第47泳

 グリンとリムはマリンたちのこうした働きの甲斐あって、人魚の街へ戻るべく進む。


 大輪のサンゴ礁からマリンの家までは、いつもの雑多で陽気なおしゃべりがなかった。そのせいでなんだか長い旅に感じて、力強い海流に逆らっているかのように泳ぎも進まない。


 飛尾のおかげで中断されただけで、問題は解決していない。

第一に、大都市に連れていきたくないグリンと、海藻に住んでいたいリムである。

第二に、大輪のサンゴ礁に住んでほしいグリンと、これまで通りを望むリムである。


 大都市リュウキューウをうろうろするのは、土地勘のない人魚にも難しい。災難は弱い者には特に強く降りかかるものだから、小魚の目にはひとしお、大きく感じられるだろう。

 そもそも人魚の背中で天敵なしに守られ、食事付きの生活を送ってきたリムに、今さらこれ以上の水準など見つかるだろうか。これ以上のものと思って辿り着いた大輪のサンゴ礁を、リムは頑固にはねつけたのである。


 長旅を背中で過ごす時間は、おしゃべりなリムにとってこれ以上ない苦痛でもあった。それでも大輪のサンゴ礁はどうしても好きになれないし、人魚の街へ行ったときのように海藻をしっかりくわえて黙っていれば、なんの不足もないと思うのだ。

「グリン、おれはそう思うよ。ちゃんと静かにしてるから、大都市リュウキューウにも連れてってくれよ」

 リムは何度か、グリンに冷静に頼んでみた。サンゴ礁では大声で、尾もヒレもピンと突っ張るくらい叫んだからいけなかったと思った。落ち着いて話せるところを見せれば、グリンも安心すると考えた。


 ところが、グリンは「うん」とは言わない。

 それで結局、ケンカになってしまうのだった。

「なんだよ! おれは、できるってば!」


 グリンの方は泳ぎながらコンパスを見るので一生懸命なふりをして、会話を打ち切った。なんにしても、他の人魚に相談してみないと、自分ひとりでは解決先が見つからないと分かっていた。


 でも、それでも、方法がなかったらどうする?


 マリンの家に戻ってきたとき、そんなことを考え通しだったグリンはへとへとだった。およそ不尽と思われるエネルギーに愛されているはずの人魚は、疲れ切っていた。

 シズルに迎え入れられ、ハンゾーがグリンの後頭部を押さえつけてワサワサと海藻をかきわけているときも、普段に輪をかけて大人しかったのはそのせいだ。


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