦手。挨拶を済ませ、互いのボトルを見せ合うと、もう話すことが無くなってしまった。会場に微妙な空気が流れる。

 その長い静寂を破ったのは、悲鳴だった。

「うわあーっ、車が燃えてるっっっ!!!」

 会場に停めてあった一台の車の座席から火が上がっていたのだ。

「そうか!!尿の入ったペットボトルがレンズの役割をして、発火したんだ!」

 場に居合わせた解説キャラが驚いている間にも、火はみるみる大きくなっていく。

「みんな狼狽えるなっ、俺に続けっ!」

 オフ会の主催者である男が、ポリタンクの小便を車に向けてぶちまけた

「ああーっ、俺の車が!」

「ごちゃごちゃぬかすな!あんたも手伝え!」

 そうして皆が、持参したペットボトルの中身を火にかけていった。ひどい異臭に包まれる中、懸命な消火活動が続けられ、消防車が付くころには、火は完全に消えていた。

ボトラーたちの活躍は、翌日の新聞の三面記事を飾った。


「山中で異臭騒ぎ 体調不良で37人搬送  “ボトラー”たちによる集団的犯行か」


それから一月後、オフ会に来ていたボトラーの一人が、再び火災現場を訪れた。季節は春になり、山の木々は以前と違う色を見せている。勿論、小便の匂いももうしない。心地よい鳥の鳴き声を聴きながら、ハイキング気分に浸っていたボトラーは、現場の光景を見て言葉を失った。

「なにこれ・・・」


一面に黄色い菜の花畑が広がっていた。

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