第35話 マスターとの討論
食堂へ戻ると、マスターは先ほど散らかった食べ物などを全て綺麗にし終っていました。
マスターが淹れてくれたハーブティーを受け取ってマスターと向かい合って座ります。
「マスター、私を利用しましたね?」
「どうしてそう思うの?」
興味深そうにそして面白そうに私をマスターが見つめてきめす。
「あの後の一連の流れが余りにもできすぎてます。
依頼書に失敗と書いてもらった後の脈絡のない案内といい、
私が最初に口論を始めて人が集まったら会話の主導権を奪って自分の思うように誘導していました。
これで気付かないのが不自然だと思いますが?」
「それだけだと偶然とも言えない?」
「他にも色々ありますが…、私が聞きたいのは何時から絵を描いていたのですか?」
「質問に質問で返すのはあれだけど、何時からだと思ってるの?」
「私の考えが正しいか分かりませんが、最初はあの村長に出会って私に対して礼儀を欠いた態度がきっかけだったと思っています。
夜私が寝入ってから調べたところで大筋は決めてたのではないですか?
普段の戦闘と今日のオーガハイとの戦闘では安全マージンの取り方が全然違いました。
私の感覚的にですが、マスターは私が失敗しても極力怪我などをしないよう気を使ってくれていると感じてます。ですがあの戦闘では、私自身攻撃を避けるのが精一杯で大怪我をする可能性が高かったです。
でもそれを決行したってことは、あの村でしたいことがあったからだと思うのが自然な流れではないですか?」
マスターは自分が関わることに関して相手がどういう態度でもどうでもいい、無関心な様子です。
ただ私が絡むと激しい怒りを見せることがあります。
パーティの表の顔は私がするので小娘と侮られる面があるのは仕方ない部分があると思っていますが、私が求められている
だから今回もそう言う点面で侮られたので苛烈に物事を進めたのだと思います。
「なるほど。サーニャはそう思う訳だ。聡明で助かるよ。」
「…だからこそ私の怒りまでも利用しようとした事には憤っています。
事前に、せめて村に帰る時に教えてくれてもよかったのでは?」
「事前に放しても良かったけど、それだとサーニャはは本気で怒ったりしなかっただろ?
真剣な大声での言い合いがあって舞台装置が完成する算段だったからね。」
マスターに言われて一瞬うっっと言葉に詰まります。
確かに事前に言われていて、役割を演じようとしても上手にできないかもしれません。
失敗する確率を減らしておきたかったのだとしたら理由として納得せざるを得ません。
だけど私だって舞台役者の様に演じることができるかもしれないのに…と不満を感じます。
「はぁ…。仕方なくはありませんが納得はしました。
そして言い合っても負けそうなので次の話題に移りましょう。」
私は少し目を瞑り今までの感情を抑え込んで気持ちを切り替えながら話題も変えます。
この辺りの感情を別に切り分けられるのは本当に教育された成果だと思います。
ふと思ったのがマスターに対して感情的な言葉をぶつけた事がないですし、喚いたこともないです。怒ってる事も理知的に伝える様に心がけています
もしかして喚くような人間だったら扱いが変わっていたのかもしれないと思いましたが思考を切り替えます。
「マスターはあのミルコリス?という少女をどうするつもりですか?」
マスターが不思議そうに顔を傾け私を見ます。
「ん?普通に街まで連れて行ってイダンの州政府の役所で手続きをしてから養護施設の孤児院に放り込んで終わりでいいんじゃない?」
「やっぱり思っていた通りです。」
「でも実際出来る事って少なくないよ。あの村の不正を暴くきっかけになったから有利になるよう口添えが出来る程度で。
それが不満だと言われても。
何か別に考えていることがあるの?」
「…あの娘が了承したらですけど、パーティに入れたらどうかと。」
「ほぅ。」っと言ってマスターが目を細めます。
「メリットが無い、あれだけ衰弱してるなら普通の状態に戻るのも時間がかかるし。」
「前にマスターはパーティメンバーは自分が入れたいと思った人を入れればいいと言いました。
なら私が決めていいのでは?」
「なんでパーティに入れようと思ったの?可哀そうだから同情でもしたの?」
ここからは引き締めてマスターと舌戦しなくてはなりません。
「確かにそれはあります。」
「可哀そうってだけでパーティに入れるのは感心しない。
探せばどこにでも可哀そうな人はいる。もっと酷い目にあってる人だっているだろう。
そういう人を見かけたら誰も彼もパーティに入れるの?」
「全員を入れれると思っていませんし、そのつもりはありません。」
「じゃあ別にあの娘じゃなくてもいいんじゃない?
見た感じ言葉も交わしていなかったし、どういう性格かも分からないでしょ?
可哀そうな人が良いならもっと悲惨な状況にある人でもいいんじゃない?」
「いいえ、そういうのじゃないんです。
私も言葉は交わしていませんが、あの娘をパーティに入れようと思ったのは目を見たからです。」
「目?たしか右が後で左が赤のオッドアイだったと思うけど、ただ単に珍しかったから?」
「違います。あの娘はお風呂の中でも泣いていました。
だけど目に何の感情も宿ってないような虚ろな目をしていたんです。」
「虚ろな目だと心が病んでる可能性もない?」
「マスターには分からないかもしれませんが、私はああいう目をしていた人を見ていたから知ってます。
私自身がそういう目をしていた事がありました。
これから先の未来に何の希望も描いてない人がする目です。
…私はマスターに助けて貰って、色々いい意味で感情を引っ搔き回されりしたのでだんだんと感情が戻りましたが…。」
ここまで言って一旦言葉を区切ります。
出来るだけ思い出さない様にしている記憶を思い出しながら語ります。
「マスターに買われる前、ずっと奴隷商人の元を転々としている時に感じていた感情と一緒です。
毎日夜になると悲しくないのに涙が溢れてきて、”次の日に街に着く”と聞くと身が強張って、ここで売られるかもしれない。どうなるのか分からない。
そんな不安が胸の奥からずっと湧いてくるんです。
逃げようがない現実に絶望を感じ、出来たら死んでしまいたい。
そう感じていた時に水鏡で見た自分の目と同じものを、あの娘に感じました。
生を諦めた人だけがする目そっくりです。」
「自分と同じものを感じたからパーティに入れたいの?」
「私がマスターに合って楽しいと感じたり、美味しいと笑ったり、怒ったりできるようになったんです。あの時よりもずっと今の方が幸せです。
だったらそれを他の人にも知って欲しいと思うのは我儘ですか?」
「我儘かどうかは判断つかないけれど。
サーニャも理解して言ってると思うが人ひとりを育てるのにはお金も手間もかかるよ?
それに今日の食事の仕方を見ても分かるけど礼儀作法もなってない人を側に置くのは苦痛にならない?」
「私自身そうして貰ったように育てて貰うのにお金がかかるのも理解しています。
ただ今日村での話を聞いてて思いましたが、あの娘は両親が要る時には家の中で手伝いをしていて、その後は監禁されるように地下室にいました。
マスターはあの娘のレベルというものが見えてると思いますけど、最初の頃の私と同じように低いのではないですか?
礼儀作法もマスターの思う必須スキルを揃えてから、スキルレベルを高くして貰って私が教えれば同じように振る舞う事は出来ると思います。」
ここが彼女をパーティメンバーとして加えれると思った
私もマスターに出会ったときにレベルが低く余計なスキルを覚えてないから買ったと言われました。
普通の獣人の子なら魔獣などを小さい頃から狩ってるのが普通です。
ただ日の光が苦手で家の中で手伝いをしていたと言っていたのでレベルが低いと思います。
だったらマスターが好きに育てることが出来るのではないかと思ったのです。
「確かにレベルは1だったよ?だけど日光に対して弱いという
「そんなのはマスターがどうとでも出来ますよね?」
私は不思議に思ってマスターに尋ねます。
よく分からない内に知らないスキルを持たされていたので、出来るものだという意識が私にはあります。
「確かに出来るけど。
その前に色々と課題があるでしょ?」
「課題って…?
マスターの夜伽をするとか呪紋を刻むとか呼び方とか、そういうのですよね?
それは前提条件として納得して貰います。
というかそれが納得できない人は入れる予定はありません。
そういう約束だったと思います。」
話をしてこの条件が受け入れられない人を入れるつもりはありません。
そこはきっちりと言って線引きしておくところだと思ってます。
「それを本人に話して了承して貰うの?
後から違うとか言われない?
ずっと閉じ込められてたからかなり世間知らずだと思うよ?」
「丁寧にできるだけ簡単に説明して理解して貰います。
その後に違うとか言ったら私がきちんと教育します。」
そこはしっかりと教え込んでいかないとマスターが納得しないと思います。
「ん~。
サーニャがしっかりとした考えを持った上で決めたならいいよ。
感情だけじゃないと分かったし、色々考えてるのも分かったからね。
反対意見ばかり出してたように思うかもしれないけど態とでディベートという手法でね。
反対と賛成に分かれて議論するときに使うんだ。」
という事は私を試すために態と反対意見や欠点となるところを挙げていたという事ですか。
そういう議論というか手法があるのは知らなかったので覚えておきます。
「マスターから理解が得られたので嬉しいです。
それにマスターも夜伽をする人数が増えると嬉しいですよね?」
私は満面の笑みを浮かべながら言います。
「いや、別に全然嬉しくないよ?
普通貴族で正室と側室の確執とか裕福な人の妾争いとか聞いたりするし。
他の人が増えるのは嫌じゃないの?
違うの???」
マスターが心底驚いた様子で私に聞いてきます。
「私の場合嫌じゃないですよ。」
「…まぁそうか。甘々の恋人とかじゃないしね。」
ちょっとしょぼーんとした様子でマスターが言いました。
「多分マスターが思ってるのとは違いますよ。
私は逆に人数が増えて欲しいと思ってましたし。」
「ん?ん?」と怪訝そうな声を上げてマスターが見てきます。
「だって休みの前の日とか何度も求めてきますよね。
人数が増えたら負担が減るから増えて欲しいと思ってました。」
「という事は嫌だったということ…?」
「嫌というより、マスターって自分の容姿はカスタム?で自分で決めたって言ってましたよね?」
「うむ、この不細工な容姿は後悔はしてないけど、SPを確保するのに都合がよかったからな。」
「…マスターの
「もちろんよ。SPが極小と極大の時に増えるから全部の項目を極大にしたんだ。」
なんでこういう所が変というか常識から外れているんでしょう。
危ないところで止まれない馬車の様な印象です。
「マスターの
体に太い杭を入れられてるのと同じですよ?
負担に思うのは当然じゃないですか!」
「オーマイゴッシュ」と聞いたことのない言葉を言ってます。いつもの方言でしょうか。
「もしかして昔娼館に無理やり連れていかれた時、ズボンの上から女の子に触られて絶対無理って言われて全員逃げて行ったのって…。」
「多分ですけどマスターの
「容姿のせいだと思ってたのに…。新たな事実に心が痛い。
話ももう終わりだろうし、お風呂入ってくる。」
肩を落としながらトボトボと歩いていってしまいました。
話し合いは終わっていたので問題はありませんし。
ただ容姿のせいもあると思うのは黙っておきます。
寝るまでの間に明日はどうやって説得するかを考えますか。
転生者に買われました。 ー私の日常、日々是苦労ー 温羅一 @ura-
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