第2話戴冠

魔族の戴冠式は派手なものではない、魔王という称号。魔族を導く王となり玉座へと座る。

ローブを被り、素晴らしい装飾がついたスーツをきた男がゆっくりとだが視線を向けた。


「君達の知っての通り、私は悪魔ベルフェゴール。そして、彼は私の配置した魔王の代理。ソロモンだ」


その場に集っていた魔族達が騒ぎ出す。


「代理だと!では!陛下でもない存在が玉座に座っているというのか!」


その中で、2mはある鎧を着た大男が、玉座に座るソロモンに剣を向けた。

魔族にとって悪魔は上位者に当たる存在であり、魔王は使えるべき存在。

その代理であるソロモンは許容できないのだろう。


「……お前、名前は」


「貴様に名乗る名は」


「……もう一度いう、名前はと聞いた」


「?!」


ソロモンの威圧するような物言い、ソレは自身の魂からの忠誠を揺さぶられるものだった。

男は媚び諂うではなく、驚きの表情でベルフェゴールを見た。


「これは……このお方が本当に魔王ではないのか」


「はっきり言う。魔王じゃない、言わば代行にあたる。魔王自体は近いうちに生まれる、彼はそれまでの繋さ。まさか………君の忠誠心を揺さぶるとは思わなかったよ」


ソロモンの前でベルフェゴールと男は話し、男はソロモンに頭を垂れる。


「私は近衛師団長マークスウェル。人の魔族です。お聞かせ下さい、ソロモン様。貴方の気配、佇まい。全てが魔王のソレでございます。のにも関わらず貴方は魔王陛下ではないと」


「マークスウェルよ、私は魔王ではない」


若い男の声でソロモンは話す。

ローブが

消えスーツを着たソロモンが姿を見せる。その佇まい、あり方、全てがマークスウェルにとって理想の君主だった。


「あくまでも代理、しかしそれまでは魔王に違いない。お前たちもだ、真に魔王様が生まれるまでの間、私の言葉は魔王様のものだと思え」


「ハッ!このマークスウェル、ソロモン様に絶対の忠誠を!」


マークスウェルが忠誠を誓ったのを見たソロモンは他の魔族たちをゆっくりと見渡す。


「……おまえ達の忠誠もだ」


「………ソロモン様、私は………私は一つお聞きしたい。貴方は飢えた子供が居ればどうする」


「深い質問だな、救う。と断言できれば良いのだが……救うとはどのようなことだ?パン一つ、1日の食事を与えたとしよう。しかし、それでは根本の解決には至らん。だが、私の治世の下で、飢えで死ぬ子供など許さん。死ぬなら、満足に死ね。自分の人生を歩ませ、その後死ねるようにしてやろう」


ソロモンはじっと質問を行った騎士に目を向けた。


「私は……獣の魔人。南方師団団長ゼノン。その言葉、お忘れなきように」


ゼノンは兜を外し、臣下の礼を行う。

蒼炎を思わせる鬣を持った獅子の魔人、ソロモンはその印象を受けた。


「北方師団団長メレフラ。エルフの魔人です。ソロモン様、貴方の見せる國とは」


軍服を着た聡明な女性という印象だ。

何者にも染まらない純白の髪をなびかせ、その瞳は紅く、鋭くソロモンを見つめる。


「魔大陸を纏め上げられたのはひとえに皆、お前達将帥の活躍である。しかし、我等がこの魔大陸に何故抑え込まれる。何故、狙われねばならない。私の目指す國、それすなわち我等の楽園。来たる、魔王様の下で民達が素直な笑みを浮かべられる國よ。違うか、メレフラよ」


ソロモンはメレフラを睨み返した。

その視線は鋭く、あまりにも慈愛に満ちていた。


「……いえ、出過ぎた真似を…失礼しました」


老練な男、身の丈以上の一振りの大剣を携え、筋骨隆々ながらその全てが勇者であると感じさせるもの。


「……儂はドワーフの魔人、アトレ。閣下、こんな儂も閣下の軍門には必要ですかな?」


「何を言うか、アトレよ。ソナタから見れば私は所詮未熟者であろう。だが、認めさせよう。私は必ずな」


「若人はそうでないと、東方師団は閣下の指揮下に入ります」


アトレは面白いものを見たという様にソロモンと、笑顔で手を交わした。


「西方師団、人の魔人。アレクメネ。ソロモン閣下に忠誠を。あと、予算下さい」


「………お前だけだぞ………まったく……

予算はまだ組めん、後々だ。さて、本日の内容は終わりだ。後日、各方面師団の視察に向う。予定は追って伝える」


「「「ハッ!」」」


敬礼をし、5人とその付き人たちがソロモンの歩く道を開いた。


「ではソロモン、行こうか」


「……」


ベルフェゴールに先導され、ソロモンはその姿を魅せる様に師団長と兵士の間を悠々と歩いていく。その姿は万人を魅了し、彼等の忠誠心をくすぐった。


「ここまで来れば良いか」


ベルフェゴールが指を鳴らすと部屋に結界の様な何かが展開される。

そして、部屋の様子が一気に変化した。

テーブルを挟んだソファの片割れに座り、嗤いながら話す。


「やぁ、お疲れ様。ソロモンいや、櫻木拓也君」


「……」


ソロモンの役割を終えた拓也は静かに、ベルフェゴールの対面ソファに座る。そして、自分を面白い玩具の様に見つめる彼女の顔を見た。


「まさか………私の気が変わりそうになるなんて。逸材だな、これなら君が魔王でも良いんじゃないかな?」


「お戯れを、自分は戦えません。この世界の魔法も使えません。文字も読めない」


「安心したまえ……とは言えないな。そうだなぁ……魔法と読み書きできる知識を与えよう。勿論、対価は貰うがね」


「では……自分のまだ住んでいる。アパートの下階と隣の人の生命ではどうでしょうか」


「最高だね、目的のためなら他人はどうなっても良いか?」


「さぁ、ですがどうでも良い事に変わりありません」


「契約はなった、後でそいつ等の命は貰おう」


ベルフェゴールの言葉はそのまま行動へと変わった。拓也は胸が締め付けられ、苦しみに悶える様に地面に這いつくばる。

口から泡を吐き、悲鳴すら上げることは叶わない。


「その程度で死なないでよ。君、まだ保険適応外だから。書類関係終わらせてないでしょ?」


「………」


ベルフェゴールは嘲笑いながら、苦しむ拓也を見ている。無限に苦しむ事になろうと、この程度で死ねないのだ。

自分の人生を生きていない、親に恩も返していない。

全てを成すには金がいる、自分はその金のために今ここに居るのだと。


「さて、実はサービスをしてある。君の力は今の所先代魔王レベルだ。無論、それだけで君に匹敵する存在はいない訳だが……」


「魔王か居れば勇者が出るとでも?」


「その通り、事実先代は50年前に勇者に討たれた。君の役割、わかってるね?」


拓也は頷き、ベルフェゴールに向き合う。


「ベルフェゴール様、今の私は魔王代理であるソロモン。

魔王様の誕生までの繋てますので」


「良いね、取り敢えず帰り給え。今の君なら念じれば帰れるさ。安心しろ、私の魔法は時間の流れすら超えるもの。話したろ?」


「わかってます、あと………」


「君の頭に魔法をかけてある、コチラとアチラで記憶が連続する魔法だ。地球からアトラに転移すれば、アトラで直前まで何をしていたか思い出せる。逆もまた然りだ」


そして、ベルフェゴールは微笑みながら言葉を続けた。


「後だ、君は死んでも《僕の》大切な存在である君には『コンテニュー』ができるようにしてあげる。残機は5。敵を100体殺す事に残機が増えるシステムだ。リスポーンは君が選んだ好きな場所さ」


「…ありがとうございます」


だが、純粋な感謝はできない。拓也の眼の前で嘲笑う目を向けているのだ。

微笑んでいる、だがその本心は拓也がどの様に死ぬのかというのを楽しもうとしているのだろう。


「じゃあまた明日。元気でね」


拓哉は一礼をし、淡い碧の光に包まれた。

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アルバイト魔王、真の魔王よりも魔王する shadow @shadowback

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