推しにキスをされた話

ゆー。

推しにキスをされた話

 私には可愛い可愛い推しクラスメイトがいます。


 その人は黒石くろいし八重やえちゃん!


 大人気アイドルグループに所属する可愛い系のアイドルであまり授業にいることはないんだけど、生で見ると肌とかきめ細かくて本当に三次元に存在していい人なのかと疑ってしまう。


 私は元々ドルオタで八重ちゃんが加入する前からそのグループを箱で推ししてたんだけど、八重ちゃんに一目惚れしてからずっと空いていた最推しの座はすぐに八重ちゃんが座ることになった。これはもう恋の領域に等しい!


 推しと同じクラスなんて最高!…だけど私はドルオタ陰キャだから八重ちゃんという天使とは一言も話したことがない。というか学校に来た日はずっと囲まれてるから話せない。話す勇気もないんだけど……。


 まぁ推しとの接触なんて高望みはよろしく無いし、生で見れるのが奇跡だし、今の現状に満足してるから問題はなし!


 ささ、今日も八重ちゃんのお美しい顔を模写したノートを見返してSNSに…………ってない?!


 し、しまった!私としたことが秘蔵の八重ちゃんノートを学校に置き忘れるなんて!万が一他の人に見られたら私の人生が終わってしまう!


 私は急ぎ足で教室に戻る。今ならまだ教室は空いてるだろうし、金曜日の放課後なんて誰も残ってないはず!


 よし!教室からは話し声も聞こえないし、バレずに八重ちゃんノートの回収をっ!


 ドアを勢いよく開けた私の目に真っ先に写ったのは夕日に照らされる天使……いや、何かのノートを手に持つ八重ちゃんだった!!!!!!!




 ん?なにかのノート……?まってそれ私の八重ちゃんノートじゃ?!?!?!?!


「あ」


「へ?」


「こ、近藤さん?!こ、これはね!わざとじゃなくて!」


 お、終わったー!!!!!!!!!!


 他人に見られてもダメだけど本人とか想像する中で一番最悪!SNSにキモオタとして笑いものにされてクラスの中でも除け者にされてどこにも私の居場所がなくなってしまうんだ!あー私の人生終わりだ!


「こ、近藤さん?!」


「な、何でもするので…言わないでください…」


 私は八重ちゃんに向かって全力の土下座をかます。


「あ、あの今手持ちは少ないですけど…お金も払うんで…」


 私はハッとしてリュックから財布を取り出し八重ちゃんに向かって差し出した。


 正直足りないだろうし、八重ちゃんともあろう人がこのくらいのお金じゃ満足できないだろうし、もちろん高校を中退してお金を貢ぐ覚悟もできている。


「こ、近藤さん!お、落ち着いて!」






「と、とにかく!言いふらしたりなんかしないから」


 八重ちゃんはなんと優しいことか私のこんなにも気色悪いノートを言いふらさないでくれるらしい。本当に顔をあげられないなぁ……。


「そ、それに絵すごい上手で私感動しちゃった!」


 聖母は私に対して元気よく微笑みかける。え?本当に天使じゃん。何をすればこの恩を返せるの?


「ライブの衣装とか細かいとこまで描いてたじゃん?それに髪型とかもちゃんと変化に気づいてくれてるし、嬉しかったよ?」


「あ、…うぅ///」


 八重ちゃんの嬉しすぎる言葉に目頭が熱くなる。


「ほ、本当にありがとうございます………なんでもじますぅ……」


「な、なんでもって」


 八重ちゃんは少し困ったように笑った。も、もしかして推しを困らせちゃってる…?ふぁ、ファン失格すぎる!!!!!!!!や、やっぱり自◯しか罪滅ぼしにならない…?


「そ、そのね?私って今、ドラマに出てるじゃん?」


 確かに八重ちゃんは今主演として恋愛モノのドラマに出ている。ファンとして血涙を流しながら追っているのでもちろんの如く知っている。


「それでね?今度の撮影にキスシーンがあるんだ…」


 ぎ、ぎずじーん”?!?!?!?!?!


 だ、ダメだ…その放送の時は寝込むかもしれない………。


「でも…私、ファーストキスもまだだし、緊張しちゃって…」


 ふぁ、ファーストキス?!?!?!?!?あの俳優は呪われることが決定しました。


「も、もしよければなんだけど…近藤さん、練習台になってくれない?」


「……え?」


 レンシュウダイ?それって八重ちゃんのファーストキスを…?


「そ、それって……口をつけて?」


 八重ちゃんは真っ赤な顔でこくんと頷いた。


「こ、近藤さんだったらファーストキスあげてもいいかなぁって」


 だ、ダメだがわいすぎるぅ!!!!!!!!!






「そ、それじゃあするね?」


「は、はひ」


 私は推しのお願いを断れるわけもなくそのお願いを了承した。


 私は席に座らされて私の肩に手を置くようにして八重ちゃんが立っている。八重ちゃんも緊張しているのか顔を真っ赤にさせていて私はその顔を直視できないでいた。


 しばらくすると八重ちゃんの顔が近づいてきたので目をギュッと瞑った。



ちゅ



 目を瞑って体感1分。唇に柔らかい感触が伝わってくる。


 そこから体感して10秒。


 唇から暖かな感触が離れ、そっと目を開けると顔を更に真っ赤にさせた八重ちゃんが立っていた。


「んむ?!」


 八重ちゃんは何を思ったのかさらに深く口付けをしてきた。


 今度は更に長く押し付けるように…それでいて優しげに私の唇を喰んでいく。恥ずかしながらに八重ちゃんが満足するまで耐えているとふと唇を舐められる感覚がした。


 もしやと思いつつもびっくりして口を少し開くと暖かくてトロッとしたものが口に入ってくる。も、もしやこれは八重ちゃんの舌では?!?!?!?!?!


「あ、ありがとう玲奈ちゃん!それじゃまたね!」


 八重ちゃんは急に口を離してそういうと足早に去っていった。私のノートを持って。


「や、やわらか…いや、私のノート…な、なまぇ……ふぇ?」


 脳の処理がしきれないまま私はその日、どう帰ったのかも分からなかった。


 冷静になって考えるととんでもないことをしたなと思う。八重ちゃんのファーストキスを貰ってその上名前呼びまでしてもらって…………あぁ〜脳みそ溶けそう!!!!!!!!!!てか八重ちゃんキスエグいくらい上手かった!!!!!!!しあわせしゅぎぃ……でもあの俳優の練習台っていうのが素直に喜べないぃ………。




 ………そういえば、八重ちゃん私の席のそばに立ってたけど何してたんだろ?置き勉とかしてる人多いし、私の八重ちゃんノートもちゃんと他の教科書の下に置いてたはずなんだけど……。











(やっちゃったやっちゃったやっちゃったやっちゃった………!!!!!!)


 私は自分自身の唇に手を当てながら後悔に包まれた。


「どうされたんですか?」


「な、なんでも無いです!」


 迎えに来てくれていたマネージャーさんに手早く返事して、マネージャーさんから顔が見られない位置でスマホを触るふりをする。


 ていうか、玲奈ちゃんのノートも持ってきちゃったし、本当私って馬鹿………。


 私は玲奈ちゃんのノートをめくってみる。


 ノートにはびっしりと私の似顔絵や私が着ていた衣装についての細かなメモが記されていた。


 玲奈ちゃんが私のことをちゃんと思ってくれていたみたいで胸が暖かくなる。


 今日は大胆にあんなことしちゃったけど、玲奈ちゃん私のこと嫌いになってないかな?


 私は玲奈ちゃんを一目みたときから気になっていてい、いわゆる一目惚れだったんだけど…まさか玲奈ちゃんとキスするまでいくなんて……しかもまだ恋人じゃないのに…!


 それに、玲奈ちゃんに嘘までついちゃったし……机も漁っちゃったし………。


 ドラマでキスシーンが…って言っても口ではないしちゃんと口つけないようにするし、嘘で玲奈ちゃんのファーストキスを奪うなんて…それに舌まで入れて!!!!!!私ったら最低すぎる!


 ま、まぁでも玲奈ちゃんがノートの方に関心がいってよかった……。入ってきたタイミングと角度的に私が玲奈ちゃんの机でしてたことはバレてないみたいだし……い、いや何もしてないんだけどね?!そ、そんな机の角でアレソレなんてしてないけどね?!?!?!


(も、もう一回キス、したいなぁ…今度は恋人として…!)


 私は静かに決意して玲奈ちゃんのノートをカバンにしまった。



 ちなみに玲奈ちゃんのノートに描いてあった他のメンバーの絵はつい感情のままに破いてしまいました……。仕方ないじゃん!れ、玲奈ちゃんには一途でいてもらわなきゃ困るんだもんっ!

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推しにキスをされた話 ゆー。 @yu-maru

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