第32泳
リムを大都市まで連れていかない方針については、グリンも同意見だった。
「長い旅になりそうだから、どこかリムにぴったりのすみかが見つかるだろう。どこかないかな」
そう言って、もらったばかりの地図を開く。
この街より北西に、大きなしるしが展開されているところを、マリンとシズルが指さした。
「とにかく不思議な形のサンゴや、海藻が多いの。海面近くまで上がって見下ろすと、まあるく広がっていて、お花みたいなのよ」
うっとりと、マリンが言う。
「大きな岩場もあって、小さいのも大きいのもいるよ。みんな好き好きに住んで、出てきては食事してる。マリンさんと、観光で見に行ったんだ」
シズルの言葉に、グリンは何度かうなずいた。
聞けば、同じ大きさの魚たちで住みかがなんとなく分かれていて、孵化したばかりの稚魚はサンゴ礁からミルクをもらえるし、もう少し大きい、リムほどの魚は仲間同士でまとまって、海藻をつついているらしい。
「面白い場所だったよ。なんだかそこだけ、あたたかくて」
「シズルったら、どうしてなのか調べたいなんて言って、大変だったのよ。ふふ」
地図を見ると、他にも大きな岩場はあっても、サンゴ礁まで備えたところは他にない。サンゴはあたたかい場所で育つものだから、ここに生えているということは、きっと春みたいな水温なのだろう。
年がら年中、冷たくならない場所にのみ、サンゴは咲く。
サンゴ礁生まれのリムがどんな種類の魚なのかは不明だが、少なくともあたたかいところは住みやすいのだろうと考えられる。
まっすぐ北上した先にある大都市を考えると、そこへ寄ることは少し遠回りをすることになる。それでも、花のような大輪のサンゴ礁と岩場があり、多様な海藻が生えているならば、リムの素敵な家になるに違いない。
さみしさがチクリと胸を指すが、友だちの幸せを願うグリンだった。
「おれは美味しい海藻があって、隠れられるところがいいんだ!」
海藻で目を覆いながら、リムが主張した。言いながら、グリンの背中ほど良い条件の場所など、見つからない気がしていた。
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