第31泳

 マリンが医者の情報について話したところによると、ここからちょうど北に、この名もない街とは比べものにならないほどの、リュウキューウという大きな都市がある。

 そこは巨大なイソギンチャクや魚を食べる人魚がいて、リムには危険な場所だ。

 しかし、権威のある医者が団体を作って活動している場所でもあり、日々、たくさんの患者を診ているはずだから、きっとグリンの健康にも一役買ってくれるだろうと言う。


 従姉妹のマリンは、グリンが無事に医者に会えるよう、五つの道具をくれた。


 一つ目は、腰に付けるポシェット。グリンは物を持ち歩けるようになった。

 二つ目は、医者への紹介状。これがあれば、マリンの口利きということで大抵の医者が診てくれる。

 三つ目は、このあたりの海域の地図だ。

 四つ目は、コンパスである。スイッチを押せばほんのり光り、暗い海でも方向を見失わない。

 五つ目は、小瓶の気付け薬をくれた。

 グリンはポシェットに、紹介状と、地図とコンパスを大事にしまった。


「こんなにたくさん。すまないね。ありがとう。高価なものだよね」

 申し訳なさそうに、グリンが言った。

「いいのよ。グリンはいつでも、大事な従兄弟だわ」

 マリンは美の研究のために旅に出ることも多いから、道具には不足がないように、予備の分まで用意している。その中でも性能良く、愛用している物のスペアをくれた。


 お返しにあげるものがないグリンは、大都市リュウキューウで、マリンへのお土産を探そうと思うのだった。

 真珠は手に入らないかもしれないが、外洋で素材を集めて、大都市で交換してもらってもいい。このあたりにない、珍しいものがいいだろう、とグリンは旅の目的をもうひとつ作った。


 従姉妹に会えるとは思ってもみなかった。会ってみると、幼い頃のやさしい気質そのままで、さらに立派な人魚になっていて、グリンは嬉しいのだった。

 人魚にとって時間はゆるやかに流れるものだが、なつかしく幸せなものが今でもここに、姿を変えても性質そのままに生きている。なんだか、それがやたらと胸に染みるのだ。


 マリンは、悲しそうに言うのだった。

「リムちゃんは、大都市リュウキューウには行かない方がいいわ。あんまり、危なすぎるもの」

 脳裏には、鍾乳洞のようにいくつもそびえ立ち、蛍光色のけばけばしい明かりを放つ家々が浮かぶ。小さく愛らしいリムは、とても生きていけまいと思うのだった。

 この街の人魚は、壺の下線に従って建築基準を守るような、良心的な人魚が揃っているが、大都市リュウキューウで生き物のこころの性質を信じるのは危うい。


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