第33話 白髪の獣人少女と村長の吊し上げ[前]
腕を組んでムスッとした感じのマスターと一緒に村へ帰ってくると3の鐘を少し回った所でした。
取り急ぎ村長の家に行き依頼の件を話をします。
結果はオーガの証明部位まで見せて説明したのですが依頼不達成、つまり依頼失敗という事になりました。
それを証明として村長に依頼書の裏に書いてもらいます。
けんもほろろな態度が逆に清々しい感じです。
村長の家から出るとマスターが突然
「昨日全員来てなさそうだって言ってたのを気にしていたでしょ?」
と尋ねてきました。
気になっていましたが急すぎません?と思いながらも「はい。」と答えます。
「いるのが村長の納屋の地下って言う中々面白い場所なんで見てみるといい。」
そう言いながら2つある納屋の小さい方へ入っていきます。
そうして納屋の中にある石畳の部分の鍵付きで両開きの扉の前で立ち止まって此方を向いて問いかけてきました。
「多分見たくないようなものを見ることになるけど覚悟はいいね?」
「大丈夫です。」
そう答えます。
さっき地下という言葉とマスターの面白いというのが良い意味ではないのは分かっていました。
マスターがしゃがんで鍵をノミで叩き切って壊してから扉を開けます。
私は先ほど洞窟で使っていた松明をポーチから取り出して階段を下りていきます。
松明で足元を照らしながら降りて行くと階段の端には苔のようなものが生えていて、ここが昔からある事が伺えます。
下まで降りるとすえた様な臭いがしてきました。
2部屋牢屋のように鉄格子がはまっている扉があり、奥側の扉だけ鍵が付けてあります。
ここも同じようにマスターが叩き切って扉を開けました。
マスターが中に入って声を掛けています。私も中を見ましたが排泄物を入れる桶とお盆とスープ皿以外に物がありませでした。松明の明かりが無ければ暗闇の状態です。
薄手の毛布で包んだ1人の女性をマスターが運び出しています。
体つきから女性と思いましたが、部屋の外で確認して間違いない様です。
取り合えず私は女性にエクスヒールを掛けます。
ですが食事を取っていない状態だと回復しても衰弱していきます。
女性は見える部分さえガリガリの手足です。
なのでポーチの中からフルーツ入りのクッキーを取り出すとマスターから待ったがかかりました。
「これだけ弱っているってことは胃腸に優しい飲み物の方がいい。」
そう言って、コップにお湯と花蜜、そしてミルクを入れた飲み物を作って渡してくれます。私が先に一口飲んで味を確認すると甘くて人肌より少し温いくらいです。
頭を覆っていた毛布を取って飲みやすい様に体を斜めにします。
そうすると見た目が若い女性だという事がわかりました。
「飲める?」と言って女の子の両手にコップを握らせて口元に持っていきます。
ゆっくり
白髪で私の耳の部分に三角の毛が見えます、彼女は人族ではなく獣人族ですね。
強靭な体を持つ獣人族は多少食料事情が悪くても弱る事などないのですが、ここまで痩せているという事は人族なら死んでいるという環境だった…そう考えられます。
松明の明かりを眩しそうに眼を細めていますが、目も右目が青色で左目が赤色という珍しい目の色をしています、しかし目は虚ろな感じで何処を見ているのか分かりません。
こうやって村長の家で生かされていたという事は、罪人ではなく監禁していたと考えられます。
肌の感じからもう何年も汚れを拭いていない様子が伺えます。
罪人であればこんなに長くこの場所に置きませんし、街に連れて行くでしょうから。
普通に村に住んでいて親兄弟がいない孤児となった者も街へ連れていけば神殿の運営している孤児院に無料で引き取って貰えるはずです。
村で養育するとしてもこんな扱いは普通はしないと私は習っています。
国毎に違いがあるといってもそこまで差があるとは思えません。
そう考えると私は怒りが込み上げてきたのを感じました。
女の子が飲み物を全て飲んだのを確認してから、私は両肩を支えながら歩いて地上へ向かいます。
猫背のように体が少し丸まっていますが私よりも背が高いです。
納屋から出ると村長と村長の農奴4人が入り口を取り囲むようにいました。
農奴はピッチフォークをこちらに向けて構えています。
「お前らは冒険者じゃなく、盗人だったのか!人の家の納屋に勝手に入り込んで何をやってるんだ!」
村長が口火を切ります。
「この様に女の子を監禁しておくことが正常だとは思えません。ここまで弱っている感じからかなり長い年月閉じ込めていたようですね。」
私が感情に任せて大声で反論します。
「人の村の事に口を出すな小娘!それは事情があるから閉じ込めていたんだ。」
「事情を言ってみればいいではないですか!罪人なら然るべき所へ引き渡すのが道理でしょう。」
「村の都合だと言っている!とやかく言わずにさっさと渡せ!」
「その村の都合を聞いているのです。どういう理由が彼女があの場所に閉じ込められていたのですか?」
「よそ者の冒険者などに話す必要がない!お前らあいつ等を刺し殺しせ!」
そう周りの農奴に言っていますが、農奴はへっぴり腰であまり積極的ではありません。
私は少し凄んだような声で、
「人が聞いている事に答えずに此方を攻撃してくるなら容赦はしません。」
そう言い切ります。
そこからは少し堂々巡りの会話を続けていると村民が少しづつ集まってきました。
大声で話をしているのでかなり遠くまで声が届いていたのでしょう。
30人近い人数が集まってから急にマスターが私の肩を軽く叩く様にして
「まぁまぁ、そこまで熱くならないで。
確かに村の事に一回の冒険者である我々が口を出すのは間違っています。
村には村の
そう村長に向かって言いました。
「分かればいいんだ。じゃぁその娘を渡してさっさと村から去れ。」
「正当な理由な「村の事なんで、引き渡してもいいですが、冒険者には冒険者の
私がカッとなって言った言葉にかぶせる様にマスターが村人全員に対しての様に喋り始めます。
「この村にはゴブリンキングを含むゴブリン集団の討伐で訪れていました。しかしながら実際に向かってみるとオーガが闊歩している状況でした。
偶々運良く討伐を終えることができましたが、危険度や依頼報酬がゴブリンとオーガでは全く違います。
個人的にはっきり言って村ぐるみ虚偽の依頼を出していたと考えていますからね。
冒険者ギルドへの報告は正式な抗議と一緒に、討伐部位も提出するつもりです。
報奨金の増額はイダンの州政府がしてくれるので私達は問題ありませんが、
村としては虚偽報告をする村として
そうすると依頼を受けてもギルド職員が一度現地入りして状況を確かめて、それから正式なクエストの発行になります。
ひと月はクエスト発行までにかかる様になるんじゃないでしょうか?
ひと月あればあの洞窟とかに魔物が湧いたら村が襲われてもおかしくはないでしょうね。
まぁすべて村長が決定してたとしても村の総意になりますからね。」
村人達がざわざわと騒ぎ始めました。
マスターは芝居がかった身振りで大げさに言っています。
「不思議なんですが、なんでゴブリンの討伐依頼だったのか?
討伐依頼は何処の国でも治めている貴族や州政府が補助をかなり出してくれます。
毎年租税として収めている中に討伐費用が含まれているからですが。
さらに村でも毎年少額の費用を溜めているはずですよね?
もしかして村長はそのお金を着服しているのでは?だからオークやオーガの依頼がだせなかったと考えられませんか?」
まるで不正があるかの様に村民に向けて話をしています。
村長が顔を真っ赤にしながら叫びました。
「こいつら嘘っぱちを言いやがって、皆で捕まえて放り出せ!」
村長の側にいるのは奥さんでしょう、同意して同じように言っています。
それを無視してマスターは自分の言いたいことを言っています。
「この中で文字を読める方は?
計算が出来る方は?
1人もいないのであれば村長が誤魔化していても誰も分からないのでは?
普通この規模の村だと5,6人は文字が読め計算ができる人がいるのが当たり前ですよ?
商人と取引で騙されたりしたりしませんでした?」
そう早口でまくし立てます。
そうすると1人の背が高くガタイが良いひげ面の男が手を挙げて
「俺はこの村で木こりをしながら大工をしてるから文字も読めるし計算もできる。
まるで村長が不正をしてるかの様に言うんだな。
あんたが言う不正ってのがあるなら見せてくれよ。」
そう言いました。
「では丁度いいですね。村長の家で帳簿を家探ししましょう。
ああ、村長達が邪魔したり、帳簿を態と燃やしたりしたら困るので
ここで村長一家の監視を誰かにお願いできませんか?」
「村長、あんたの潔白を証明するためだ。確認してくる間大人しくしていてくれ。」
それを聞いても村長達がじりじりと無言で下がって行って、途中から家に向かって駆け出していきます。
それをマスターが先回りをして足払いで転ばせます。
「子供たちもグルか。行動を阻止しようとする時点で悪いことをしてますって自白してるもんなんだけどな~。」
「あの男が変な事をしないか監視している間、すまんが村長達を押さえておいてくれ。」
マスターは飄々として大工の人と村長の家に入っていきます。
私は今の間に女の子を座らせて、村長達が動き出したら容赦なく脚を折るつもりでメイスを構えます。
脚を折ったとしても後で直せば問題ありませんから殴ったとしても大丈夫です。
結構な時間を待って、村人の不安そうな声を聴いていると
青い顔をした大工の人とニコニコと帳簿の束を左右の手で2冊ずつ持ったマスターが現れました。
「とりあえず2冊ほど一番新しい帳簿を持ってきましたが、2重帳簿にしていましたね。先ほど確認した内容を教えてあげたらどうです?」
「…依頼の積み立ての着服は帳簿で確認できなかったが、収める税は胡麻化してるのは確認した…。
俺たちから多めに集め自分たちが収める分を少なくしていた…。
ここ10年の収めた税の記録全てで数字が違っていた。
村長あんた何時からしていた?」
「お前は騙されてるんだ、皆は私がずっと面倒見てたから信じるだろ?」
そう村長は言いますが、税を多く払わされてたを聞いて村人が苛立ちを募らせているようです。
更に確認をして言ってるのが同じ村の仲間というのが大きいと思います。
よそ者が言っても信用が足りないでしょうが、同じ村なら違います。
マスターが皆の注目を集める様に言葉を更に重ねていきます。
「今何時からという言葉がでましたが。
さっき言いましたがこの規模の村で読み書きができないのは珍しいと。
皆さんは文字を習うのを禁止されたことがなかったですか?」
「…たしか…20年程前だったか、先代の村長の時に読み書きは必要ないと言って、それまで雨の日とかにしていた文字遊びの日がなくなったな。
俺は仕事で使うから親父に習って読み書き計算は教えて貰ったが。」
大工の人は顎を撫でながら思い出す様に言います。
「だとすると、その頃から2重帳簿を始めていたのでは?
村人から「そういや村長の家が農奴を買って来て開墾して畑を大きくしていったのってここ20年くらいじゃないか?」「そうだとすると俺たちをずっと騙してたのか?」「そういや村長の家で高そうな首飾りを見たことがあるぞ。」
など段々声が大きくなっていきます。
ある程度声が大きくなり好き勝手に皆が話し始めてところでマスターががパンっと手を叩いて注目を集めます。
「冒険者である私達は村の事に口を出す権利がないので、どれだけ騙されて多く取られていたかは後で計算をしたらいい。
重要なのは村長一家は不正をした罪人であるか村民の皆が認めるか否かという部分です。」
マスターが笑顔で悪い顔をしています。
多分ここからが本題なのでしょう。
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