第39泳

 サンゴを足元に敷いて、海藻が好き勝手に生えているところだらけだ。色の絵の具を好き勝手に垂らしたような、にぎやかで統一感のないその一画に、グリンは降りてみることにした。

 海藻は色の幅に恵まれているだけでなく、長短も様々である。爪の先から肘くらいまでのもの、グリンの身長を越えるもの、このような種類の海の植物は成長がはやいから、大きさで歴史は計れない。


 色彩の中を、青緑の髪に難しい顔をした人魚がゆっくりと降りてきた。

「人魚だー!」

 そのあたりにいた魚たちは大慌てで、叫びながら散らばっていく。

「うわあ、逃げろ!」

「はしれ、はしれー!」

 グリンはすまなさそうに言った。

「ごめんよ、少し、場所を借りるよ」


 ここなら、外敵から隠れるところも山ほどありそうだ、とグリンは思った。

 現に、先ほど逃げていった魚たちが色つきの海藻の陰で息を殺している。好奇心からか、うまくのぞき穴を作って見守っている者もいる。


 グリンは、彼らの大切な住みかにそっと膝をついて、背中の布をとった。リムは戸惑いながら、勧められるままに、新居候補の様子を伺うことにした。


 太く緑色の海藻から、桃色の細い海藻が生えている。そうかと思えば、毛細血管のようにごく細い線が、やたらと枝を伸ばしているものもある。

 ここには、へんてこな海藻が目白押しだ。やわらかいもの、かたいもの、甘いものもあるだろう。


 リムは浮かない顔をしながら海藻に進み寄ると、小さな口でちょん、とつついた。食べることはせずに、やっぱり困った顔をしている。

「グリン」

 それからグリンの顔のちょうど前までやってくると、神妙な感じで言った。

「おれ、ここ、いやだよ」


 こうしてケンカがはじまった。


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