第38泳

 それにしても、とグリンは考えた。ここは冷たくて、あたたかい海とはまるで遠い。こんなところに、本当にサンゴ礁が根を張るほどの温暖な場所があるのだろうか。

 その場所だけがあたたかいのだと、マリンとシズルの言葉を思い出す。


「んっ」

 グリンが唸った。

 額に、ぬるい温度が一瞬、掠めたのだった。どれだけ目を凝らしてみても、下は没個性的な苔ばかりだ。先ほどの感覚は気のせいかとも思ったが、それでは困るとも思った。もうそろそろ、新天地の輝きを感じられても良い頃だ。


 やがて頬に、首に、あたたかい水流が当たり、ついには全身がぽかぽかと包まれたとき、グリンは嬉しかった。

「すごいぞ。リム、住みかが近い」


 安心するグリンの声を聞きながら、リムは細い海藻をほおばって、わがままを言った。

「ふうん。グリン、おれはここより美味しい海藻じゃないと嫌だぞ!」


 北の海に、楽園があるとしたらどうだろうか。


 マリンとシズルが話したもの、そのままの楽園である。海面近くまで上ったグリンは、見下ろして驚いた。ひまわりのように開いたサンゴ礁が、視界いっぱいに、豊かな色で賑わっている。どこを見ても、同じようなものがない。

 真ん中は白く、なだらかな山になっていて、そこから暖気というか、熱気を感じる。山の周辺を取り囲むように、温暖さを好むサンゴ礁や、海藻が方々に手を伸ばしていた。


 サンゴ礁としての歴史はまだ浅いのか、平たいものも棒状のものも、頭が低い位置にある。サンゴは成長するにしたがって海面までせりあがってくるはずなので、背が低いということは、わりあい、できたばかりということだ。


 想像したよりも、ずっと多くの魚たちが住んでいるとあって、グリンは安心した。だから明るくなった気分のまま、リムに言う。

「すごい、リム、きっと素敵な家が見つかるよ」

「ふうん。そんなにいいの?」

 リムは背中から、どうともとれる調子で返した。

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