第34話 白髪の獣人少女と村長の吊し上げ[後]
村人もこれだけ騒いでいたので来ていなかった人も誰かが呼んで大人は全員がいるみたいです。
「村長一家が罪人という事になれば尋問も行えますし。
イダン共和国の法律に則ってきちんと税の多く取られたものを取り返す方法も教えることが出来ますよ。」
答えを誘導するかのような発言をマスターがしています。
この辺りも想定していたのだとしたら何時計画を考えていたのでしょうか。
昨日晩に調べるとか言っていたので夜中にこっそりと調べ上げていたのかもしれません。
村人の中から「証拠があるなら罪人とし扱っていいじゃないか?」「でも後で違ったら…。」「尋問で不正を喋らせたらいいだろ。」と声がしてきます。
大工の人が
「とりあえず、村の倉庫から手
違っていたら俺が後で責任をとる。」
と言って数人がこの場から走って枷を持ってきました。
押さえられていた村長達は逃げ出そうと
そして嫌がられながら手枷と足枷をはめられます。
そうするとマスターがバッグから
村長を引っ張って金床の上に両手を置きました。
私はこれから起こることの予想が付きました、尋問ではなく拷問のような気がします。そっと目を逸らしておきます。
「正直に答えて欲しいけど、何時から不正をしていた?」
「不正はしていない。出鱈目を…。」
答えを聞く前に左手親指に木槌を振り下ろし鈍い音がします。
「もう一度。何時からですか?」
「…し、しらな…。」
もう一度振り下ろされます。
「手だけで10本の指があるし、ポーションも回復魔法もあるから黙秘でも虚言を言うのも好きなだけして。」
そうして聞き出した内容は20年以上前に自分の畑だけ小麦が病気にやられ、納税を誤魔化すために先代が少しづつ自分の税を納める分を村全体から多く徴収したという事でした。
そこからは次の年も村人に気付かれない様に多めに徴収するという嘘に噓を重ね、気が付くともう引き返せない状態になっていて、それを村人に知られない様にするために文字や計算の習得を禁止させ、外部とのやり取りを村長一家のみにするという事を行っていたと語りました。
当然税を納めてないので自分の畑で余った分を売り農奴を買って開墾をして収入を増やしていった手口も自白させられていました。
ここ10年程は商人や役人に村で唯一金勘定などができると持ち上げられ気が大きく尊大になっていたとも語っていました。
話を聞いていた村人たちは怒り心頭に発している様子で「ふざけるな」という声と共に村長に投石を始めました。
「皆さん待ってください、ここで村長を殺したりすると問題になりますから。
さっきの証言を役人の前でもう一度させて、罪を自白させないと損を取り戻せませんよ。」
マスターがそう言うと投石が収まります。
「イダンの法律では10年間は騙されたりした場合の損について回収することができると定められています。
なので州政府に2重帳簿と一緒に村長達を引き渡して、損をした分を支払って貰うことが出来ます。」
村人が「それでも全員分の金はないだろ、俺たち損をしたままじゃないか。」と言う声がちらほらと聞こえました。
「本人から回収できない場合は差し押さえという手段を取ることが出来ます。
つまり村長が持っている土地を取り上げてしまう事が可能です。
それを損の額が多い人から切り分けていくのか、村共有の財産として運用するのかは好きにできますし。
農奴についても村共有の財産とすることが可能です。
そして村長と奥さんについては自分を奴隷として売ったお金を村全体に渡して貰う形にして、
子供については成人まで村全体で養育し、成人後奴隷商に売り払って家族の負債を払わせたらいいと思いますよ?」
まるで思考誘導をするかのように提案をしていきます。
「あと我々の受けたクエストですが、他の方から
”どうも村長が討伐依頼費を着服して、内容が食い違ったクエストで依頼していたようだ。”
と書いて貰えば、冒険者ギルドと州政府が内容を調べて取り調べもしっかりとしますし、
村は関係がなくなり村長個人の虚偽報告となりますよ。
まあ今後注意するようにくらいのお叱りは受けるでしょうが。」
ここまで言うと村人達は全員「そうしよう」「それでいいじゃないか」「俺は賛成だ。」と声が大きくなってきます。
その様子を見ていた大工の人が「後で俺が言われた文章を書くから、それで頼む」と言っていました。
話はこれで終わりかなと思って、私の隣にいる女の子の話をしようと思っているとまだマスターが話を続けます。
「これで大方は問題が片付くでしょう…
さて、これからあの少女の話をしようか。
誰かあの少女を知ってます?」
痛みの為か顔を下に向けていた村長の顎を持って自分に向けさせています。
そうして周りを見回しながら聞いていると。
「…この村で獣人の子供って言ったらケヴィンとこのミルコリスだと思う。白髪だし間違いないと思うけど。」
と1人の村人が言います。
「ケヴィン方はどうしたのですか?」
「今から5年…、いや6年前かな。奥さんと一緒に魔獣に食い殺されたって村長がいってた。
ただ葬儀の時も死体がないままだったし、皆で変だなと首を捻ってた覚えがあって…。
娘のミルコリスも、村長が家で預かって育ててるって言ってたけど家の中で過ごしてるとか体が弱いから外に出られないってずっと姿も見てなかった。
元々あまり日に強くないってケヴィンも言ってたから家の中で手伝いとかをしてたんで、なんとか納得はしてたんだ。」
マスターは聞いてから「なるほど」っと一言だけ言い、村長に「真相は?」と木槌を振り上げて聞き始めました。
さっきの拷問もあるからか村長がすらすらと囀る様に放します。
もう観念したのか諦めの表情の様にも見えます。
6年前に獣人の夫婦であったケヴィンの奥さんの具合が知りたかったと関係を迫って、拒否されたのでカッとなってナイフで刺し殺してしまった。
このままだとケヴィンに問い詰められると思って穴を掘って落とし、毒矢で傷をつけ上から土を被せて殺した。
これには自分の奥さんも協力させたと言い。
娘は村で養育しないといけなかったが、白髪で目の色が違うから不幸を呼ぶ存在だと思って監禁していた。
殺すと葬儀をださないといけないから殺せなかった。
去年成人したので奴隷商に売ろうとしたけど体が貧相過ぎて売れなかった。
仕方ないので3日1回だった食事を1日1回に増やしてやって今年売るつもりだった。
よくもここまで自分勝手な言い分をしてると私は憤りを隠せません。
ミルコリスという少女の肩をだいていましたが小さく震えています。
怯えか怒りなのかは分かりません。
この娘を引き取って街までは連れて行こうと決心しました。
それを察したかのようにマスターが交渉を始めます。
「ではこのミルコリスという少女は一旦私達で保護して、街の役所へ連れていきますね。
その時に村に役人を派遣して貰えるように言っておきます。」
問答無用で打ち切るような大声で一方的に打ち切る様に会話を締めくくります。
そうして村長にハイポーションを飲ませて骨折と怪我を無理やり直して、大工の人に全員地下牢へそのまま放り込んでおくように言っています。
罪人として村長夫妻を閉じ込めるための扉の鍵もバッグから取り出して渡しました。
「何でこんなに親切にしてくれるんだ?」
と大工の人が聞いてきたことに対して。
「冒険者は普段切った張ったの世界で生きてるから舐められたらやり返せってのを教えられるから、冒険者を舐めたあいつ等は骨の髄まで分からせてやらないとダメだろ?」
「それがこんな結果でも…か?」
「寧ろこの程度ですませたんだ。あのミコルリスだっけ?、あの少女の件まで含めて村全体にやり返して欲しかったか?」
大工の人的には思う所があったのでしょうが、何かを言いかけて口を
ただ一言だけ。
「冒険者には舐めた口を利かない様に言っておく。」
と言ってました。
「家の中で説明した通りあの場所に全部の裏帳簿があるはずだから、取られない様に保管しておいた方が良い。
村人の中にも村長についてて甘い汁を吸ってた奴は帳簿を見れば分かるだろ。
それは俺たちの仕事じゃないから精々頑張れ。」
そう言ってマスターはもう何も村には関心が無い様にこちらに来て行こうかと言います。
結構な時間茶番劇をしていたのでもう5の鐘が近くなってきています。
「まだ回復してないようですけど出発するんですか?」
「出来るだけ早めに村から離れた方が良い。ここに居るだけ無駄だ。」
「私がこの
私は声を掛けてから少女を背負って歩き始めます。髪の毛が全体的に長く前髪で目が見えませんが、助けた時と同様に虚ろな可能性もあります。
あの惨状を思い出すと怒りが湧いてくるので歩みも早くなりますし、臭いも気になりません。
村人全員に対する怒りというのが時間と共に大きくなってきたので、マスターに言われた通り早く村を後にして正解だったかもしれません。
そこから日が落ちるギリギリまで歩き街道から少し外れて野営できそうな場所でテントを出して貰います。
テントに入ってすぐ私はマスターに対して、
「先にお風呂で洗ってきますので、ご飯をお願いします。
あっ、あと寝台も用意してくれてると嬉しいです。」
と言ってお風呂へ連れて行き。湯船にお湯を溜め始めます。
脱衣所で手早く服を脱がせて纏めて置いておきます。
私自身も装備品を含めて脱いで中に連れて入りお風呂椅子に座らせます。
マジマジと体を見るとあばらが浮き出ていて、手足も細い状態です。
痣などはないようですが、これはエクスヒールをしたからかもしれません。
人肌のお湯を全体にかけてから体を洗っていきますが、石鹸が全然泡立ちません。
全体を6回ほど石鹸を付けたタオルで洗って濯いでやっと泡立つ様になりました。
その間少女は微動だにせずずっとされるがままでした。生きているのだけは胸が動いていたので確認できましたが。
身体が終ると頭の洗髪をしましたが、こっちも4回目にやっと泡立つくらい汚れていました。
全て洗い終える間にお湯が溜まっていたので、髪をタオルで包んで巻いて落ちない様にしてお湯に浸かって貰います。
その間に自分の体と頭を手早く洗い、私もお湯に浸かります。
お湯の温度は少し温いくらいにしているので私は普段長い時間入っていますが今日は湯疲れをさせないように気を付けていました。
少し時間が経つとやっと人心地がついたのか、体が少し震えてハラハラと涙を流して水面に落ちていきます。
ただ相変わらず目は焦点が定まっていない様に感じました。
十分体が温まったと思ったのでお湯からあがり体を拭き、頭を乾かして私の下着と服を渡して着て貰います。
私よりも背が高いので服の裾が短く感じますが、仕方ありません。
序に長く伸びている爪も切っておきます。
そうして食堂に連れて行き椅子に座らせます。
今日はパン粥だけにしているみたいです。
大き目の深皿にたっぷりパン粥をよそって全員の前に置きます。
普段は2人だけなので向かい合う様に座りますが今日はマスターと並んで座って対面にミルコリス(?)さんを座らせます。
私は食べてもいいと伝えてから、いつもの様にお祈りの後に食事を食べ始めます。
一見すると貧相ですが、食べてみると溶き卵とすり下ろした数種類の野菜の味わいがあります。
マスターが消化に良い様に気を使ってくれた事を感じました。
ミルコリス(?)さんも鼻をひくひくさせておずおずと手を深皿に浸けて温度を測っている様でした。
そうして大丈夫だと思うと手を深皿に突っ込んで口に運んで食べ始めました。
それが手で掬いながらガッツいて食べ始めてたので、流石に私もびっくりしました。
私自身は幼少からカトラリーを使った食事マナーを学んでいましたし、普段一緒にご飯を食べているマスターも食べるときのマナーは問題なかったので失念していました。
今までの記憶を辿ってもこんな感じに食べるという人を見たことがありません。
私があっけに取られている間に食べ終わったのかお皿を舐め回しています。
私がおかわりが要るか聞くと頷いてお皿をだして来たので最初と同じくらい注ぎます。
また同じようにして食い散らかす感じで食べました。
再度おかわりが要るか聞くと首を振ったので、テントの普段は作業部屋として使っている部屋に連れていきます。
普段置いてあるものが何もなくなっていてベッドと机とランプとおまるだけ部屋に置いてあります。
ゆっくり今日一晩休んでくれればいいと伝えて、ベッドに寝ころばせて念のためタオルを渡してランプを灯したまま部屋を出ます。
真っ暗な部屋だと恐怖がぶり返すかもしれないと思ったからです。
タオルも1人でいると感情が不安定になって涙が溢れてくると考えて渡しました、お風呂の中でも実際泣いていましたし。
さてここから腹黒マスターと対談です。
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