モデルハウスのリアルな内見
西園寺 亜裕太
第1話
晴れた日曜日に、僕は妻と一緒に新居を探すために戸建て住宅の内見に来ていた。
「ご自由に中を見学して行ってもらって大丈夫ですよ」
モデルハウスの案内人に言われて僕と妻は中を見ていた。
「この家良いわね。わたし、ここがいいわ」
そうだね、と僕は頷く。概ね購入する家は決めていて、後は最終確認をしている段階だった。一通り室内は見終わっていて、見ていない場所は、あとは一階の端っこの部屋だけになっていた。
「ここだけ閉まってるんだな」
他の部屋は開放的なのに、一部屋だけ閉められていた。廊下がほんのり薄暗くなっている場所にある部屋だったから、少し不気味ではあった。ゆっくりと襖を開けていくと、中の様子を見て、思わず妻が悲鳴をあげた。僕も続いて声を出す。
「な、なんですか、あなたは!?」
和室になっている部屋の真ん中にこたつがあって、部屋着のおじさんがカップ麺を啜っていた。
「あんたらこの家買うんか?」
冷静に質問を返されて困惑していると、案内してくれた人がやってきたから、僕はその人に質問をする。
「あ、あのなぜかおじさんがラーメン食べてるんですけど!」
「ああ、柿野課長ですね」
「課長って……。あなたのところの社員の方ですか?」
「モデルハウスなんで、よりリアルにしておいた方が良いかと思って」
そういうことか、と一応納得はした。より本格的に住んでいる様子を想像できるように、実際に従業員が住んでいる演技をしてくれているということらしい。
「それにしても、わざわざ食事をしているところまで実演してみなくても……」
部屋もちょっと散らかっているし、まるで本当に住んでいるみたいだ。乾いた笑いを浮かべている僕に対して、案内人は至って真面目な口調で返答する。
「そうしておかないと、家を購入して実際に柿野課長と同棲するときにびっくりすると思いますので」
「ん?」
困惑気に案内人の方に視線を向ける僕と妻の後ろから、ラーメンを啜る音が聞こえていた。
モデルハウスのリアルな内見 西園寺 亜裕太 @ayuta-saionji
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