第46泳

 芸術品のような姿をしたマリンはいつものハンモックに腰かけることもせず、前に差し出した両手に飛尾を乗せて、プニプニの質感をそれとなく味わっていた。

 魅せられることには特別疎い飛尾だから、こうしてマリンに見つめられてもどうということもない。それどころかしっかりと見つめかえして、エヘンと得意気に営業を始めた。

「ピカピカ、たったひとつから!」

 料金の話をしつつ、飛尾の小さく凹んだ目にはマリンのまつ毛に光る、極小粒の宝石が映っていた。

 大粒の真珠で支払おうとするマリンに、飛尾は澄んだピンク色の輝きを放っているまつ毛の上の宝物を要求した。

「困ったわ。これはくっつけてあるから、簡単にはとれないのよ」

「そのピカピカが、良いで、ござい!」

 マリンは飛尾を小机の上に降ろし、ガラガラ声で繊細なものを欲しがる様子をなんだか可愛いと思いながら、まつ毛の宝石にそっと触れてみた。これは入念に接着したところだから、なおさらとれそうもない。


「そうね、同じものをあげるわ。それも、いくつかあげる。それで、速達で伝言してくれる?」

 シズルがその言葉を聞いて、別室からすばやく小袋を持ってきた。その中から三つのピンク色の「ピカピカ」が選びとられた。飛尾はがまぐちを大きく開けてカメレオンのようにすばやく舌を伸ばすと、宝石をペロリと飲み込んだ。


 ここで飛尾について少しだけ触れておくと、飛尾は何頭もいる。みんなが同じ「飛尾」で家族が多い。見た目は本当によく似ているが、並べてみると差異が分かる。


 マリンからの伝言を仰せつかった飛尾は、しっぽを左右にうねうねと動かして、魔球のように自在かつ高速で任務にあたった。

 本来なら、届け先が移動し続けるとあれば仕事の難易度も高い。飛尾はポコリと凹んだ耳の穴から、海水の振動をしっかりと気にしていた。

 大輪のサンゴ礁を目指していくが、そこにグリンがいなければ、大都市まで超特急で向かうつもりであった。そうでなければ、お代を返しに戻らねばならない。


 疲れ知らずの体力である。飛尾はその特別な耳のおかげで、遠くの声も拾う。大きな魚に出会わないように、危険なものの視野に入らない程度の迂回ルートをとった。


 誰にとっても幸運なことに、グリンの小さな尾も猫背は、はやい移動に適していない。


 飛尾は、大輪のサンゴ礁でグリンとリムを見つけたとき、仕事がずいぶん楽だと思った。

 元気もまだまだあったから、うんと大声をがなりたてて宣伝してやるつもりでいたし、それで二人がびっくりした様子が最高のごちそうになった。


 しっぽをうねうね動かして、飛尾は人魚の集まる場所へ行く。

 実は、腹に宝石がいくらか貯まると家族の元へ向かうのだが、まだまだお土産が足りないのである。


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