第33泳

 マリン、シズル、それにここまで引き合わせてくれたユキの三人とお別れし、グリンとリムは、まず大きなサンゴ礁と岩場に寄ることにした。


「じゃあ、本当に、色々世話をしてくれてありがとう」

 折り目正しく、グリンが言った。背中から、リムもさよならの挨拶をする。

「じゃあね、綺麗な人魚さんたち。真珠みたいな目が良かったよ! それから、ぼうっとなったのを起こしてくれて、どうもありがとうございました」


 マリンはやはり愛らしさを感じて、まぶしそうに目を細めて笑った。

「まあ、真珠の目はグリンも一緒じゃないの。いとこ同士だからか、似てるところもあるのよ。よく見せてもらうことね」


「道中、気をつけて」

 シズルも見送った。からっとした笑顔のまま、ついに三回目になる気付けのまじないをユキにかけた。


 我に返ったユキの先導で、グリンと布の下のリムは、北へ向かう最寄りの出入り口まで送り届けられる。


 上位三番目のレッスンコース、アギジャビヨイコースを受講できるとあって、高揚した気分そのままに饒舌なユキがいた。

 グリンは背中に布を被せて、リムは海藻を口にくわえて楽をしながら、家々の頭の上を泳いでいく。

「もう、恥ずかしかったあ。当てられすぎだよねえ。有名人さんが綺麗すぎるんだよ。髪の色、見た? あれどうやってやるんだろう。こっちの髪ももっと伸ばさなきゃ!」

「難しい色の髪だったね」

 グリンは言いながら、従姉妹の髪を思った。カラフルな色をふんだんに、複雑な編み目の刺繍を纏っているかのようだった。美に興味が惹かれないグリンにも、不思議に気品のある感じを与えていた。


 人魚の髪を長く伸ばすというのは、大変な作業だ。

 髪への刺激を避けるためには、思い切り泳いで、頭に水流をぶつけることもままならない。

 切れ毛や枝毛にならないよう、髪の質を保つ方法は何通りもあるが、寿命の概念が薄い人魚には、定期的な手入れというものは負担である。


それだから、長い髪は努力の証として、美しさの象徴として知られている。


 ユキが受講するアギジャビヨイコースは、なんと泊まり込みで、マリンにしごかれることが決まっているのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る