アルバイト魔王、真の魔王よりも魔王する
shadow
第1話 アルバイト魔王誕生
「……金が無い」
青年は専門学校に通う1年生だった。
親からは300万円という大金を支援してもらいながら、バイトをし生活していた。
しかし、奨学金の申請には失敗し、国保はその専門学校が免除の範囲外であった為に通らず、
アルバイトの収入だけでは生活が成り立たなくなってしまっていた。
「………お金を借りるか?いや、両親と相談すべきだな。でも……出来るだけ頼りたくないし、バレたくないし」
アルバイトの契約ももうすぐ終了してしまう。
もともと続けたいと思っていたものでは無いため、そこは問題ない。しかし、新たなバイトを探すには時間がかかる。
「……はぁ?」
《高収入アルバイト!即日入金!社宅あり!
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期限○月☓日18時00分まで
メール・アドレス
XXXXXXX@xxxx
怪しい物だが、青年は藁にも縋る思いだった。
だからこそ、青年はそのアドレスにメッセージを送った。証明写真などは近くのボックスで取り、オンライン上から履歴書をダウンロード。
必要書類は1つであった為に、簡単だった。
「闇バイトだったら警察だ。かかわってからじゃ遅い、例え報復があっても……家族に迷惑はかけられない」
少しすると、青年のスマートフォンに電話がかかってきた。
「はい、櫻木です」
「ご連絡頂いた櫻木拓矢様、ご本人様でよろしいでしょうか」
「はい」
若い女性の声だ、カスタマー・サポートの方だろうかと青年、拓也は思った。
「御伺いいたしますね」
「へ?」
スマートフォンが光だし、魔法陣の様な何かが現れる。そこからスーツ姿の女性が姿を見せた。だが……その姿は人間に似てはいるものの、頭には山羊のような角、背中には蝙蝠のようでありながらも禍々しい翼が生えている。
作り物ではない、そして命を刈り取られると感じる、生存本能が逃げろと叫んでいる。
「はじめまして、櫻木様。私はベルフェゴール」
「ユダヤ、キリストに伝わる7つの大罪。怠惰の悪魔……本物」
「フフッ…博識ですね。好感度は高いですよ。さて、ここに書いてある内容に嘘偽りはありませんか?」
「……」
嘘を伝えれば死ぬ、そう感じ捺せられる雰囲気。拓也は何故応募したのかを話した。
「お金が必要、えぇ、そうでしょうとも。
しかし、貴方の魂は面白いですね」
「…………」
「家族は大切、守りたい。迷惑をかけたくない、でも……友人は別、迷惑はかけたくないけど居なくなっても困らない。知人以下は有象無象、死のうが生きようがどうでもいい」
「そのとおりです」
「……ですが、善性は捨てきれていない。助けようとは感じつつ、一歩後にいる。典型的なつまらない人生」
つまらない人生、当たり前だ。楽しい人生はあるだろう。本当なら青年は家族と過ごしゲームをして自堕落に過ごしたい。無意味に寝ていたい、だがそれができる生活はない。
「貴方、怠惰の様な生活が本当なら送りたい」
「……そんな人生があるなら、是非とも」
「悪魔に魂を売っても?知人がひどい目にあっても?」
「家族に迷惑がかからないなら、知人は知っているだけの他人、どうでもいいです。善性を捨てていないとおっしゃっていましたが、ベルフェゴール様。自分はあくまでも凡人、凡人は善性を持っています。ですが、それは簡単に捨てられます」
青年は心からの言葉を伝えた。
「……その魂、気付きませんでした。ドス黒く、悪魔好みでありながらそれを善性で塗り固めていたとは…」
ベルフェゴールは拓也の唇に人差し指を押し付け、魅了の微笑みを向けた。
「合格です」
「……それで、仕事の内容は」
「……では、着替えていただきますよ。『魔王ソロモン陛下』」
「……は?」
それは本日2度目の反応だった。
ベルフェゴールは拓也の目に手を当てると呪文の様な何かを話している。
聞き取れず、おぞましい何かを話している。
そして、ベルフェゴールの言葉が終わる頃には拓也の世界は変わっていた。
見慣れたアパートの個室ではなく、数多の調度品が用意された豪華な一室。
窓の外からは曇った空があり、木漏れ日が大地を照らしていた。
「……ここは魔大陸、貴方の存在しない異世界」
「異世界……名前は?」
拓也は不意にそう聞いた。
ベルフェゴールはそれを嘲笑い、無知な子供を見る目で話す。
「世界に名前があって?お気楽なものね、そんなのは物語の中だけよ。でも……そうね、星としての名前なら『惑星アトレ』それがこの星の名」
「……異世界ではなく、別の星」
しかし、拓也は驚くだけだった。
「……仕事の話よ。貴方には魔王としてこの魔大陸を統べ、その力を異大陸の者達に知らしめて欲しい」
「……何故?俺よりもベルフェゴールの方が遥かに」
「えぇ、強い。しかし、それだけではいけない。魔大陸にはその名の通り『魔』が異大陸よりも蔓延る地。我々悪魔の名誉を穢す者たちの地。しかし、それでも生きる者達がいる、人間という存在に虐げられ、行き場のなくなった者達が」
ベルフェゴールは無機質な目で窓の外を見つめた。あるのは城下町、そして夢に見た獣人だ。
「彼等はお前の思う獣人ではない、獣の魔人」
「獣人と違うんですか?」
「魔大陸以外には人類が生きている。人類とは猿から進化した『人間』、獣の特徴を持ちながら進化した『獣人』、人類の突然変異から生まれ長耳、長命の『エルフ』、炭鉱や地下に住むべく進化した『ドワーフ』、正直どれもこれも進化と言いながらも結局は神々のせいだがな」
異星の神、それがどの様なものなのか。
拓也が聞くよりも速くベルフェゴールは話す。
「この星の神は……知らんな。私達悪魔がこの星に来るよりも先にいた。見守りながら、我々の邪魔ばかりしてきたよ」
ベルフェゴールも詳しくは知らないのだろう、だが、この星の進化では『神』という存在が密接に関わっているのは確かのようだ。
「……では魔人は?」
「魔人は我々『悪夢と契約』した者達の末裔だ。魔人は共通し、何処かしらに痕が生まれる。他社より優れた者に、憎い存在を、生きていたい、神々に願うではなく悪魔に願い、神々から見捨てられた者達だ」
「………」
「彼等は長命であり、強い肉体を有し、人類が束になってやっと倒せる者達だ。その強さが魔大陸に入るきっかけとなったのだよ」
差別され、恐怖された、その行く先がまだ見ぬ大地。
「魔王ソロモン様、貴方様にはこの大陸の王として全てを導いてもらいます。無論、片手間ですが」
「……しかし、」
「安心しろ、地球にも色々と用意はある。お前は私が用意した場所に、私の金で引っ越し、福利衛生の整った職場で働く。プライベートもある。文句はないだろ」
「………」
「安心しろ、時間の流れさえも越えられるのだ。私はな、お前は雇われなんだからきちんと仕事しろ。後だ、お前の日給だがこちらの『星』で1週間なら1週間分の給金を出す。口座ではなく現金でだが」
「……(ゴクリ)」
その言葉にナマツバヲ飲んでしまった。
金が無いのだ、金が必要なのだ。
ベルフェゴールは全てを用意してくれる。
金のかからない家、水道代と光熱費は7割でいい。夢のような家だ。
「さぁ、魔王ソロモン様。手を取りなさい」
「ベルフェゴール」
拓也はベルフェゴールの手を取ると自分の姿が変わったことに気が付いた。
漆黒のスーツを身に纏っており、所々の装飾は只者ではない。
「……さぁ、戴冠式だ。いくぞ、魔王ソロモン」
「わかった。ベルフェゴール」
その日、魔大陸は震撼した。
「我等の王の帰還だと」
「我等を導く存在の誕生だと」
悪意はない、魔大陸内に悪意など存在しない。
悪意とは常に、外から現れるのだ。
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