第68泳
グリンの頭の上に、やさしい声が降った。
「そうだったのね。そう言ってくだされば良かったのに」
しっかりと謝っても、許してもらえるとは限らない。それは相手が決めることであるし、グリンが期待していいものではない。
しかし今回は、バハラ婦人はグリンを許してくれたのだった。穏当な性格の婦人ゆえの決断で、それが友人の多さを呼んでいるともいえる。
結審のとき、リムとグリンは同じ法廷で再会した。二人は法廷で目配せして、お互いの無事を目で喜んだ。
リムは結審のときにお喋りをしたら退出させると念を押されていたから、口を縫い合わせたように静かにしているに決まっていた。ここでグリンの重要な瞬間に立ち会えないとあれば、友人の沽券にかかわる。
裁判官の前には例のイソギンチャクのレミュウがうなだれて椅子におり、そしてバハラ婦人がグリンとリムにあたたかい眼差しを向けている。
そして、サンゴのおしゃぶりをした聴衆が、事のなりゆきを厳粛に見守っていた。
判決を読み上げは、このように行われた。裁判長のナンデモオコルは豊かな声を法廷中に響かせて、それはグリンにとって、頬の肉まで揺れると思われた。
「この件に関しては、グリン、お前は無礼なイソギンチャクから友人を守ろうと奮闘した結果であると認めよう」
リムの尾がパタパタ、グリンの目は安心にぐっと見開かれた。
「レミュウ、お前はグリンがリムを助け出してくれなければ、手を残さずそぎ落とすところだったぞ。前科もあることだしな。お前は不快に相手をびっくりさせたことでしばらく牢の中で反省だ。旅の身分のグリンとリムを襲撃した罪は重い。期間は本日より、三回目に月が満ちる最初の日までとする」
レミュウのレモン色の手が、だらりとしぼむ。
次に泥棒の件には、ナンデモオコルはこう言及した。
「グリンは友人を介抱しようと、手ごろな巣穴に飛び込んだつもりでいたらしい。それが婦人の家であり、結果的にびっくりさせてしまったことになる」
そしてグリンをギロリと睨みながら言った。
「しかしどういうことだ。グリン、お前は婦人をびっくりさせておきながら、説明もしないとは。問題なのはそこだ。故意でないならせめて説明を尽くせ。さぼってんじゃないよ!」
法廷自体に揺さぶりをかける声量だ。もちろん心もビリビリと震えた。
「しかし、バハラ婦人はお前を許した。グリン、お前を釈放する。この大都市リュウキューウの規則が分かっただろうから、今後はしっかりと気を付けるように。リム、お前も釈放だ。二人とも、司法に世話になるときは隠し事はなしだ」
リムは躍り上がって、喜びを全身で表現したし、グリンはやわらかい笑顔を浮かべた。
「やったね、グリン!」
小声でそう交わす。
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