第2話
俺が行くしかねえじゃねえか――
テレビに出ようがネットニュースになろうが親に文句を言われようがもうかまってられるか。目の前で老いぼれた爺さんがぐちゃぐちゃになって死ぬよりかはマシだ。もし死んでしまったらこの背徳感を楽しめないばかりか、自分が行動に移さなかった後悔を一生抱いて生きていきそうになる。そんなのは嫌だ。
ドアを押し開けたとき、手首を掴まれた。力が有り余ったのか手首がグリンと回転して声が出た。振り返ると店員が冷たい目線を俺に向けていた。
「あのおじいさんを助けようとしてるっすよね?」
店員はこんなに低い声だったか。それに店員としてのセリフ以外の言葉が新鮮だったため、返事ができなかった。
「あのおじいさんを助けようとしてるっすよね」
俺はもう一度じいさんの方に目を向けた。車はもうすでにじいさんのいたところを通り過ぎていて、じいさんが道路を渡り切っていた。あの歩き方では確実に事故になるはずなのに、なんで?。
「あのおじいさんを助けようとしてましたよね?」
「……はい」
「止めといた方がいいですよ」
店員の力は弱まり、手首は解放され、だらりと腕が揺れた。
「あのおじいさん、死んでるんで」
じいさんはまた道路を横断していた。今度は反対側から車が来ており、俺はもうだめだと思った。しかし車はじいさんをすり抜けて速度を緩めることなく走り去っていった。
「どういうこと?」
店員の言葉を思い出した。死んでるんで。
「たぶん、一人で死んだから寂しいんすよ。助けてくれる優しい人と一緒に成仏したいんでしょうね」
店員は独り言のように呟いたあと、レジに戻ってタバコの品出し作業を再開した。もう一度じいさんの方を見ると、そこには誰もいなかった。
コンビニを出るのが怖くなってすっかり膝が疲弊したが、店内をうろつき続けた。店員は何もしゃべりかけてこなかった。
徘徊じいさん 佐々井 サイジ @sasaisaiji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます