ワウモス区守備計画!

趣味程度。

第1話

メタペイル世界。ここは需要を重んじる、非道な世界線だ。

需要が無いキャラクターやモブは『処理』、つまり消滅させられる。

あたしが住んでいるワウモス区は、メタペイル世界一治安の悪い危険区域だ。訳ありの者たちが集う区域だから、そりゃあそうだろう。

そんな危険な場所で何故のうのうとカフェやってんのかって?

まーそこは想像にお任せする。

居候してるホワイトタイガーとヒトのハーフ、ユワ・キャロルにカフェの営業を手伝わせてるんだが、あいつも知らないだろう。

……ていうか、遅いな。あいつの所属している勢力のトップに呼びたざれたらしいが、いくらなんでも遅い。客は来ていないから良いんだけどな。


カランコロン……


ドアに括り付けたチャイムが鳴る。

入ってきたのはミシュリ、ユワが所属する「エルテ組合」の2番手だ。

くるっくるに巻いたツインテールが印象的、正直なところ結構面倒くさい客でもある。何故かって?


「やっほー!会いたかった?会いたかったよねそうだよねー!組合のトップアイドル、ミシュリちゃん来店〜!」


見りゃ分かるだろ?この様子が通常運転だからだ。心の底から会いたくなかったよ。


「はいはい分かったから。今日のオーダーは?それとも駄弁りにきただけか?あいにくユワは留守だが」


一応こいつも常連だからこれの対応も慣れているが。

するとミシュリはわざとらしくスカートを揺らし、くるっと一回転した。

そして1枚の手紙らしきものを突きつけてきた。


「はーい、これ!今日のミシュリちゃんは配達員!今日中に開けてねだって、差出人さんが言ってたよ!」


「受け取っておく、ありがとな」


「それじゃ、まったねー!ミシュリちゃんは他にもオファーがあるからね!」


なんだったんだ一体……一瞬で去っていった。


「手紙、か」


おもむろに封を開け、中身を読んでみる。


『22時908部屋に来い、手合わせしようじゃないか』


とだけ荒い文字で書かれていた。差出人の名前が書かれてない。悪戯か?

でもよく考えると、あいつが届けに来るのは珍しい。

ミシュリはあの様子でも一応、エルテ組合のトップに近い存在だ。低層の者の欲求を聞くような人ではない。

となると、悪戯では無さそうだな……。

あとからエルテのトップにつべこべ言われるのも余計に面倒だ、行ってやるか。

自分で言うのもあれだが、ワウモス区の中では魔力が強いのもあって、色んな人に顔を知られている。

だから手合せの申し出は多い。ほぼ断っているが。

そして、ワウモス区の二大勢力である「エルテ組合」と「カグラ団」のトップに目をつけられているのも確かだ。

あたしはどちらの勢力にも入る気は無いが。

手紙を読み終えた頃、ユワが帰ってきた。


「ただいまー!」


「おう、今度はあたしが出ていくから留守番よろしく」


「なんかあったの!?」


「……いや、ちょっとな」


「了解だぞ!」


「え、珍しいな」


「何が珍しいの!?」


「いや……素直に聞くの珍しいなって。いつもだったらすぐ反抗して仕事押し付ける癖に」


「そーかなあ。ボク、いい子だから当たり前だぞ!」


「なんのジョークだ?」


「ひどいなー、ボクのこともう少ししっかり見てみなよ」


ユワと一通りの会話をした後、ドアに「CLOSE」の看板を掛ける。約束の時間まであと少しだ。

もう少し伝達を早くしてくれれば良いんだけどな。そんなこと知ったことは無いか。

ネオンの光と罵声がこだまする中、路地裏を通り約束の場所へ向かう。

少しずつ喧騒は遠ざかり、やがて無音となった。

908の部屋はコンクリート造りの何も無い部屋だ。しかしその割には広さはある程度確保されているため、小規模の闘技場として使われていることもしばしばある。

薄暗い路地裏に、妙に目立つドア。あたしはその前に立った。


「差し出し人は居るか?来てやった、ミルエッテだ」


部屋の鍵は開いていた。部屋には誰も居ない。

悪戯だったのか……?


その時だった。黒い影が一瞬見えたかと思えば、その影は背後に気配を移した。あたしが氷刀を生成しようとした頃には、もう遅かった。


「思ったより弱いねえ、ワウモスの死神さん」


首に毒の鞭を巻き付けられ、呼吸が出来なくなる。何故あたしが死神だって知ってるんだ……!?

それにこいつ、速い上に魔力も並大抵ではない……!


「うっ……おま、あのなあ……っ」


目の前にいる、差し出し人と思われる人は小柄な少年だった。金色の瞳は意地悪く笑っていた。

少年はあたしの顔を覗き込むと、鼻で笑いながら言った。


「残念だな、俺は手合わせを楽しみにしてたんだけど……とても残念だ」


やっとの思いで鞭を解き、こちら側も応戦する。氷刀を生成し、少年目掛けて振り下ろす。

しかし、少年は姿を消したかと思えば、その気配を背後に現した。そして同じようにまた……!


「楽しませてもらおうか」


少年がそう言った時、首に巻きついた鞭が毒を帯びながら爆発した。

あたしは地に倒れ込む。口から赤いモノが飛び出し、首は爛れている。

ヒリヒリとした鉄風味の口を動かし、少年に訊ねる。


「お前……ただのモブではないよな。何のためにこんな事をしてるんだ……?」


少年はこの赤い物体の発言を他所に、笑っていた。


「よっわ!死神の末裔とか聞いて手合わせしようと思ったのにこの有様、だっさ!」


こいつ腹立つな……。

ん?死神の末裔?やっぱりさっきの発言、聞き間違いじゃなかったのか。


「死神の末裔だということを何故知っている……?」


すると少年は更に意地悪そうな面構えで答えた。


「さあ?なんでだろうね?」


そして続けて言う。


「ま、俺はモブではないってことだけ伝えておこう。見りゃわかると思うけどさ」


「・・・・・・・・・・・・なら何者だ? 名前も聞いていなかったよな」


そう訊くと、少年は腕に着けた時計を一瞬見た後わ ざとらしく言った。


「あぁ、もうこんな時間だ。そういう話はまた後で しようじゃないか」


「あっ!待て!」


「あと、今あったことは口外しないようにな?もし 言ったら・・・・・・な?」


そして彼は行ってしまった。 口の中は鉄臭かった。毒に侵食されかけた身体を持ち上げ、よろよろとした足取りで喫茶店の営業に戻る。


本当に狂った人がワウモス区に来てしまった・・・・・・。 そう思いながら喫茶店のドアに 「OPEN」 の看板を 掛け直し、帰宅する。


「戻った。ユワ、店番しっかりやったか? サボって ないだろうな」


「うん!もちろんサボってた!」


ドヤ顔のユワ。満面の笑みで言うことじゃないだ ろ。


「でねでね!エルテ組合に新しいメンバーが来た の!」


「そろそろこのカフェに来るはずなんだけど、まだ かな!?」


「ここはエルテの集会所じゃないからな、勝手に集 まりやるな……ん?」


ドアのベルが鳴り、客が来店する。


「あ!この人、ソルベスって言うんだぞ!エルテ組 合の新しいメンバーだ!」


「「え」」


そこに居たのは――数十分前に見た顔だった――


「「なんでお前が居るんだよ!!」」


不思議な程声がシンクロしてこだまする。


・・・・・・こりゃ面倒な事になってきた・・・・・・。

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ワウモス区守備計画! 趣味程度。 @syumi_teido

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