(タイムリミット)60話

 場所:生徒会室。

 時:昼休みか放課後の麗らかな日差し

 なぜ:説明を求める

 どうやって:恥ずかしくもやかましい声での名指し。しかたがない、主人公はそういういきものだから美少女に指示されたまま受け入れるべし

 だれが:生徒会生徒会長、大鳳禰虎(おおとり ねこ)←特に伏線のあるタイプの命名ではない、しかし、十分に作者の思想が反映されている。


「ここに11個のマカロンがある」


 日の差し込む窓を背に完全無欠の生徒会長が言うことには。


「軌億(きおく)くん←そう、主人公は鬨渡記憶(ときど きおく)名前に伏線を張らないタイプの思想たっぷりなネーミング→きみのまえには色とりどりのマカロンが11個もある。それに比べて私たちの前には面白みのないマカロンがたった一つ。これはどう考えても平等とは言えない。そこのところはわかってるよね?」


 べつに脅しとか、泣き落としとか姑息なイメージを与えない平板な声。とはいえ、『美少女』とライトノベルにありがちな枕詞に違うことなく十分に見栄えのいい禰虎の声は異性を問わず、脳を直接愛撫されたかのような心地のいいアルファ波を発する。

つまり美声。

歌は好まないが、落語はとことん。

聞く者を虜に従える天賦の才を有した禰虎だからこそ発揮されるカリスマは学園始まって以来の異端として崇められている。

魔女のように。聖女の如く。救世主とはかく語りき。


「11人を平等に愛することですか? わかってますよ。俺はいたって冷静に十一個のマカロンを均等に、あるいは同時期にまとめて召し上がってみせますよ」


「馬鹿馬鹿しい。そのためには私たちは11人で一個のマカロンを頂かなくてはならない。それは……あまり、現実的な現象とはといえない。異常事態だ。だれだよ? きみに『11人を平等に愛す』ることを認めたのは? 神か? 因果律か? 仮にも愛されるのであるならば唯一絶対でありたいのは当然でしょ?」


「禰虎先輩はどんな状況でもそのカリスマを以てして、もとい、美を以てして学園の頂点に君臨しているお方。いわば殿上人だ。ただまあ、料理だけが下手くそな画竜点睛を欠くところに胸をくすぐるいじらしさを感じる、まあ、誰にでも美点と汚点は存在する。つまり俺が言いたいのは、必ず11人を平等に愛する美点と、それは不可能だろうと思う彼女たちの汚点を一身背負って尚且つ全員に平等を約束すること!」


「いやいやいや、意気込むのはいいけどその条件がすでに私たち具象化した社会ではありえないわけで。ほーりつとか、りんりとか、そもそも記憶くんにそれは可能なのかな? ひとりは二十四時間しか持てないのだよ。これを十一で割る……実に中途半端な数字だし、その時間内でだけ愛されることに不満も感じる。なにより、きみを独り占めできない欲求はどう解消されるべきなの?」


 ふんむ。鬨渡記憶は思案する。なぜなら、こんなとき真っ直ぐな気持ちをそのまま放てば火に油を注ぐ、そんな未来が見えているから、と作者は語る。


 答えはとりあえず←この場の答えとはテーゼだな。→大鳳禰虎の容姿を表現することは重要だと思う。なぜなら、それを引き金にして人はそのキャラクタに注目するわけで、というか。ライトノベルではそこのところはっきりしてないと絵師が困惑するだろう。しかし、あえてこの場で大鳳禰虎の容姿を詳述することは控える。なぜならば、プロットなしの行き当たりばったりはエラーを起こしやすいから。

 だから、彼女は可憐で清楚とした正統派生徒会長で、すこしだけ、スカートの長さを調節している。とだけ明記しておく。

 パンツを見られる。耐え難い嫌悪を抱く事柄にしろ、記憶の前に現れるときはほんの少しだスカートの裾を上げているという、矛盾しているようで乙女的。見られて恥ずかしいし見るなの象徴たる女子高生まっただなかにおいて、仮に見られたら見られたで妄想が捗る……大鳳禰虎はむっつりスケベだ。

 この事実に大概気が付いている記憶は敢えて、そこを見ないという選択をとっているわけだけど。ある程度の評価点をこの時点で獲得している彼はやっぱり間違いなく勝ち組で主人公たる由縁を間断なく発揮する。

 

 と、ここまで記述して気が付く。


 もてる人間の真理たるや。


さておき、


「先輩は、物を時間で測るタイプの人間ですか? その美貌はだれよりも人を魅了し、だれよりも尊敬される禰虎先輩はそんな軟弱な精神で俺と向かい合っているのですか? 時間の問題じゃない。質こそがお互いの愛情を受け与える理想の環境。理屈とか命題の問題で11人を平等に愛するというなら、おれは必ずその解を紐解いてみせます。なにより先輩のことが好きですから」


「くっ、ころせ。そういうところがきみの美点であって汚点なんだ。すっぱり諦めさせてくれるなら尚よし。さりとて、きみは諦めてはくれない。くやしい。それが率直な感想だけど、」


 陰った表情に光の加減で美しい陰影が刻まれる。刻んでしまうというのは比喩で。その美に対する報酬はすべて鬨渡記憶にだけ与えられるギフト。


 特殊状況に置かれた彼らの話ははじまったばかりだが、その制限は人の時間に換算すれば微々たるもの。さて、この先どのような展開で11人ルールを攻略するか。ぶっちゃけこの瞬間の記憶にそれは見えていない。

 目から零れ落ちそうな美貌がはにかんで好きと呟く女性を前にして理性を制御することは不可能なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

きみたちはどういきるか? 梅星 如雨露 @kyo-ka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ