第69泳
荘厳な雰囲気を纏う法廷だが、裁判長のナンデモオコルが「以上!」と号令をかけた途端、傍聴席の人々はおしゃぶりをペッと吐き出すか嚙み砕いて飲み込んでしまって、拍手と歓声を上げるのだった。中でもリムが嬉しかったのは、白や赤、金銀のかけらが撒き散らされたことだ。
結審したときはこうして、お祝いのかけらを蒔くのが習わしなのだ。ヘソを曲げる囚人もいるが、これからの活躍に期待を寄せるという意味合いでもあるし、また一つ大都市リュウキューウの治安が守られたという証でもあるのだ。
司法に勤める魚たちは、せっせとかけらをつついて食べている。リムも落ちてきたものを食べて、陽気にくるりと回った。その体は、ほのかに桃色に色づいていた。
「リム、なんだか色が出てきたね。背中のところ、少しだけ」
「良かった、良かったね、グリン。でも、おれはこうなるって知ってたんだ」
厳粛な雰囲気が一転して、耳にも目にも騒がしい法廷である。デッドとアライブの裁判官二人は、口角を上げ気味にして、まるで演者の一人のように騒ぎにやさしい眼差しを向けている。裁判長のナンデモオコルは、まるで慣れ切っているとでも言わんばかりに通常と同じ顔色で、何やら手元の紙を見つめているのだった。
この裁判長ナンデモオコルが管轄する司法は評判の良い区域である。彼女の結審の評価が高いのは、揺るがない公正さはもちろんのこととして、「正義の手」を携えたカリスマ的な要素もある。それによく重く響く歌声のような話し方が、悪人の心の中にまでじんわりと染みるのだという。
グリンとリムは、あの金属の巨大な扉を二人のためだけに開けてもらって外に出た。ポシェットの中には紹介状とユキの肖像画、大都市リュウキューウとこの海域の地図、空の小瓶、コンパスが入っている。でも、ユキにもらった布は騒乱の中でどこかに行ってしまったのか、このままでは海藻とリムがまるだしである。
「どうしようか。リム、また小瓶の中に入って、髪の中に隠れていてもらおうか」
「そうするしかないなあ。おれは背中の方が良いんだけど」
そのとき、向こうからバハラ婦人が大急ぎでやってきた。
「ちょっと待ってちょうだい。新しい色の海藻が手に入ったものだから、誰かへの贈り物に使いたいと思っていたのよ」
バハラ婦人は良い人そうな丸顔をくしゃっとさせて、手触りもなめらかな布をくれたのだ。こんなに気の利いたプレゼントはなかった。グリンとリムの旅のはなしを聞いて、二人が布を失くしたことを知った婦人の親切である。
「ありがとう、バハラ婦人」
二人は丁寧にお礼を言った。
安心かつ嬉しいことに、リムは海藻ごと背中に隠れることができた。それはユキにもらった布ではなかったが、バハラ婦人が二人の友情を祝してくれた物だ。海藻を編んだ落ち着いた緑色の下地に、太い毛糸ほどの赤、青の線が何本も入れ込んである。背中を覆ってみると、なんだかこじゃれたグリンに早変わりしたのだった。
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