第55泳

 大都市リュウキューウが見えてきたとき、それはそびえたって蛍光色に光る、たくさんの鍾乳洞のようだった。近付くにつれて、その途方もない巨大さが分かる。

 グリンが見上げても、見上げきれないほどの高い壁だが、それらは大まかに円形を描いている。木の幹が元になっていると言われれば確かにそうだが、あまりに古い話であるし、その面影は情報を与えられてはじめて、なんとなく感じられるほどだ。

 その幹たちは、色とりどりに飾られている。よく近付いてみると、一つひとつはイソギンチャクであったり、染色された布を貼っていたりするのだった。


 大都市全体を見渡せる場所などどこにもない。あまりに広く、幹の高さもまちまちで、時には幹から幹にロープや布、渡り廊下を築いている箇所もあり、ごちゃごちゃしているのだ。


 リムは気を引き締めて、海藻を口にくわえている。

 グリンは近付く前からよく地図を見て、コンパスと合わせて、医師・ナンデモミルの家に無駄なく接近した。


 大都市リュウキューウの外輪に当たるその幹は、やはり高くそびえ立っている。とりわけイソギンチャクの多い場所だった。

「おい」

「なんだよ」

「男の人魚がいるぜ」

 幹に張り付いたイソギンチャクたちが、コンパスと地図に頭を悩ませるグリンに注目した。


「なによ、男の人魚?」

 女の人魚がイソギンチャクの会話を聞いて、幹に空いた小さな穴から目元だけを覗かせた。

「ああ、珍しいのね。男かあ。貧乏そう。あはは」

 やけにはしゃいだ声である。けなしながら、金の目はグリンを捉えたままだ。


 青緑色の髪、難しい表情、細長い指の右手に、反対に短く太い指をした左手。

 グリンが知らなかっただけで、大都市リュウキューウの側からはこんな問答が無数にあったのだ。

「ねえ、あれ『正義の手』じゃない?」

「うわ、ほんとだ。左手だけだけど」

「じゃあ、司法に加わりに来たのかな」

「そうじゃない? 一人増えるってこと?」


 指が太く短い手のことを、大都市リュウキューウでは「正義の手」と呼ぶのだった。


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