言葉の通じる相手

幼縁会

言葉の通じる相手

「実は僕、人間じゃないんだ」


 少年の衝撃的な告白はしかし、少女にとっては不思議とすんなり受け入れられた。


「そうなんだ。で、私を食べるの?」

「嘘じゃないけど」


 冗談めかして口を滑らせれば、少年は不機嫌そうに口を尖らせる。

 彼からすれば自白するまでに相当の葛藤があったのだろう。茶化すには性質が悪かったのは否めない。


「ごめんごめん。でも私にとってはどっちでもいいからさ……ッ」


 恥ずかしさに頬を掻くも思わず傷口に触れたのか。鋭利な痛みが少女の神経を刺激する。


「ねぇ、僕は人間じゃないから君達の倫理には引っ張られないよ。だからさ……言ってよ」


 少年の声音に剣呑な色身が混ざる。

 もしも彼女が一言願えば、彼は一切の逡巡なく実行に移すのだろう。後から自身に降り注ぐ脅威など微塵も考慮せず。

 少女が言葉を交わす相手を失うことも省みずに。


「言うって何を」


 悪戯っぽく首を傾げてみれば、少年は咄嗟に何かを吐き出そうとする。が、寸前の所で喉元へ押し込まれた。

 彼女が誰を案じているのか、それは彼にも分かっていたのだから。


「私なら大丈夫だよ」


 スカートを翻すと、傷だらけの少女は帰路へつく。

 言葉の通じない人達の下へ。

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言葉の通じる相手 幼縁会 @yo_en_kai

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