第42泳
石像のようになったグリンに、飛尾は大満足である。パラシュートで着地するようにグリンの前に降り立って、得意気に顔を見上げる。
背中から躍り上がったリムがおでこに体当たりしてはじめて、グリンの硬直が解けた。
「逃げなくちゃ! 逃げろ!」
クリーム色の胴体にくっついた、少し薄い色のヒレはバタバタと暴れ、ロケットのようにグリンの周りを移動する。
「グリンとリムに、マリンから、急ぎのおしらせでござい!」
飛尾は元気よく続けた。
「読み上げます! 『大切な従兄弟のグリンへ。可愛いリムもいっしょに、まちにもどってきて。おおいそぎで。マリン』以上でござい! 以上でござい!」
黒いからだがツヤツヤしている。仕事をやりきった充足感があらわれているようだ。
マリンが飛尾に伝言を頼んで、グリンのもとへ遣わしたのだった。人面に似た顔を持つ飛尾は、伝言の仕事をもらうために、人魚の集まる場所によくやってくる。しかしそれは、街の歴史や人魚の寿命と比較して、最近はじまったばかりだ。
しばらく街から離れていたグリンは、飛尾はもちろんはじめてである。
「色んな生き物がいるんだな」
グリンは呟きに、飛尾はニコニコして言った。
「家族へのメッセージ、デートのお約束、おしらせはなんでも、飛尾におまかせで、ござい!」
敵意なしと見て、リムはこわごわ近付いてみることにした。どこもかしこもツヤがあって、目は細い棒で押し込められたような穴がそれらしい。鼻の穴も二つ開いていて、耳のあたりにもまた穴がある。
そしてがまぐちのような口からは、うるさいくらいの声が出る。
「すごい声だ」
最高の誉め言葉に胸を張るあまり、少し反りかえっているくらいの黒々とした体だ。
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